カタパルトスープレックス

興味がない人は無理して読まなくていいんだぜ。

なぜブロックチェーンは自由なのか|第一回:ビットコイン前夜のサイファーパンク

f:id:kazuya_nakamura:20180629160906p:plain

今回の特集はブロックチェーンです。サイファーパンクからイーサリアムまでカバーする予定です。ブロックチェーンやビットコインについては技術面やビジネス面の解説がたくさんされています。しかし、その背景にある「自由」や関わる人たちの情熱はあまり理解されていません。

金盾やGFWの例をとって「中国のインターネットを管理されてる!」と言われることが多いですが、実を言えば私たちのインターネットも管理はされてないですが、監視はバッチリされてますからね。

暗号化と監視

暗号化はもともと主に軍事用に使われていました。初期の暗号化はカギがひとつしかありませんでした。閉めるカギと開けるカギが同じだからです *1。カギが見つかったら全ての情報が漏れてしまう。そうならないためにはカギの受け渡しには安全に受け渡しができる仕組みが必要でした。そういうことが出来るのはCIAのような諜報機関や軍隊だけでした。

そして、閉めるカギと開けるカギを別にする方法*2がイギリスの政府通信本部の盗聴部門によって1973年に編み出されました 。これは長らく公表されることなく、政府機関のみで利用されていました。

f:id:kazuya_nakamura:20180629164711j:plain

Street art by Banksy(クレジット:ロイター)

暗号化と自由

共通鍵に関する技術はMITとRSAが特許を持っていました。これを自由化するのがフィル・ジマーマンです。PGP(Pretty Good Privacy)というソフトウェアとして1991年に実装しました。これまでの暗号化技術と違い、諜報機関や軍隊のようなパワーのない普通の人たちも使えるものでした。しかし、政府はこれを危険視してPGPのアメリカの国外輸出を禁止しました。

せっかく自由を手に入れたエンジニアたちは黙っていません。暗号化技術のエンジニア達はPGPのソースコードを紙に印刷して書籍の形にしてヨーロッパに輸出しました。ソフトウェアと書籍は違う法律で管理されていたからです。書籍には「表現の自由」が適用されました。フィル・ジマーマンは5年間FBIに追いかけられることになります。

暗号学者たちの望みは非常にシンプルなものでした。郵便ですでに獲得しているプライバシーと正当性を電子メールでも実現したい。紙に書いた手紙を郵便で送っても中身は検閲されません。しかし、電子メールの場合は検閲できてしまう。実際にエドワード・スノーデンの告発でNSAによる個人情報収集のシステムPRISMがバレてしまいました。基本的に、インターネットで何をやってるか見られてますからね。ちなみにスノーデンは日本オタクで、日本のことをめっちゃ心配してくれています

サイファーパンクと自由

PGPが開発される前、デビッド・チャウムは1983年に匿名性の高い暗号化通貨のDigiCashを作り、1985年に論文「身分のないセキュリティー:権威を必要としない取引システム "Security without Identification: Transaction Systems to Make Big Brother Obsolete"」を発表します。ビットコインより随分と前の話です。そして、これがサイファーパンクの起源とされています。サイファーパンクは暗号化による匿名性が高い技術を元にした社会的、政治的な変革を目指すムーブメントでありグループでした。

しかし、DigiCashの問題点は中央管理されることでした。そこで、サイファーパンクたちは非中央集権的な方法を模索しはじめます。また、ハッシュやPoWなど重要な技術を発明していきます。

エリック・ヒュー、ティモシー・メイ、ジョン・ギルモア(トップ画像の三人。1993年にサイファーパンクとしてWiredの表紙を飾った写真を編集したものです)もサイファーパンクのムーブメントの中にいました。三人は毎月ジョン・ギルモアのオフィスで集まりました。そしてサイファーパンクに関するメーリングリストをはじめます。そして三人は「サイファーパンク・マニュフェスト」を発表します。これは暗号化と自由の関係を理解するのに非常に重要です。ちなみにWiredの記者の何人かもこのグループの一員だったらしいので、このような特集が組まれたんでしょうね。

プライバシーは秘密主義とは違う。プライベートなことというのは世間に知られたくないことで、秘密というのは誰にも知られたくないことだ。プライバシーというのは選択的に自己開示する力のことをいう。(原典:A Cypherpunk's Manifesto 日本語訳:ビットコインに実は40年の歴史【サイファーパンク宣言を読む】全文和訳掲載

このサイファーパンクの集まりには後のブロックチェーンやそのアプリケーションであるビットコインの開発に重要な役割を果たす人たちが参加します。

サイファーパンクの名付けの親はサイバーパンク系の雑誌として有名だった『Mondo 2000』の編集者だったジュード・ミルホンでした。

f:id:kazuya_nakamura:20180630003549p:plain

参考文献

From Cypherpunk to Blockchains - YouTube

The cypherpunk revolution

Bitcoin History: From the Cypherpunk Movement to JPMorgan Chase - YouTube

フィル ジマーマンのホームページ

関連記事

 

*1:技術的には対称鍵(Symmetric Key)と呼ばれるものです

*2:技術的には非対称鍵(Asymmetric Key)や共通鍵(Public Key)と呼ばれるものです