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世界にサービスデザインを広めるアダム・ローレンスのサービスデザイナーとしての原動力

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アダム・ローレンス(Adam Lawrence)さんはサービスデザインの世界を牽引しているキーパーソンの一人です。エージェンシーの設立者というだけでなく、Global Service Jamという世界的なコミュニティーイベントを運営したり、サービスデザインの実用書『This is Service Design Doing』の著者の一人として幅広くサービスデザインを世界に広めています。今回はそんなアダムさんの日本語による貴重なインタビューとなります。

カタパルトなかむら(以下なかむら):アダムさんは最近出版されたサービスデザインの書籍『This is Service Design Doing』に参加されているほか、Global Service Jamのようなグローバルなサービスデザインイベントの立ち上げもされています。いろんなことをやっていますが、主に何をされているのでしょうか。

アダム・ローレンス(以下アダム):職業としてはヨーロッパで最も優れたビジネススクールの一つであるマドリッドのIE Business Schoolのサービスデザイン思考の助教授です。そしてもちろん、中央ヨーロッパを中心に活動しているサービスイノベーションと顧客体験のコンサルティングエージェンシーであるWorkPlayExperienceの創業者の一人でもあります。

私たちの仕事のほとんどは組織(特に大きな組織)の中の人たちがうまく一緒に働けるお手伝いをすることです。それは彼らの顧客、スタッフを含めた社員、パートナーにどのように良い体験(エクスペリエンス)を提供するかに集中することです。それをどのように柔軟的、効果的、現実的に実行するかです。具体的には実際のプロジェクトに参加したり、スタッフのためのトレーニングや認定までの道筋を作ったり、仕事のためのツールなどを作ったりします。「サービスデザイン導入のサービスデザイン」とも言えますね。

なかむら:最近出版された『This is Service Design Doing』に関連するのかもしれませんが、日本の組織が直面している課題の一つに「モノづくり」から「コトづくり」へのシフトがあります。おそらく日本企業の中で働いている多くの人は顧客中心であり、サービス思考であるべきだと考えてはいると思います。しかし、実際に変わるには「考える(Thinking)」だけではダメで、「行動(Doing)」が必要になります。行動に移す難しさについて何かお考えになる部分はありますか?

This Is Service Design Doing: Applying Service Design Thinking in the Real World: A Practitioners' Handbook

This Is Service Design Doing: Applying Service Design Thinking in the Real World: A Practitioners' Handbook

  • 作者: Marc Stickdorn,Adam Lawrence,Markus Edgar Hormess,Jakob Schneider
  • 出版社/メーカー: Oreilly & Associates Inc
  • 発売日: 2018/01/12
  • メディア: ペーパーバック
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アダム:思考の変化は会議室やオフィスで座っているだけでは難しいです。オフィスから出て顧客と時間を過ごし、顧客と行動を共にして彼らが直面する課題に触れると見えてくるものが全く変わります。学術的なプロダクトとサービスの違いや、デジタルと非デジタルの違いは顧客にとって全く意味がないことに気がつきます。顧客は単に自分たちの課題を解決して欲しいだけなんです。生活に役立つ、できれば良い体験ができることが欲しいだけなんです。

それらの問題はオフィスから出ないと発見できないのと同様に、会議室に立てこもっていては顧客の役に立つこともできません。私たちは顧客やステークホルダーのいる世界に出ていかなければいけません。プロトタイプを作り、実際の世界で試さなければいけません。そうすることで共創の「実行(doing)」が戦略立案会議よりよっぽど効果出来だとわかります。

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Global Service Jamでのマーカスさん(左)とアダムさん(右)。写真クレジット:@kirsty_joan

人はとにかく話したがります。合意形成の中で安心感を得たいからです。しかし、イノベーションに必ずしも合意形成は必要ありません。プロジェクトの中では意見の多様性が必要な段階があって、複数の方向性を荒くても構わないので素早くプロトタイプを同時進行で作っていく必要があります。そうすることで、私たちはマネージャーへの報告やPowerPointではなく、顧客の近くにいること、現実を基にした実験の文化が成功への近道だと学ぶのです。

なかむら:アダムさんが創立者の一人となっているGlobal Service Jamについて教えてください。

アダム:私たちは変革の立ち上げや改善にジャム(Jamming)の方法を使います。また、組織で適切な人たちと協業する時です。これは「圧力鍋」の調理法で、通常は二日間、チームを作って素早い開発のイタレーションを行います。これには素早いゲリラ調査、速射砲的アイデア出し、エクスペリエンスのローファイ*1プロトタイピングを作って実世界に戻って検証や追加調査をします。これはテーマを知り、基本的なツールやサービスデザインのマインドに触れる素晴らしい方法です。

私たちはこの方法がとても気に入っているので、世界中に共有したいと考えました。そして三つのグローバル・ジャム(Global Jam)をスタートしました。グローバル・サービス・ジャム、グローバル・ガバジャム(Global GovJam:公共サービスのためのGlobal Jam)、グローバル・サステイナビリティー・ジャムです。詳しくはGlobal JamのWebサイトで確認できます。

なかむら:私たちも『デザイン+ジャパン』という日本の社会的課題をデザインコミュニティーで解決するイニシアティブを立ち上げたんですよ。次回のGlobal Service Jamに参加させていただくかもしれません。

アダム:それは素晴らしい!

なかむら:ところで、このような活動をどうしてやってるんですか?

アダム:私はもともと心理学、マーケティング、プロダクト開発をやってたんですよ。あと、俳優や監督としても長年やってきました。だから、ビジネスの世界を舞台に見立てて探索してきました。そして「サービスデザイナー」と呼ばれる人たちのコミュニティーがあることを知りました。ビジネスパートナーであるマーカスと私はすでに顧客のエクスペリエンスの分野で舞台の手法を使っていました。だから、このコミュニティーと出会って自分たちのしていることを共有することは素晴らしいことでした。

今やっていることは、人が本当にやりたかったことの実現を助けることができます。いわゆる「仕事」ではなく、他人にとっての価値を生み出し、自分もそれを楽しむことができること。だから、今やっていることをやり続けているんです。

なかむら:「サービスデザイナー」は比較的新しい職種なので、様々なバックグラウンドの人がいて面白いですよね。ボク自身がサービスデザインのプロジェクトと呼べることをやったのはマイクロソフトでビジネスアナリストをしている時でした。アダムさんのおっしゃる通り、他人に対して情熱を持てることはサービスデザイナーの持つ資質のひとつだとおもいます。優れたサービスデザイナーになる条件ってなんだと思いますか?

アダム:優れたサービスデザイナーは情熱と同時に批判的なものの見方が必要だと思います。問題の裏側にある課題の発見に情熱を注がなければいけません。そして、それに関わる人たちに情熱を持たなければいけません。そうすることによって耳を傾ける事ができます。そして調査、プロトタイピング、導入といった重要な活動に情熱を持たなければいけません。

これらの活動を実行する上で、どのように人々が働き、技術がどのように使われているのか、組織がどのように変革するのかを理解しなければいけません。そして、謙虚でありつつも仮説、アイデア、プロトタイプに対して批判的な見方ができなければいけません。常にそれを壊してさらに良いものを作る姿勢が大事です。

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*1:プロトタイピングにはいくつかの段階があって、ロウファイ(Low Fidelity)は見た目が荒い簡単なプロトタイプのこと。もっと製品版に千和桁見た目のいいプロトタイプはハイファイ(High Fidelity)プロトタイプという。通常、ロウファイの前にスケッチなどでアイデア出しをする。