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フィンテック革命が失敗した理由

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Verizon、AT&TとT-Mobileが2010年に共同で立ち上げたモバイルペイメント。その名も『ISIS』...いや、マジで。その後、こっそり『Softcard』と名前を変えて2015に終了。

原文:"Fintech, a Failure?" by Jake Fuentes

ソフトウェアは世界を飲み込む」という宣言がされた2010年にはモバイルとクラウドの波がすべて変えてしまうのではないかと思えた。交通やホテルやその他多くの産業をテクノロジーが混乱に落とし込み、シリコンバレーは次の獲物を探していた。ノロマな60兆円の王冠をかぶった怪物。それが銀行業界だった。

 この獲物は十分に熟れて食べごろに見えた。サービスが普及しているにもかかわらずユーザーから非難されている徹底的に老朽化した固定費の高い産業。 更にリーマンショックから回復したばかり。銀行の過ちが大きく経済を後退させたのをみんなが目撃したばかり。時は来た。シリコンバレーは動きはじめ、VCはテクノロジーを使ってファイナンスを変革するスタートアップを追い求めた。そしてフィンテックが生まれた。

 その7年後の現在。SquareStripeがペイメントでブームを巻き起こし、WealthfrontBettermentが投資管理に挑戦し、テクノロジー業界はBitcoinに夢中になっている。しかし、アメリカのリテールバンクの領域はそのまま手付かず。むしろ、もともと強力だった伝統的な金融機関はより強力になった。一時期もてはやされたLending ClubProsperは苦戦している。勝者は確かに存在するが、テクノロジーは本当の意味において銀行に革命を起こさせていない。フィンテックは既存の銀行をぶち壊すのではなくパートナーとなることを選び、VCの投資もより有望な分野に移りつつある。

 ひょっとしたら成功すべきスタートアップは現れてないだけなのかもしれない。それにしても、当時に描かれた夢の2017年と現実の2017年はかなり違う。当時の神託は実現されていない。モバイルペイメント、オール・デジタル・バンキング、新しいクレジット・モデル、真に包括的な金融システムが実現されるだろうと。そのビジョンが完全に荒れ果てているわけではないものの、なぜ期待されたディスラプションを(まだ)起こせないのか考察する価値はある。

預金口座とパーソナルファイナンス:サプリ問題

評価: F (もちろん主観的なもの)

 まず自分の会社からはじめよう:Level Moneyは予算管理アプリとしてはじまった。ユーザーが自分のお金を「大人のおこづかい」として簡単に管理できる。Level Moneyは銀行の新しいフロントエンドとして使用できると考えた。シンプルなUIを維持しながら、金融商品をアプリケーションに組み込んでいった。そして次世代の銀行を作る上で「これはサプリなのか?クスリなのか?」という根幹的な問題にぶち当たった。自分たちは病気を治すクスリを作ってるんだと納得させようとしたが、実際に作っていたのはサプリだった。サプリは毎日のめば長期的なメリットがあるけど、クスリみたいに病気のときにすぐに必要なものじゃない。

 銀行はたしかに好かれてなかった。それでもSimpleMovenDigit、Check、Level Moneyといったのアプリはサプリ問題に繰り返し繰り返しぶち当たった。ユーザーは銀行を変えたいという潜在的な願望を持っているかもしれない。でも、それを明日に延ばしても死ぬわけじゃない。ファイナンスの透明性を望んでいるかもしれないけど、現状を維持することが最大の抵抗だったりもする。解決策を売り込むために問題があるんだと説得しなければいけないなら、それはすでに負け戦と言える。

 いまのところ、この分野で成功したスタートアップはまだない。数多くのスタートアップだけでなくPayPalですら挑戦したにもかかわらず。

ローン:ファストワールドのスローマネー

評価:C

 銀行はどっちにしても口座でお金を稼ぐわけではない。ローンのために口座であえて損をしている。ローンは銀行の儲けの源泉であり、新しいデータソースを使った貸出には大きな改善が期待できそうだった。そこでLending ClubProsperSoFiAffirmなど多くのスタートアップが参入した。

 私たちが後に学んだように、この分野のスタートアップが直面する基本的な課題は時間。新しいプレイヤーにとって競争上の優位性は悪い貸付と良い貸付を見分けられること。それは貸したお金が数年後にちゃんと返済されないと証明できない。そして、モデルが証明されるまでは、急速に成長しないように注意しなければならない。これは爆発的成長とそれに伴う利益に慣れたVCやスタートアップ業界にとってイライラすることだ。

 さらに、信用はマクロ経済の信用サイクルに大きく依存する。私たちは何年もの間、信用の高い環境にいて、この分野にとってそれはいいことだった。でも、市場が変われば、それはまったく別の話。

ペイメント:ぶっちゃけカードで困ってない

評価:B-

 ペイメント領域には特筆すべきいくつかの明るいスポットがある:Square、Stripe、Venmoは大きな波を作った。業界はSquareのモバイルでのカード支払いを、VenmoのP2Pを慌てて滑稽な形で真似をした。

