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中国のメディテックユニコーン「平安好医生」

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おさえておきたいポイント
  • ユーザー入り口の獲得戦略
  • マネタイズポイントのヒント
  • インターネット事業だからこそ決済を抑えるべき

中国でのメディテック(医療スタートアップ)

 中国でもテクノロジーで医療業界を変革しようとするメディテック系のスタートアップが増え、医療サービスの効率化や医療の質の向上などに取り組んでいます。日本企業でもエムスリーエス・エム・エスが中国でも成功を収めています。

 しかし、まだまだ中国の医療には改善する機会が多くあります。例えば、薬の処方箋をもらうための3分間の診断に何時間も待たなければいけない。仕事が忙しくて病院に行けない。今回ご紹介するのは中国のメディテックでいち早くユニコーンとなり成長を続けている平安好医生(ピンアンハオイーシャン)です。

 メディテックは難しいとはいえ、有望な市場であるがゆえに先行する春雨医生好大夫在线微医生杏仁医生企鹅医生といった競合も多く存在します。すごいのはこれらの競合がユニコーンとしての評価額を獲得するために4年以上かかっているのに、平安好医生は2年しかかかっていません。

中国で医師の診断にかかれない問題

 欧米では健康管理は予防の考えが普及しているため、HMO(健康維持機関)のシステムが主流になっています。病気になった場合もまず家庭医者、次が小型クリニック、最後に大型医療機関に行かれるという「段階診療」が一般的です。

 中国の医療での問題の一つは信用の問題があります。医闹(イーナオ|集団による故意の医療妨害)のため、最初から信頼ある大型の医療機関に行くことが好まれます。診断の需要が大型の医療機関に集まるため、医師の診断を受けない(受けられない)層が多く存在します。

 現在、中国では280万の医者が資格登録され、毎日2000万人が診断を受けていますが、これは全体の需要の30%未満です。3500万人は診断を受けずに薬局で医薬品を購買し、さらに1500万人は単純に健康問題を無視している状態だと言われています。従来の大型病院だけでは、これらの診断を受けていない層の受け皿として十分ではありません。

医療改革で成功しているオンラインプラットフォーム「平安好医生」

 この問題を解決するためにオンラインでの健康管理と家庭医療とオフラインの診療を組み合わせるオンライン・トゥー・オフライン(O2O)のアプローチの試みはあったものの、成功してきませんでした。処方箋を受け取るだけのと何分間の問診は、インターネットでマネタイズすることが難しいとされてきました。

 その原因の一つは医療サービスシステムは保険制度です。政府の医療保険がほとんどで、商業保険があまりない。コントロールが難しく、インターネットで受診した場合、医療保健の範囲が問題となっていました。しかしこの状況も改善されつつあり、2016年8月に複数拠点での医療ラインセンスが認められ、部分的な都市では、インターネット医療を医療保険範囲に収まるようになると政府から発表がありました。

 平安好医生(ピンアンハオイーシャン)はそのような背景から生まれてきてユニコーンとして成功しているメディテックのスタートアップです。2016年5月のAシリーズで30億ドルのバリュエーションで5億ドルを調達しました。これは中国のスタートアップ投資の記録となっています。現時点で既に1000名以上のフルタイム医師が登録、予約可能な病院が2000棟、検診が300社、260の都市をカバーしています。すでに45万人が毎日このサービスを利用しています。

平安好医生のビジネスモデル

 平安好医生のビジネスモデルを以下にまとめました。

 医者ネットワークによる24時間の健康コンサルテーション(図右)、遠隔診療、病院予約、検診予約などの医療サービス、そしてオンラインで健康食品や健康用品の販売、薬品配達となります(図中央)。

 さらに健康情報メディア(図左)としての情報提供や健康に関する動画のライブ配信配信、カスタマイズ健康管理を提供しています。

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ビジネスモデル

健康情報メディアサービス

 2015年4月に医療と薬の情報の統合をする目的で平安好医生アプリをリリースしたのが平安好医生のはじまりです。そして、現在はユーザー登録数は1.7億ユーザー。トラフィックの入り口となっているのはこの健康関連の記事や動画のライブ配信といったメディアサービスです。

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メディアとして提携先からの記事を配信

 特に動画のライブ配信が人気を集めていて、毎日数百万人がライブ配信を閲覧しています。ダイエット、婦人幼児保健、著名医者インタービューが最も人気なコンテンツです。

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動画によるライブ配信

 平安好医生はコンテンツ提供者にとっても魅力的なプラットフォームとなっています。例えば、ある著名外科主任が専門メディアで記事を書いても2ヶ月で閲覧数は400しかありませんでした。しかし、平安アプリでライブ配信を行ってから、最初からプロモーションなしで8万閲覧、その後も毎回10万人以上の閲覧があり、平均4、5千人からの質問がありました。

問診プラットフォーム

 問診プラットフォームを利用して医者の受付は毎日45万回です。登録医者は一人あたり年間9.1万回の問診を行っていて、一回あたりの問診時間は15分です。

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医師による問診プラットフォーム

 小児科、婦人科、皮膚科が最も人気があります。 2016年のデータでは、問診を受けた1万人以上のうち、0時~6時の深夜問診が全体の10%以上を占めていました。また、50%の問診は午後7時から朝7時の医療機関営業時間外に発生していました。

医薬コマース

 2016年では年間で320万人が平安アプリで医薬品を購入しています。北京のような大都市では、1時間で薬品が配達されます。月間売上が1.5億元を超え、うち、医療機器が60%、サプリメントが20%だそうです。

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健康用品のコマース

競合との差別化ポイント

 平安好医生はどうして競合より多くのユーザーを獲得し、2年で30億のバリュエーションを得られることができたのでしょうか。その理由は決済を抑えたことだと考えられます。親会社である中国平安保険Wikipedia)はもともと中国の4大保険会社の一角で、漢方薬で有名な日本のツムラの筆頭株主です。

 中国の医療保険決済のシステムは複雑で、一般的な決済システムでは対応が難しいと言われています。このシステムを多くのパートナーと提携することによってエコシステムを構築、決済は医療保険と一般決済を分けて決められることを実現できたことが成長要因だったと考えられます。

 そのような強みを活かして、高頻度のメディア事業で入り口を獲得し、低頻度の看病や検診で利益を出すという明確な戦略により、事業を伸ばしました。

邱開洲MediumTwitter

中国出身、2009年来日。早稲田大学卒業後、ヤフーに入社。 入社後は広告営業部門に所属し、デジタルマーケティングのコンサルティングを担当、2016年より百度プロジェクトの立ち上げ、インバウンドや越境ECなど中国向けビジネスのマーケティング支援業務に従事。2017年よりYJキャピタルに参画。

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