カタパルトスープレックス

興味がない人は無理して読まなくていいんだぜ。

プラットフォームの寡占やリワード広告やProgressive Web Appsについて−−週末論考

 今回も真面目シリーズなので、そういうのが苦手な人はスルーよろしく😎

 プラットフォームは欧米企業に握られて久しいですね!マイクロソフトのWindowsからはじまって、ノキアのSymbian、アップルのiOSにグーグルのAndroid。そしてボクたち日本人に残されたのはTRONの苦渋。任天堂やソニーが見られなかった夢。

 あれ?でも、今ってそういう見方でいいんでしたっけ?違うよね!というのが今回の趣旨です。そのきっかけが経産・公取委の合同研究会の発表。八子知礼さん経由で以下の記事を知り胸熱!八子さんはいつもボクを熱くさせる燃料を投下してくれるのでありがたいです!

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アプリの課金についてのおさらい

 まず、経産・公取委の合同研究会の報告なのですが、突っ込みどころ満載です。いや、突っ込みどころしかない感じです。報告によると…

OS事業者はアプリ提供者に対してアプリストアを利用する際に自社の決済方式を利用するよう求めるとともに、収入の30%程度の手数料を徴収。ユーザーが実物の商品に記載されたシリアルナンバーをアプリ内で入力してデータを入手するといった、コラボレーションの販促活動も制限している。また、アプリストアを利用させる条件として米ドル価格に対応した120円、240円といった価格設定しか認めず、自由な価格設定ができない場合がある。

…というのが問題なのだそうです。

手数料の問題

 まず手数料なのですがペイメントの仕組みを使わせてもらっているので払うのは当たり前です。30%も若干高いかなとは思いますが、無茶な値段ではありません。例えばPaypalなら手数料は3.9%+40円です。例えばアプリのアイテム課金が100円だったら?もちろん金額が高くなるに従って手数料の割合は低くなります。でも、アプリってそんなに高額課金があったっけ?さらにGoogle Play StoreやApp Storeは課金だけでなくプラットフォームとしていろいろなサービスがあります。

リワード広告推進?

「シリアルナンバーをアプリ内で入力してデータを入手する」というのはよくわからないですが、まさかリワード広告を強く推進すべきということでしょうか?ブースト最高!不正ランキング大いに結構!ガンガンやるべし!ということでしょうか?

 アップルやグーグルがプラットフォームとして公正性を進めているのに台無しな感じです。

自由な価格設定ができない?

 ペイメントのオプションはGoogle Play StoreやApple App Storeだけではないです。例えばマイクロソフトのOutlookやOfficeのアプリはPlay StoreやApp Storeで公開されています。では、マイクロソフトのOffice 365の売り上げはグーグルやアップルに30%入りますか?当然ながら入りません。

 Office 365というサービスで課金をしていて、個別のクライアントアプリは無償です。これはEvernoteも同じですよね。EvernoteのクライアントをユーザーがダウンロードしただけでGoogleとAppleからそれぞれEvernoteのサブスクリプション売り上げの30%取られたらたまったものではありませんし、そんなことにはなりません。アプリ内で課金する場合にのみ手数料が取られるわけです。AppDirect使ったっていいんです。

 ゲームみたいにアプリ内で課金するケースが多い場合は仕方がないですけどね。ただ、それだってSteamみたいなプラットフォームを使うことは十分可能ですよね。オプションが全くないなら問題ですが、ペイメントやプラットフォームのオプションは実はたくさんあるんです。

ペイメントをないがしろにする問題

 ペイメントプラットフォームはなんで高い手数料を取るのでしょうか?それはペイメントの仕組みを作って管理するのがすごく大変だからです。為替どうする?ハッカーからどうやってクレジット情報守る?お金の匂いがあるところには良からぬ考えを持つ輩が集まるのは当然のことです。独自のペイメントの仕組みを持ってるのってよっぽど技術に自信があるところか独自で作る余裕がある大手です。

軒先の情報流出事件

 経産・公取委の合同研究会の発表を見て思い出したのが軒先パーキングの情報流出事件

 軒先パーキングはシェア経済を日本で牽引する素晴らしいサービスだと思います。個人的にはすごく応援したいです。ただ、ペイメントに関しては残念な感じでした。この情報流出事件に関しては少し違和感があって、外部のペイメントのサービスは使っていたらしいんですよね。普通に考えると、外部のペイメントサービスを使っていたらクレジット情報は軒先パーキングは持たないはずなんですよ。

 一番推奨されるのは画面ごとの遷移ですね。リンク型決済と呼ばれているものです。これだとペイメントサービス側のサイトで全てのトランザクションが発生するので軒先パーキングから情報が流出することはありません。だって、まったく情報持ってないんですから。あとはiframeを使うとか。いずれの場合も決済は全てペイメント側で行うことが推奨されています。これは推測ですが、軒先パーキングは独自の実装をしちゃったんじゃないかなと。

いったい誰が課金情報を保証できるのか?

