カタパルトスープレックス

興味がない人は無理して読まなくていいんだぜ。

書評|コンサルと新自由主義の蜜月がいかに民主主義を弱めるか|”The Big Con” by Mariana Mazzucato

このブログを再開する前にウォルト・ボグダニック(ピューリッツァー賞三回受賞)とマイケル・フォーサイス(NYT記者)による"When McKinsey Comes Town"というマッキンゼー批判本を読んでました。そしたら今度はマリアナ・マッツカートの新著“The Big Con”…

書評|法学者の考えるサイバーセキュリティー|Fancy Bear Goes Phishing by Scott J. Shapiro

今回紹介する書籍"Fancy Bear Goes Phishing"はタイトルを見てピンとくる方もいらっしゃるでしょうが、その通りで、ハッキングについての本です。ただ、スコット・J・シャピロはサイバーセキュリティーについての著者としては少し変わっていて、法学者で前著…

戦争教育と相互理解について:映画『バービー』炎上の考察

映画『バービー』の日本公開前にX(旧Twitter)で公式アカウントが原爆を背景にしたミームにポジティブな反応をしたために『バービー』が炎上に巻き込まれました。この騒動では日米の戦争感の違いや問題解決のアプローチの違いもあり、お互いにモヤモヤした…

書評|AIはリベラルの夢をみるか?|"A Hacker’s Mind” by Bruce Schneier

ブルース・シュナイアーはセキュリティーの第一人者で「シュナイアーの法則」で知られています。 自分自身が破れないアルゴリズムを作って安心しているのは素人同然だ。 Anyone, from the most clueless amateur to the best cryptographer, can create an a…

書評|リック・ルービンが語る創造的活動とは|"The Creative Act" by Rick Rubin

リック・ルービンが過去40年で最も音楽に影響を与えたプロデューサーの一人であることに異論がある人はあまりいないでしょう。Def Jamの創設者としてのRun D.M.Cやビースティー・ボーイズ、パブリック・エナミーの一連の作品群。そのほかにもレッド・ホット…

書評|ChatGPTなどで話題のAIが発展するための本当のコストとは?|"Atlas of AI" by Kate Crawford

本書の著者ケイト・クロフォードはマイクロソフト・リサーチに所属し、AIを研究するAI Now Instituteの共同設立者でもあるAI研究の第一人者の一人です。それ以前は音楽家としても活躍していて、B(if)tekというグループのメンバーとしてアルバムもリリースし…

ブログの更新の再開にあたり、これから10年の重要アジェンダを考える

とても久しぶりのブログ更新となります。大きなライフイベントがあったため、日々の習慣が少し変化したのが原因です。それでもブログを書くのを辞めたわけではないです。ちょっと休んでいただけ。これから少しづつ、また書いていくと思います。これまで書評…

書評|東京大空襲と広島、長崎の原爆投下は避けることができたのか?|"Bomber Mafia" by Malcolm Gladwell

マルコム・グラッドウェルの新著は第二次世界大戦における爆撃機の歴史です。マルコム・グラッドウェルって英語圏では大ベストセラー作家ですが、日本での知名度は今ひとつですよね。それは、彼が書いた本の内容が悪いのではなく、なぜかダサい邦題が付けら…

書評|環境問題が原因で精子の数が毎年1%減少している……かも?|"Count Down" by Shanna H. Swan

環境問題に関する本が最近はたくさん出版されています。その中でもかなりユニークなアングルで切り込んできたのが今回紹介するシャナ・H・スワン著"Count Down"です。単にユニークなだけでなく、科学的なベースをしっかりした上で、センセーショナリズムに陥…

書評|人間の自然への関与はどこまで許されるのか?|"Under a White Sky" by Elizabeth Kolbert

今年に入って環境問題についての新著が増えています。いちばんの話題作はビル・ゲイツによる"How to Avoid a Climate Disaster"でしょう。この本もそのうち読んでみたいと思います。今回紹介するのはこのビル・ゲイツの環境問題本とほぼ同時期に出版されたエ…