 しかし、祝福をする前にペイメント領域がそもそも抱いていた野心を思い出そう。金融サービスのすべての分野のうち、モバイルデバイスがペイメントを支配はずだった。モバイルペイメントは(それが涙で終わるまでは)明るい未来だった。数え切れないほどのスタートアップがハイプに乗っかって激しくクラッシュした(Clinkleを覚えている?)。 Googleウォレットが何回も再起動して、そのたびに失敗した。アップル - あの全能のアップル! - ですらモバイルペイメントの広がりを加速させていない。ペイメントには多くの進歩があったけど、フィンテック時代の神託を実現するには至っていない。

 大小にかかわらず多くの企業がモバイルペイメントに挑戦したが、イライラするほど変化がなかった。理由はシンプルで、やっぱりサプリ問題。電子決済は現金よりも優れている。ただモバイルデバイスでの決済はカードをスワイプするよりも大きく優れているわけではない。SquareとStripeはお店がカードを受け入れやすくした。Venmoは人から人への支払いでも同じことをした。でも、Googleウォレット使ってTargetで5%安く買い物ができる程度では染み付いた習慣を変えることはできない。人は技術が新しいとか、洒落ているとか、哲学的に優れているから新しい技術を使わない。あとから考えてみれば当たり前なんだけど、いつもそれを忘れてしまう。

投資管理:ロボアドバイザーの時代

評価:B+

 フィンテックの中でも目立つ動きがあるのが投資管理。Wealthfrontが2008年に設立され、投資領域は根本的に違って見えるようになった。ロボ・アドバイザーは高い報酬の割にパフォーマンスの低いファンドマネジャーに宣戦布告をして、上場投資信託が支配していたパッシブ・マネジメントに波を起こした。同時に、Robinhoodは取引手数料に攻撃を仕掛けた。Robinfoodは300万人のユーザーを獲得している(E*Tradeは360万人)。

 それでも、ロボ・アドバイザーは米国で182億ドルの資産を管理しているに過ぎない。大きな額であるものの、20兆ドルの個人投資家の総資産からするとまだ少ない。 変化には常に時間がかかる。ファイナンスの世界はさらに足が遅い。たとえロボ・アドバイザーが市場を拡大しても、底辺への競争の価格体系は長期的な収益性の問題となるかもしれない。しかし、少なくとも部分的には強力なテクノロジーからの挑戦で伝統的な業界に本当の変化が起きていることは確か。

 テクノロジーは金融サービスを諦めたわけではない。ただFintechに対するVCの投資は冷え込んでいる。確立されたCredit Karmaのような企業は新しい分野に進出しており、AspirationUpstartErninのような新しい企業にも期待は持てそうだ。ただ、これからの足が重くなるであろうこともこれからの経験から学ばないといけない。本当にローンのような分野に一撃を与えたいならVCドルは苦手なことをしなければいけない:待つこと。市場はモデルを証明するのに十分に長い時間をかけて重い足取りを進む起業家を支援する必要がある(ローンに関してはMax Levchinがその人だろう)。

 世界がクリプトカレンシーやその他の技術に注目するにつれ、初期のフィンテックから学ばなければいけない。いいカナヅチを持っていると全てがクギに見えてくる。わずか数年前、そのカナヅチはクラウドコンピューティングとモバイルデバイスだった。そしてそれは一巡した。みんな次の獲物を探している。次の波を見逃したくないから、シリコンバレーは「こいつは全てを変えちまう」という物語に乗っかってしまいがち。でも、時自分たちは間違っていることが多いということを忘れてはいけない。現状を変えるために必要があるのか製品の良さを割り引いて考えないといけない。素晴らしい成功を祝うだけでなく、なんで間違ってしまったのか。次のハイプに乗る前に。

解説

前に"Bank 3.0"という本を読んだ。Movenの創業者のBrett Kingが来たるべき銀行の新しい姿を描いた本。その前にアフリカでMペサがあって。うわ、すげーっ!て思って。ああ、フィンテックってちょっと前まではこういうのだったよなあ。そうだ思い出した。フィンテックは銀行を飲み込むはずだったんだ。そうか、あれがフィンテック1.0だったのか。この記事を読んでそんなことを考えていました。

この記事はLevel Moneyの元共同創設者でCEOだったJake Fuentes氏が自らのスタートアップを含めたフィンテック1.0の失敗について書いた"Fintech, a Failure?"の翻訳です。ここで描かれるアメリカのフィンテック事情は日本とちょっと似てる。まあ、日本がアメリカのスタートアップを追っかけてるってことでもあるんですが。Squareを追っかけてるCoinyとかWealthfrontやBettermentを追っかけてるWealthNaviTheoとか!

いまはクリプトカレンシーに注目が集まるフィンテック2.0なのかもしれません。ここにはないけど送金サービスのTransferwizeなんてめっちゃ成功してるし。日本は日本で後追いしてるだけでなく、独自の動きとかもあります。Cashなんていい例ですよね。中国やスウェーデンではペイメントを中心に独自な発展がありますし。また盛り上がりそうなフィンテック。だからこそ、立ち止まって振り返ることも大事。彼が共有してくれている失敗から多くを学ぶことができると思います。成功より失敗から学ぶことの方が多いのですから。

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