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Spotifyの誕生と成長|二年半の赤字から音楽市場V字回復の立役者に

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音楽市場は2014年まで15年続けて縮小を続けていましたが、2015年から回復して今も売上を伸ばし続けています。この音楽市場のV字回復に最大限の貢献をしているのが音楽ストリーミングで、Spotifyはその最大手です。日本の音楽市場だけ、未だに回復できていませんが、Spotifyが起爆剤になってくれることに期待ですね。

日本語でSpotifyの歴史を詳しく解説している情報がなかったので、まとめてみました。

Spotifyをはじめる前の成功と失敗:Spotifyをはじめるきっかけ

ダニエル・エクはスウェーデンの生まれで、14歳の時にビジネスを(偶然)はじめました。当時すでにC++でプログラミングができました。1997年当時はWebが流行りだして、Webサイトを欲しがる人たちがいました。特にやりたくはなかったそうですが、その需要に応えるうちにいつの間にかビジネスになり、20歳くらいには人を雇い、自社のサーバー環境を運営する規模になっていたそうです。

Googleに社員として応募したけれど、断られて自分で検索エンジンを作ることに決めたそうです。これがあまりうまくいかず、会社は破産寸前まで陥って社員を解雇しなければいけなくなりました。この頃に出会ったのがドイツ人で共同創業者のマーティン・ローレンソンでした。マーティンは自分の会社を売ってやることがなく、いろんなアイデアをダニエルと話し合いました。そこで生まれたのがSpotifyでした。2005年のことでした。ダニエル・エクが23歳、マーティン・ローレンソンが37歳でした。

なぜ音楽ビジネス?

音楽の聴き方にはもっといいやり方があると最初に示したのはNapsterでした。ボク自身もそれなりの音楽好きですので、Napsterが登場した時は本当に衝撃的でした。すげー!でも、え?こんなこと出来ていいの?という感覚。当時は著作権上「こんなこと出来ていいの?」という不安はまさに的中してNapsterはビジネスとして成り立つことなく消え去りました。

思春期のダニエル・エクもNapsterの登場には衝撃を受けたそうです。ダニエル・エクにとって幸運だったのはスウェーデンに住んでいたことです。スウェーデンは当時からギガバイトのインターネットのアクセスが非常に安価(2000円/月程度)で、Napsterのような音楽ファイルの共有サービスもそれほどストレスなく使えたことです。

失敗の後、心機一転、新しいビジネスを考える時、自分の本当にやりたいことをやろうと決めたそうです。金銭的な成功では幸せになれなかった、失敗はそれをさらに悲しいものにしました。次のステップに進むとき「次の五年間に集中できることは何か」を問いかけたそうです。そして、それは音楽とテクノロジーでした。ビジョンは「iTunesに全ての音楽が詰まっている状態」だったそうです。

Dropboxの共同創業者でCEOのドリュー・ヒューストンも言っていますが「自分のテニスボールを見つけないといけない *1」ということですね。これは起業家だけでなく、働く人すべてにとって本当に大事なことだと思います。

それでも、なんでよりによってみんなが失敗している音楽ビジネス?

それにしても、音楽業界は数多のスタートアップが挑戦して失敗した企業の屍が積みあがった市場です。Napster、Rhapsody、Kazaaなど様々な企業が挑戦してノックアウトされて、退場していきました。若干成功していると言えるのはPandoraでしたが、それもユーザーが好きな音楽を好きな時に聴けるサービスではありません。Last.fmもまだ存在はしますが……ダニエルの想定は「音楽サービス自体はユーザーに受け入れられているが、ビジネスモデルが壊れている」でした。つまり、ビジネスモデルさえ確立すればいい。

そして、ビジネスモデルに関してはダニエル・エクは楽観的だったそうです。何も知らなかったから。何か本当に革新的なことをやるにはその業界にいないほうがいい。「まあ、半年くらいでサービスインできるだろう」と予想していたそうです。そして、結局は二年半かかることになります。

ローンチまでの二年間半の音楽業界との格闘

プロダクト面ではプライベートベータからパブリックベータまで公開していきましたが、ライセンスの交渉は難航していました。

当時「半年くらいでローンチできるだろう」と考えていたのは必要なロイヤリティーさえ支払えば著作権管理団体がうまいことやってくれるだろうと予想していたからです。そこで、投資家のフレッド・ウィルソンの友人のフレッド・デイビスに相談したところ「いやいや、レーベルと個別に交渉しないとダメだよ。なんだったらレーベルの人を紹介するけど」と言われたそうです。

紹介してもらえたレーベル以外も、様々な方法でコネクションを作って交渉の場を持てるようにしたそうです。例えば、レーベルの担当者の子供が通う学校の間でSpotifyを流行らせたり。直接会えなくても、周りからせめてかなり地道な努力をしたようです。そして、メジャーレーベルや大手のインディーレーベルと交渉をはじめたダニエルでしたが、最初の反応はすごく良かったそうです。ところが、話を詰めていくとどんどんペースが落ちていったそうです。そして最後にはほとんどのレーベルで「交渉はおしまい。もう来ないでね」となってしまいました。

ダニエル・エクはニューヨークからストックホルムへの飛行機のチケットをキャンセルして粘ることにしました。「もう来ないでね」と言われたので、アポイントは取れません。そこで、レーベルのオフィスの前で寝泊りをしたそうです。ホームレスのように。

同じ交渉をしても断られるのはわかっているので、作戦を変えました。アメリカのレーベルにとってアメリカ市場は最大の市場であって、あまり実験的なことはやりたくない。そこで、アメリカではなく実験ができる国に最初は絞ったのです。いずれにせよ海賊版の問題があるのだから、テストマーケットとしてスウェーデンは悪くない。

そうして創業から二年半たった2008年にSpotifyを正式にローンチできました。

でも、二年半もどうやってお金のやりくりしたの?