書評|セックス(と性病)について語ろう|"Strange Bedfellows" by Ina Park

今回紹介するのは性病(STD/STI)についての本です。以前に紹介したドラッグについてのカール・ハートの著書"Drug Use for Grown-Ups"も同じですが、性病を禁忌として目を逸らしても何もいいことがない。これが著者アイナ・パークのメッセージです。正しい…

映画評|もう一つの『ブレードランナー』の映画化|"Taking Tigar Mountain" by Tom Huckabee and Kent Smith

今回紹介する"Taking Tigar Mountain"はトム・ハッカビーとケント・スミスが監督、ビル・パクストンのデビュー作でもあるSF映画です。SF映画ですが、低予算ですので特殊効果なんて一切ない。設定だけ近未来。SF映画というよりは、むしろ、アートフィルムとい…

映画評|ロバート・ダウニー・ジュニアのお父さんが作った早すぎたブラックスプロイテーション|"Putney Swope" by Robert Downey Sr.

今回紹介する"Putney Swope"はロバート・ダウニー・シニア監督(ロバート・ダウニー・ジュニアのお父さん)による広告業界風刺ドラマです。ブラックスプロイテーションはメルヴィン・ヴァン・ピーブルズ監督『スウィート・スウィートバック』(1971年)が最…

書評|メールや会議は仕事じゃない、もっと価値のある仕事をしよう|"A World without Email" by Cal Newport

前著『デジタル・ミニマリスト: 本当に大切なことに集中する』が日本でも翻訳出版されたカル・ニューポートの新著"A World without Email"は最近再び注目されつつあるeメールがテーマになっています。少なくとも英語圏ではHeyのような新しいメールサービスに…

書評|マインドフルネス入門書|"You Are Here" by Thich Nhat Hanh

ボクは宗教やスピリチュアルには縁遠い人間です。宗教やスピリチュアルを信じている人をバカにしたりしないけど、自分自身は信じていない。キミはキミ、ボクはボク。そんなボクにマインドフルネスは興味があるトピックではありません。なぜ、そんなボクがテ…

映画評|『インターステラー』のインスピレーション元のドキュメンタリー|"The Dust Bowl" by Ken Burns

ジェームズ・キャメロン監督が六人の映画監督にインタビューした『SF映画術』という素晴らしい本があります。その六人のうちの一人が今を輝くクリストファー・ノーラン監督でした。ボクはクリストファー・ノーラン監督作品が大好きで、おそらく全ての作品を…

書評|「仕事とは何か」をビッグヒストリー的なアプローチで解き明かす|"Work" by James Suzman

生産性は技術革新のおかげでかなり上がりました。しかし、それでも私たちは仕事をしています。生産性が上がって、仕事が減るどころか増えています。 ケインズは「生産性が上がり、2030年には労働時間は週15時間になる。21世紀最大の課題は余暇になるだろう」…

書評|孤独と新自由主義の関係性|"The Lonely Century" by Noreena Hertz

日本でも老人の孤独死が問題になっていますが、「孤独」は世界的にも問題なようです。イギリスでは孤独担当大臣が設立されたほど。孤独って主観的な感情の気がするのですがUCLA孤独感尺度が指標として使われることが多いそうです。日本でもUCLA孤独感尺度は…

書評|大人のためのドラッグ講座|"Drug Use for Grown-Ups" by Carl L. Hart

読者の常識に挑戦する本は知的な刺激を与える本です。考えが及ばなかった部分に光が当たる感覚。しかし、それは「挑戦」なので、拒否反応もあります。理屈はわかるが、信じたくない。受け入れられない。日本語でも著書が翻訳されているカール・ハートの新著"…

書評|情報の価値の測り方、経済的な情報開示ルールとは|"Too Much Information" by Cass Sunstein

今回紹介する"Too Much Information"は日本でも多くの翻訳が出版されているキャス・サンスティーンの新著となります。キャス・サンスティーンはノーベル経済学賞を受賞したナッジ理論で有名なリチャード・セイラーとの共著『実践行動経済学(原題:Nudge)』…

