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スロースタートアップ|第四回:GoPro|ハスラーのブートストラップ

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ニック・ウッドマンは他のスタートアップ創業者と少し違います。スタートアップにはハッカー(開発者)、ハスラー(ビジネス)、ヒップスター(デザイナー)の三種類の人が必要だと言われています。頭文字をとって3H (Hacker, Hustler, Hipster) 。多くのスタートアップはハッカー(開発者)かヒップスター(デザイナー)が創業者です。ハスラー(ビジネス)が創業者のケースは非常に少ないです。

これは、プロダクトを作る人がまずは必要だからです。ハスラーはビジネスに関する知識があってもモノは作れないですからね。デザインと開発を外注しないといけない。GoProのようなハードウェアスタートアップであればハードウェアの開発者が創業者のことが多いです。例えば、Oculusのラッキー・パーカーのように。しかし、ニック・ウッドマンはモノを作った経験がないハスラーの創業者でした。どうやってGoProを作ったのでしょうか?

GoPro創業前

ニック・ウッドマンは40歳までにスタートアップで億万長者になる夢がありました。周りと違うことをしたい *1

そこで、大学を卒業してすぐに二つのスタートアップ(ショッピングサイトのEmpowerAll.comとゲーム会社のFunbug)を立ち上げています。ベンチャーキャピタルから400万ドル調達しましたが、これらはうまくいきませんでした。何もやりたいことが見つからず、半年くらい落ち込んだそうです。

GoProの創業

ニックが大学時代に打ち込んでいたことはサーフィンでした。そこで、インドネシアとオーストラリアに5ヶ月間のサーフィンの旅に出ることにしました。この旅を写真に収めるために腕にカメラを取り付けてサーフィンをしている姿を撮りたいと考えました。そこで、市販の防水インスタントカメラを腕に取り付けることにします。しかし、市販のカメラを腕に取り付けるストラップがない……あれ?これビジネスとしてイケるんじゃない?

最初のアイデアは市販のカメラを腕につけるストラップでした。GoProはいきなりカメラじゃないんです。こちらがその最初のプロトタイプ。このアイデアを元に再び起業。三度目の正直ですね。2002年のことでした。

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最初のGoPro(リストストラップ)のプロトタイプ(クレジット:Forbes/YouTube)

ニックは作ったリストバンドを近所のサーフショップで15ドルで売ってみました。そこで気がついたのはリストバンドよりむしろ市販の防水インスタントカメラが問題だということです。サーフィンで使うには耐久性が弱い。そこで、このリストバンドの権利をKodakに売って、Kodakにリストバンドにあったもっといいカメラを作ってもらおうと考えましたが、これはうまく行きませんでした。まあ、そうですよね。

最初のカメラ

Kodakが作ってくれないので、自分で作ることにしました。自分で工具を使ってプラスチックを削り、型を作りました。これを中国のカメラ製造会社のHotaxに送ります。Hotaxから送り返されてきたのはCADファイルでした。なんとここのファイルを開けて確認したところ、うまくいきそうでした。

ハードウェアのスタートアップの場合、製造コストが必要です。でも、そんなお金なかったら?

他人から借りるのです。スタートアップには"3F"という言葉があります。最初にお金を貸してくれるのは家族、友達かエンジェル投資家。その頭文字をとって3F (Family, Friends, Fools) です。エンジェルがFoolというのもひどいですね!「アクションカメラ」というジャンルを築き上げたGoProの場合は家族が初期の投資をしてくれました。お父さんは投資銀行の役員ですからね。20万ドル(約2000万円)を「投資」してくれました。身内から借りるのもブートストラップのやり方の一つ。

これを元手にHotaxで一個あたり3ドルの製造し、14ドルでサーフショップで売ることにします。これが最初のGoProになります。起業から2年目の2004年です。

テレビショッピングで販売

GoProといえばデジタルカメラを思い浮かべると思いますが、最初は35mmフィルムのカメラでした。だから3ドルで作れるんですね。

最初はサーフショップだけで販売していましたが、テレビショッピングまでチャネルを広げました。いまだったらネットショップで売ったんでしょうが、当時はまだテレビショッピングの影響が大きかったのです(下が当時の番組を録画したYouTubeビデオ)。これを二年間売り続けました。

テレビショッピングで売られる初代GoPro(クレジット:youtu.be

デジタルカメラのGoPro

しかし、友人たちから「デジタルカメラにしてほしい」と言われます。流石にそろそろフィルムはツライですよね。そこで、いよいよ2006年にデジタルカメラのGoPro Hero Digitalを発表します。初代のGoProの売り上げのおかげでデジタルカメラを製造できるくらいの原資もできました。ここでようやく私たちにも馴染みのあるGoPro Digital Heroが誕生します。音声は録音できませんでしたが、10秒のビデオが撮影できました。

大人になるということ

ここまでニック・ウッドマンはGoProで外部資金を調達していませんでした。しかし、Oculusの事例で見てきたように、ハードウェアのスタートアップは難しい。イノベーションを続けるためにR&Dが必要だし、在庫を持たなければいけないのでサプライチェーンの管理もしなければいけない。

そこで、創業から9年後の2011年にRiverwood Capitalをリードとしてベンチャーキャピタルから資金調達をします。Riverwood Capitalは製造業のために受託生産サービス(EMS)を提供しているFlextronicsのマイケル・マークスのベンチャーキャピタルです。つまり、製造業のプロ。さらに、マイケル・マークスの仲介でFoxconn(鸿海)からも資金調達を受けます。

この製造のプロからの支援によりGoProはブートストラップから卒業して大人の階段を登りはじめます。ニック・ウッドマンはこうしてスタートアップで億万長者になる夢を叶えていきます。ただニックがハスラー(ビジネス)ではなくハッカー(デベロッパー)やヒップスター(デザイナー)だったらもっと違った形になってたのかもしれないと思ったりもします。

参考文献

GoPro CEO Nick Woodman's Formative Moment - YouTube

How GoPro Made A Billionaire | Forbes - YouTube

First ever GoPro camera - Hero 35 mm - Full story. | Pevly

The Evolution of the GoPro - Poundit

Can GoPro Rise Again?

Foxconn CEO Terry Gou On His Company's Growing Relationship With GoPro

GoPro Reveals Why Foxconn CEO Terry Gou Didn't Take Board Seat

The Untold Story of How Massive Success Made GoPro's CEO Lose His Way. Can He Recover? | Inc.com

The Life And Awesomeness Of A GoPro Founder Nick Woodman - Business Insider

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*1:ちなみに、ニックの父親は投資銀行の役員で、家庭はすごくリッチだったと思います。まわりの友人も弁護士とか投資銀行とかの家庭が多かったそうです。レーシングカーにも乗ってますからね、金持ちじゃないとできません。金持ちがスタートアップやっちゃいけないなんてことはないですからね。スタートアップに貴賎なし。