それにしても不思議なのは二年半もの間、どうやってお金のやりくりをして開発者を含む従業員に給料を支払っていたのか?ということです。

起業家の資金調達は大きく分けて二種類、自分のお金か他人のお金です。自己資金の場合はブートストラップといい、他人のお金はエンジェル投資家やベンチャーキャピタルからの資金調達です。銀行からの借金も他人のお金ですね。Spotifyの場合はブートストラップ。つまり、自己資金でした。

ダニエルとマーティンという二人の創業者は今で言うところの連続起業家で、それなりに資金を持っていたいんですね。ダニエルの場合は会社が破産したということですが、自分の資金は別に持っていたのでしょう。二人合わせて十億円ほど使ったそうです。

Spotifyが外部から資金調達をしたのはレーベルとの契約ができた2008年が最初です(Crunchbase参照)。それまではずっと自己資金でやってたってのはすごいですね。

裏返して言えば、このレーベルとの交渉の結果によってはSpotifyは沈没する可能性もあったわけです。レーベルとの交渉は全てダニエル・エクが行なっていて、社員に詳しい状況は知らせていなかったそうです。振り返って考えると、社員に対してもっと透明性があっても良かったと反省しているそうです。

Spotifyの成功要因

プロダクトをローンチできたからといって、それがすぐに成功につながるわけではありません。「市場に受け入れられるプロダクト(Product Market Fit*2)」が必要です。先行する音楽サービスはこれがありませんでした。

先行するプロダクト/サービスと何が違ったのか?Spotifyの成功要因はよく研究されているので、ここでは要点だけ絞ってご紹介します。

  • 「音楽全部入りのiTunes」というわかりやすいコンセプト
  • オンデマンドで好きな音楽を好きな時に聴ける利便性
  • それが全て無料で利用できるフリーミアムモデル
  • Facebookとの独占的音楽サービスインテグレーション契約(2011年)

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ソース:"Forget Taylor Swift: Spotify is facing a much bigger problem"

Spotifyは音楽の何を変えたのか?

Napsterが可能性としてみせたオンデマンドの音楽配信をメインストリームにしたのがSpotifyの功績で、それによって音楽業界はV字回復をすることができました。しかし、Spotifyが変えたのはそれだけではありません。

音楽の多様化

音楽はこれまで以上にユーザーの耳に届いています。そして、これまでにない多様な音楽を聞く機会があります。例えば、韓国でSpotifyをローンチした後にアメリカ西海岸でユーザー数が増えたそうです。そしてトルコでローンチした後にドイツでユーザー数が増えたそうです。ボク自身もオランダに住んでいた時に日本の音楽をSpotifyで聴いていました。

聴き方の多様化

また、アルバムという単位から解放されました。特にEDMのアーティストは毎週リリースしてるんじゃないかというくらい新曲を頻繁に発表しています。そして、アルバム単位で聴きたい人もSpotifyなら気兼ねなく全て聴く事ができます。iTunesの場合は曲単位での購入なのでアルバム全部よりも好きな曲だけ購入するというパターンが多かったそうです。

アーティストが作品を作りやすい環境

Spotifyのようなプラットフォームができてから、アーティストはレーベルを経由せずに直接Spotifyに作品をアップロードできるようになりました。例えば、Distrokidを使えばSpotifyだけではなく、iTunesやAmazonにも作品をアップロードできます。プロモーションも自分でできます。

まとめ

Spotifyの共同創業者でCEOのダニエル・エクはなかなかシャイな人であまりメディアに露出する機会がありません。メディアに出る時は色々と話をしてくれるので、隠しているわけではなく、単にシャイなんでしょうね。英語でもあまり多くないのですが、Spotifyに関して日本語でまとまった情報がなかったので、まとめてみました。

参考文献

World's Largest Startup Company Platform | Startups.co

When Spotify was young: the early years | VatorNews

Fred Davis, Rainmaker Who Sheparded Spotify, Sticking Around as IPO Talk Ramps Up | Billboard

E580: Spotify’s Daniel Ek on state of streaming, tenacity, transparency, competition by TWiStartups | TWi Startups | Free Listening on SoundCloud

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*1:犬はテニスボールを投げると夢中になって追いかけて遊ぶ。起業家も犬にとってのテニスボールのように夢中になれることを見つけないといけないという意味

*2:マーク・アンドリーセンが提唱したコンセプト。プロダクトやサービスの生死を決めるもの。プロダクトがマーケットにフィットしている状態。つまり、プロダクトを求めるユーザーがいる状態