映画評|トーキング・ヘッズ『ストップ・メイキング・センス』のアップデート|"David Byrne's American Utopia" by Spike Lee

デヴィッド・バーンのアルバム『American Utopia』(2018年)を元にしたブロードウェイのショウをスパイク・リーが映像化した作品です。デヴィッド・バーントーキング・ヘッズを解散してから1990年代のソロ活動はあまりピンと来ませんでした。それが2000年代…

映画評|インドの実験的映像作家アミット・ダッタ|"Wittgenstein Plays Chess With Marcel Duchamp or How Not To Do Philosophy" by Amit Dutta

ボクはシネフィルと言えるほどは映画に詳しくないですが、それでもMubiに登録するくらいは映画を愛しています。Mubiは映画のサブスク(英語圏)で、ネットフリックスやアマプラにはないマニアックな映画を得意としています。あまりにマニアックなので、時と…

書評|新自由主義が生んだ独占企業群がみんなから自由と機会を奪っている|"Monopolies Suck" by Sally Hubbard

ティム・ウーは著書"The Curse of Bigness"(2018年)で独禁法に焦点を当てて、現代が独禁法以前の「金ピカ時代(Gilded Age)」に戻りつつあると警笛を鳴らしました。そして2020年にようやく司法省が重い腰を上げてGAFAの独禁法違反について動きを見せはじ…

映画評|サイレント映画での特撮の鬼才チャーリー・バウワーズ|"The Extraordinary World of Charley Bowers"

サイレント映画といえばチャーリー・チャップリン、バスター・キートンとハロルド・ロイドの「三大喜劇王」が有名ですよね。もう少しマイナーなところだと映画『僕たちのラストステージ』でその晩年が描かれたローレル&ハーディ(極楽コンビ)とかですね。…

2020年ベスト洋書|ベスト・オブ・2020

2019年はショシャナ・ズボフの"The Age of Surveillance Capitalism"やローレンス・レッシグの"They Don't Represent Us"が発表され、資本主義や民主主義の根本について多くの人が考え直した時期だったと思います。2020年の英語圏の書籍は、2019年から引き続…

書評|みんなの脳についての知識は意外と間違っている|"Seven and a Half Lessons About the Brain" by Lisa Feldman Barrett

ボクは脳についての書籍が大好きです。ジーナ・リッポンの"The Gendered Brain"もすごく刺激的でした。たぶん、脳は誤解が多い科学だから、その誤解を自分の中で解きほぐしていくのが楽しいんだと思います。へー、そうなんだ!日本でも『情動はこうしてつく…

書籍|能力主義と自己責任は正しいのか?|"The Tyranny of Merit" by Michael J. Sandel

2020年のアメリカ大統領選挙で負けたものの、なぜドナルド・トランプはこれほど多くの人を惹きつけるのか?なぜイギリス人はEU離脱を支持するのか?ポピュリズムと一言で言うけれど、なぜポピュリズムがここまで台頭してきたのか?ローレンス・レッシグが主…

書評|人間と機械の利害は合致できるのか|"The Alignment Problem" by Brian Christian

グーグルで人工知能(AI)の倫理を研究していたティムニット・ゲブルが解雇されたニュースは2020年の終わりのニュースとしてはかなり衝撃的に受け止められました。なぜか。職場における差別の要素もあるのですが、AI倫理の重要性がかなり大きくなってきてい…

2020年ベスト邦楽ソングス|ベスト・オブ・2020

2019年のボクのSpotifyプレイリスト(邦楽)は95曲でしたが、2020年のプレイリストは121曲でした。前回と同様、プレイリストに追加した順に27曲をリストアップしました。毎週新曲をチェックしているので、ほぼ2020年の発表順となっていると思います。 便宜上…

2020年ベスト洋楽ソングス|ベスト・オブ・2020

2019年のボクのSpotifyプレイリスト(洋楽)は279曲でしたが、2020年のプレイリストは246曲でした。前回と同様、プレイリストに追加した順に45曲をリストアップしました。毎週新曲をチェックしているので、ほぼ2020年の発表順となっていると思います。 今年…