 クレジットカードの情報流出の話ってたくさん聞きますが、アップルやグーグルやPaypalから流出した話って聞いたことありますか?ボクはないです。おそらくこれは日本のクレジットカード会社やペイメントサービス会社も同様だと思うのですが(そう願っています)ペイメントの会社はそれが生命線ですので、当然ながらセキュリテイーや個人情報の扱いは高度なものです。

 高いと言われる手数料もセキュリティーや個人情報を考えればそれほど高いとは思えないのです。

新しいプラットフォームが日本から出てこない理由

 さて、ここからが本題。

 プラットフォームは時代とともに新しいものが出てきて古いものを置き換えていきます。Windowsからモバイルへ、BlackBerryやSymbianからAndroidやiOSへ。今はAndroidやiOSが全盛ですが、これも新しいものに置き換わっていくのは時代の必然です。AndroidやiOSの寡占状態が良くないなら新しく置き換わるものを作ればいいのです。それもTRONとか任天堂のカートリッジみたいなクローズドではないものを。

グーグルが推進するProgressive Web App

 グーグルはAndroidでモバイルの寡占状態を作り出しているプラットフォーマーですが、彼ら自身がAndoridの寡占状態を脅かすビジョンを推進しています。それがProgressive Web Appsです。

 Progressive Web Appを簡単に言えばWebの標準技術でネイティブアプリと同じUXを実現しようというものです。Webなのにインストールできるし、オフラインで使えるし、プッシュ通知も送れるし、早い。このコンセプトを実現するのはService WorkerやHTTP2と言った標準技術です。標準技術なので、この取り組みにはアップルを除くほぼすべてのブラウザベンダーが関わっています。マイクロソフトですらも!アップルがこの流れに逆らいたい気持ちは十分わかりますよね!(アップルのこの姿勢はSafariは現在のIEと言われるまでひどいものです)

 単機能のアプリをサクッと使いたい。配布もApp StoreやPlay Storeを経由しないで簡単にしたい。でも、ネイティブアプリの良さは捨てがたい。それをWebの技術で実現させるのがProgressive Web Appです。

 マイクロソフトやMozillaがProgressive Web Appの流れに乗りたい気持ちはよくわかりますよね。でも、なんでグーグルはAndoridを殺してしまう可能性を秘めたProgressive Web Appを推進するのでしょうか?これはボクの推測ですが、グーグルはもともとWeb企業なのでWebの世界が広がるのは自分たちの利益になるという判断。そして、AndroidやiOSのようなフォームファクタに依存したプラットフォームはいずれ別のものに置き換えられてしまうという諦観だと思います。

ビジョンがない日本

 オープンな標準が世界に広まるというのは必然でもう止めようがありません。オープンな標準をどれだけ上手く使うかというのが大事です。もちろん日本が再び国産OSを作ってもいいのですが、それが世界に広がるには世界に向けてオープンな標準を担うに十分な資質を備える必要があります。その時に「国産」というのはどれだけ意味があるのでしょうか?GithubにアップしたりLinux Foundationと協業したりしないのでしょうか?グローバルな標準団体との協業なしにどうやっていくのでしょうか?

 グーグルとアップルの寡占状態が問題なのであればグーグルと一緒にProgressive Web Appを推進すればいいのではないでしょうか?そしてオープンなプラットフォーム上に信頼に足るペイメントの仕組みが日本から出てくればいいのではないでしょうか?フィンテック推しなんですよね!?日本からなんでPaypal、Braintree、Stripe(米国)やAdyen、Transfer Wise(欧州)やAlipay(中国)が出てこないのでしょうか?

 他人に文句を言ったり注文をつけたりするのも国策としては大事だと思います。リワード広告を推進するのが国策として正しいのかは別として。ただ、仕事としてやらなければいけないのは理解はできます。しかし残念ながらそれだけでは日本がプラットフォームの主役になる日は来ません。文句を言うだけでなく、日本が世界標準に貢献して新しい時代を切り開いていく気概を見せて欲しいですよね!グーグルにできて日本にできないはずはない!