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イギリス行政コミュニティーによるサービスの作り方

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原文:"How cross-government communities can support cross-government services" by Tom Wynne-Morgan and Will Harmer

 ユーザーにとってサービスはシンプルです。車の運転を習ったり、ビジネスをはじめることなど。しかし、政府にとってそれらのサービスを提供することはもっと複雑です。

 なぜかといえば、サービスの提供には政府組織をまたがり多くの人が関係してくるからです。与えられた範囲内ではとてもよく働いているのですが、全体像が見えていないかもしれませんし、どうやって他の人たちとうまく連携するかもわかっていないかもしれません。

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 この問題を解決するためにGDSは政府機関の組織と協力し新しい連携の仕方の社会実験をはじめようとしています。異なるスキルを持つ人々、異なる政府部門からなる人のネットワークを作り、部門の壁を越えた「エンド・トゥー・エンド」サービスを改善しようとしています。このネットワークを「サービス・コミュニティー」と呼んでいます。

 私たちはすでにデザインやユーザーリサーチといった専門分野のための政府間のコミュニティーがあります。この新しい「サービス・コミュニティー」はこういった専門分野の壁を超えて人が集まってきます。コミュニティーに参加する人たちは自分達が携わるサービスのために集まるのです。

 私たちは「ビジネスをはじめる」コミュニティーでこのコンセプトをテストすることにしました。コミュニティーは英国歳入税関庁、労働年金省やビジネス・エネルギー・産業戦略省といった異なる組織から異なる役割を持つ人たちが集まります。これこそが私たちがこの取り組みをはじめた理由で、これまでの進捗状況でもあります。

コミュニティーのチカラ

 昨年、私たちは行政サービスがどのように作られていくのかを調査しました。この調査で分かったことは行政サービスを作る一貫した方法がないということです。その代わり部門ごとに異なるやり方が存在していました。そして異なる分野と役割には組織の壁が存在していました。例えばポリシーと運用です。

 政府のデジタル変革におけるGovernment Transformation Strategyにおいて「政府の異なる組織を通じて継ぎ目なく実行される公共サービスを構築」すると公約を掲げているため、この課題に取り組まなければいけないことは明白です。

www.catapultsuplex.com

 GDSでは政府機関の部門をまたがり「エンド・トゥー・エンド」のサービス開発を支援する取り組みをいくつも実施しています。例えば、サービス標準を更新して全体のサービスを視野に入れ取り込みました。私たちはGOV.UKにおける完全なサービスジャーニーを描くことをはじめました。そして官公庁が「エンド・トゥー・エンド」のサービスに関するデータを公開する支援をしています。

 私たちの「サービスコミュニティー」は特定のサービスを提供するあらゆる人たちを一つにまとめ、手助けをします。

 コミュニティーに参加する人たちは一貫した「エンド・トゥー・エンド」のサービスを作るために役立つことを共有します。それはユーザー・リサーチ、データ、バックエンドの技術といったものです。お互い動いているプロジェクトを更新し、共通の問題や欠陥について支援し合うことができます。

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ここまで何ができたか?

 私たちはこのアプローチを「ビジネスをはじめる」コミュニティーで試しています。ビジネスをはじめるジャーニーは比較的シンプルで、特定の部門に属していないからです。さらに歳入税関庁がすでにビジネススタートアップで取り組んでいたプロジェクトに乗っかることもでき、Transformation Peer Groupで召集された部門間のネットワークも活用することができるからです。

 コミュニティーには政策、戦略、デザインや管理といった様々な役割の人たちから構成されています。歳入税関庁、労働年金省、ビジネス・エネルギー・産業戦略省、教育省、企業登記局、国際貿易省、年金規制機構、英国商業銀行から代表者が参加しています。コミュニティーが成熟するとともに他の政府機関や政府の外部などからも参加を受け付けようと考えています。すでに食品基準庁や安全衛生庁と話をはじめています。

 私たちはすでにこのグループでいくつかワークショップを開催しました。ビジネスをはじめるためのジャーニーをマッピングし、コミュニティーの能力とギャップをみています。

 このグループはさらにコミュニティーのどのように持続性を可能にできるか検討しています。例えばどのくらい定期的に会い、組織化し、主体性を持つのかといったことです。

ここまで何を学んだか?

 行政サービスを作る上で課題があるのと同様、サービス・コミュニティを作る上でも課題があります。

 その一つがいくつかの部門をまたがる共通したコミュニケーションのチャネルです。たくさんのコミュニケーションの方法が使われていますが、全て共通して使えるチャネルがありません。

 また、サービス・コミュニティーそのものの大きさです。全員が定期的に会うことはとても難しいです。そのためにコミュニティーの中でユーザー調査などのサービス分野に焦点を当て小さなグループを作りはじめています。小さなグループで会い、その結果を大きなコミュニティーでフィードバックするのです。

 コミュニティー運営の方法を各省庁で統一的に行うことは難しいです。たとえば、政策の変更に数ヶ月かかる部門があれば、数週間で済む部門もあります。

 またサービスの提供が常に行われているため、空白期間がありません。全てを溜め込んで、それを元に完璧なデザインを行うということはできません。やりながら進めることを受け入れないといけません。

 これらのチャレンジじもかかわらず、政府間のコラボレーションの需要は非常に高く、「エンド・トゥー・エンド」のジャーニーマップの作成などのプロジェクトでコミュニティーがうまく働くことがわかりました。

次のステップは?

「ビジネスをはじめる」コミュニティーの会合は定期的に行われています。今年のプロジェクトの足がかりにするために「エンド・トゥー・エンド」のサービスマップを繰り返し改善しています。また、サービスに関するデータの共有のやり方やユーザーリサーチのサービスを超えた共有も検討しています。

 サービス・コミュニティーのコンセプトを押し進めています。すでに政府間の連携のための同様な取り組みは多くあり、そのようなプロジェクトとも連携を進めていきます。

訳者からの解説

 The Government Transformation Strategy 2017 to 2020においてイギリス政府は、2020年までに目指す方針の1つとして「共通言語、ツール、テクニックを構築し、官公庁をまたがる大きな変革へのアプローチ方法や民間部門からの学びなど知識と経験を共有するために各省庁をまたがる仕組みを確立する」ことを掲げています。

 国民の視点から考えてみると行政サービスは部門毎には別れてはいません。むしろ継ぎ目なくお互い隣り合わせのような一方、現実として行政組織はそれぞれ別れています。そんな背景のなか行政サービスをつくっていく難しさをどのように乗り越えていくのか。

 一つの方向性としてGDSが見出したのが「サービス・コミュニティ」の力でした。民間とだけでなく行政内でも協働する時代。部署や部門を越え様々なバックグラウンドを持ったヒトが自然発生的に集まるような動きが行政内にも少しずつ生まれているのでした。日本もイギリスと同じ議院内閣制をとる国ですが、デジタル時代の波に行政や政府はどのように対応していくか少し先を行くイギリスから学ぶタイミングが再び来ているのではないかと思います。

池田達哉

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