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興味がない人は無理して読まなくていいんだぜ。

書評|機械学習の考え方を理解する|The Master Algorithm by Pedro Domingos【2018年夏休み読書週間】

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人工知能(AI)とかディープラーニングとか機械学習とか、自分なりの理解のもとに色々と自分の意見や考え方を持っている方が多いかと思います。そして、正しい認識を持つには正しい理解が必要となります。機械学習でよく言われるガベージ・イン/ガベージ・アウトにならないようにしないといけない。

今回紹介するペドロ・ドミンゴスによる"The Master Algorithm"はすでに出版されて時間が経っていますが、まだ日本語訳が出ていないようですので紹介します。

The Master Algorithm: How the Quest for the Ultimate Learning Machine Will Remake Our World

The Master Algorithm: How the Quest for the Ultimate Learning Machine Will Remake Our World

 

 

この本は何についての本なのか?

この本は機械学習の本です。この本を読むことで大まかに「機械学習とは何か」をその歴史背景を含めて理解することができます。

これまでのプログラム(=アルゴリズム)は人間がプログラムする必要がありましたが、機械学習は自らプログラムを作成するプログラムです。人工知能(AI)を実現するにはいくつかの要素がありますが、「学習」は最も重要な要素です。人工知能の「学習」を実現するのが機械学習です。そして、ディープラーニングは機械学習の一つの分野です。つまり、人工知能という大きなカテゴリーがあって、その要素として機械学習があり、ディープラーニングはその機械学習の一つの分野ということですね。

すでに理解している人には釈迦に説法ですが、意外とこの部分を理解している方は少ないのでここで説明しました。

この本は何についての本ではないのか?

人工知能が人間の脳を超えることをシンギュラリティと言います。この本は人工知能の本ではなく、人工知能を実現するための機械学習の本なので、シンギュラリティーについて詳しく触れていません。つまり、人工知能がどのような社会的な影響を与えるのかといったことはこの本では書かれていません。

マスターアルゴリズム

この本の主題はマスターアルゴリズムです。ペドロ・ドミンゴスは機械学習を五つの派閥に分類しています。それぞれに得意不得意があり、現時点で一つのアルゴリズムで全ての課題を解決することはできません。マスターアルゴリズムは全ての課題を解決する一つのアルゴリズムで、それが可能なのかをこの本では考察しています。

機械学習の五つの派閥(スクール)

  1. シンボリスト(決定木など)
  2. コネクショニスト(ディープラーニングなど)
  3. エボリューショナリー(遺伝子的プログラミングなど)
  4. ベイジアン(ナイーブベイズなど)
  5. アナロジャイザー(サポートベクターマシンなど)

それぞれの派閥の歴史や考え方が紹介されています。おそらく一番注目を集めているのはディープラーニングだとは思いますが、それ以外の派閥のアルゴリズムも実際には多く利用されています。

同時に、機械学習が対峙する課題にも触れられています。例えば「ノーフリーランチ定理」とか。No Free Lunchってビジネス英語ではよく使われるのですが、機械学習の問題でもあるんですね。この他にも「XORの問題」や「過剰適合」など。

これはどうやって日本語に訳したらいいのかわからないですが、"conjunctive concept"もなるほどと思いました。トルストイの小説『アンナ・カレーニナ』の有名な「幸福な家族はどれも似通っているが、不幸な家族は不幸のあり方がそれぞれ異なっている」ですが、これは機械学習にも当てはまります。この場合、幸せな家族がポジティブな例で不幸な家族がネガティブな例となる。様々なあり方があるので、一つのファクターからはじめて、二つ、三つと増やしていくのだそうです。

どんな人にオススメか?

どちらかといえばビジネスマン向けの書籍です。これから機械学習を学ぶプログラマーにもいいですが、技術解説書ではありません。しかし、この本はどんな人にもお勧めという類の本ではありません。技術解説書ではないので技術的な知識は必要ありません。それでも定理の話はよく出てくるので、数学的な素養はあったほうがいいでしょう。必須ではありませんが。ここまでの文章を読んで、「???」とはてなマークが頭の中にたくさん出て途中でやめてしまった人にはあまりお勧めできません。完全に理解できないまでも、拒絶反応がある人には苦痛な本だと思います。でも、ここまで読み進めた人でしたら読んで見る価値があると思います。

それなりにハードルの高い本ではあるのですが、著者のペドロ・ドミンゴスが言うように理解できないものをコントロールすることはできません。もし、ビジネスで機械学習を利用しようとするのであれば、そしてそれをコントロールしたいのであればこの本は大まかな機械学習についての知識をその歴史的背景とともに説明してくれます。

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