今回はちょっと真面目な話なんで、そういうのが苦手な人はスルーよろしく😎!
ウォール・ストリート・ジャーナルに『ベンチャーキャピタルはスタートアップのCEOであるべき』というコラムがあって少し考えてしまいました。これを書いたスティーブ・ブランクは連続起業家という枠に収まらないスタートアップシーンに大きな影響力を持つ一人です。
ボクはベンチャーキャピタルのことはよくわからないのですが、スタートアップや企業のことはよくわかります。イノベーションを起こせる人材を求めていますよね。では、イノベーションを起こせる人材は何を持ってるのでしょうか?起業家精神?それとも起業家の手法?それを企業の中に浸透させるにはどうしたらいい?
起業家のような人材を企業に集めるにはどうしたらいいでしょうか?
- 外部から雇い入れる
- 内部の人材を育てる
まあ、この二つしかないでしょうね。2の話をしつつ、1の話も後半にします。
起業家精神と起業家の手法は違うよね!
起業家精神を持てというのは社畜になれというのと同義語です。それを意識していないのであれば非常に罪深いし、知ってて言ってるのであれば人間的に問題があります。
精神と手法の違い
まず、起業家が持つ精神と起業家が使う手法は別物です。起業家精神は企業にとって有用なものであるのは間違いありませんが、会社員は起業家ではないです。猫と犬くらい違います。どっち優れてるとかでなく、単純に違うんです。
起業家の精神
これは「お金を使って仕事をしている人間」と「お金をもらって仕事をしている人間」の差です。経営幹部も多くの場合は後者ですよね。前者って創業社長くらいなものですよ。
起業家は毎日自分の口座のお金がなくなっていくプレッシャーに晒されています。そして、そのプレッシャーに耐えながら、やりたいことを全て我慢して自分が信じることを実現するために何でもやります。文字通り何でもです。精神っていうのはこういう環境から生まれるものなんですよ。起業家は簡単に言えば社畜です。自分の会社で自分のお金だから社畜になれます。
起業家が成功し始めて社員を雇うと「どうしてみんな自分と同じ気持ちで働いてくれないんだ?」と悩んだりします。でも、よく考えてくださいな。無理ですぜ。まだ投資を受けていないアーリーステージの起業家は自分の資産で博打を打ってるようなものです。エグジットしたら大きなリターンがあるからできる。大きなシェアをもらっているパートナーだったら同じ立場ですが、たかだかストックオプションをもらった社員なんて同じ立場にはなれないですよ。ましてやストックオプションすらない普通の会社員に同じことを求めてはいけません。一生懸命頑張るとかいうレベルではないんです。
起業家の手法
起業家精神を真似ることはできませんが、起業家の手法は真似ることができます。そして企業に勤める会社員だからこそ起業家の手法は学びやすいんじゃないかと思います。だって、トレーニング予算があるでしょ?時間だって余裕だって起業家と比べればたくさんある。
起業家の手法とは具体的には以下の四つです。
- アジャイル
- リーンスタートアップ
- グロースハック
- デザイン思考
これをやれば必ず成功するというものではありませんが、成功する確率が高くなることをスタートアップが業界として学んできました。そしてワークショップを開催したりミートアップを実施したりして知識や手法を共有してきました。
この起業家の手法は企業でも取り入れることができますし、実際に取り入れられていますよね。
企業が起業家の手法を取り入れるための方法
よし!それならアジャイルに長けた開発者やグロースハッカーを雇えばいいのか!といえばそうでもないです。企業にはこれまでの蓄積があるし、やり方がある。そして、それは悪いことではないんですよね。これまでの文化や手法に新しい文化や手法を取り入れないといけない。そこで考えられたのがイノベーションラボという考え方です。
イノベーションラボの役割
まずイノベーションラボ自体はイノベーションを起こしません。「新しいことはあいつらに任せておけばいいや!」となってはいけません。イノベーションを起こすのは現場の事業部です。イノベーションラボはその支援をするという位置付けです。
イノベーションラボは企業によってはデザイン室と呼ばれたりイノベーションセンターと呼ばれたりしています。どんな呼ばれ方をしてもやることは大抵同じです。起業家の手法を企業内に浸透させるための触媒ですね。
欧米や東南アジアの金融業ならイノベーションラボがないところを探す方が難しいです。金融業はフィンテックのプレッシャーがあるので自分たちもイノベーションを起こしていく必要がある。でも、金融業自体は規制のものと活動するプロセスが確立した業界ですので、既存の枠組みや人材ではなかなか変えられない。
これは政府機関でも同じですね。私がいたシンガポールの政府機関にはデザイン室を置いていることが多かったです。デザインといってもグラフィックデザインじゃないですよ。デザイン思考のデザインです。GEなどの製造業もリーンスタートアップやデザイン思考を実践する組織があります。そういう組織を全部ひっくるめてここでは「イノベーションラボ」と呼ぶことにします。
イノベーションラボのメンバー
どんな大企業でもイノベーションラボのメンバーは多くて10人くらいですね。その代わり、アジャイルやデザイン思考、リーンスタートアップやグロースハックの専門家たちです。こうした人材は内部から採用するのは非常に難しいので、大抵は外部からの採用になります。
そして、一番大事なのはイノベーションラボを運営するトップです。この人は企業の仕組みを理解していないといけないですし、起業家の手法も理解していないといけない。そうしないとラボの運営がうまくいきませんし、専門家も採用できません。これも大抵は外部からの採用になります。このトップ人材はコンサルファームよりはデザインファームからの採用が多いですかね。コンサルファームは実はスタートアップ的なやり方知らないんで。
イノベーションラボのやること
たかだか10人くらいの組織で企業全体を変えることはできません。現場の事業部が変わらないと企業は変わらないです。イノベーションラボの位置付けは現場がイノベーションを起こす支援です。支援というのは 1) イノベーションを起こす触媒になってプロジェクトを生み出すきっかけを作ること。2) そして、プロジェクトが始まったら手法をハンズオンでスキルトランスファーすることです。最終的には現場の事業部の人たちが起業家の手法を取得してイノベーションを自分たちで起こせるようになるのがゴールです。
例えば人事とイノベーションラボが組んで幹部候補(Vice Presidentレベル)を集めたハッカソンを開催するとか。実際にボクは銀行内で開催されたハッカソンに参加させてもらったのですが、現場の人たちはイノベーションを起こしたいんですよ。でも、そのやり方がよくわからない。ハッカソンだとリーンスタートアップやデザイン思考の感覚をつかむことができる。ハッカソンでは具体的なソリューションを考えて実際にモノづくりまでしますので、新しいプロジェクトのきっかけ作りには最適です。
GEなどもリーンスタートアップやデザイン思考を取り入れたことで有名ですが、彼らも元々はイノベーションラボから手法を現場に浸透させていきました。エリック・リースのようなコーチも外部から招聘しました。
起業家の手法は座学では身につきません。繰り返しやらないと習得できないし、組織にも浸透しない。イノベーションラボはプロジェクトに張り付いてMVPを作ったり、デザインリサーチを一緒にしたり、ペルソナやジャーニーマップを作ったり、スクラムをやったりします。