カタパルトスープレックス

興味がない人は無理して読まなくていいんだぜ。

イギリス政府がUX改善のために行った大規模コンテンツ監査

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原文:"Transforming transport content: the journey so far" by John Turnbull, Government Digital Service (GDS), October 12, 2017

 この記事は英国政府の政府デジタルサービス(Government Digital Service、GDS)がコンテンツ監査やタクソノミー(分類)によって運輸コンテンツをどのようにユーザー中心に再構成したかの事例を自ら解説した"Transforming transport content: the journey so far"の翻訳記事となります。

 前回紹介した大きな戦略も、こうした地道な実行によって支えられているんですね。有言実行とはまさにこのことですね。

 コンテンツ監査やタクソノミーづくりは地味な作業ですがUXでは非常に重要な基盤です。GOV.UKが大きな成果を出し続けているのにはこのような地味な作業の積み重ねがあるのですね。日本での大規模コンテンツ監査でもとても参考になると思います。

 どうぞ、お楽しみください!

カタパルト式スープレックスなかむらかずや

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 私たちはユーザーがGOV.UKで必要なコンテンツを簡単に見つけられるようにしたいと考えています。 私たちはそのために:

  • すべてのGOV.UKコンテンツを主題ごとのカテゴリにグループ分けする(仕分けグループ "タクソノミー" の作成)
  • タクソノミー(分類)されたコンテンツを改善する - どのようにうまく仕分けをしても、タイトルのつけ方が分かりづらかったり、重複していたり、間違ったフォーマットで作成されていなければ探すことが難しいからです

 私たちはサイトを教育、交通、訪英(ビザや移民)といった三つの大きな主題に分けました。 これらの「テーマ」はナビゲーションのトップレベルのカテゴリーというわけではありません。私たちが取り組みやすいようにサイトを小さなカタマリに分けただけです。

 私たちはすでに教育コンテンツを変革しました。そして今年の4月には輸送テーマに取り組み始めました。

さあ旅に出よう

 このような取り組みは私たち政府デジタルサービス(Government Digital Service、GDS)だけでできるものではありません。実際にGOV.UKでコンテンツを所有する省庁やその関連機関と緊密に連携する必要があります。

 今回の輸送テーマは英国運輸省(DfT)およびその関連機関と連携を意味します。

 英国運輸省はこのプロジェクトに熱心にかかわり、その関連機関も人と時間をプロジェクトに費やすと確信しました。私たちは英国運輸省のコンテンツとデジタルの責任者であるSioned Jamesと、デジタルにおける編集と出版のマネージャーであるGavin Dispainと今回のプロジェクトに対するアプローチについて合意しました。覚書に署名され、作業を開始しました。

私たちの旅行計画

 私たちは今回の輸送コンテンツ変革プロジェクトをいくつかの段階に分けました。

  1. 輸送に関するコンテンツの在庫リストを作成する
  2. コンテンツ監査を行う(ニュースのようなさかのぼって変更できないコンテンツは除く)
  3. コンテンツを改善する(必要な場合)
  4. コンテンツを新しいタクソノミーに応じてタグ付け再公開する

 私たちは更にコンテンツを分類するタクソノミーを以下の四つのステップで作成しました。

  1. コンテンツを形成する用語集を作成
  2. それらの用語を大まかなタクソノミーに分類
  3. ユーザーリサーチで運輸関連情報のユーザーがどのように考えているか調べ(完了するためにどのような作業が必要か、彼らの仕事を説明するためにどのような言葉を使うのかなど)、その調査結果から得た学びをタクソノミー作成に反映する
  4. ユーザーにたいして作成したタクソノミーをテストして反復検証する

旅のはじまり

 私たちは「発見」セッションからはじめました。GavinがGDSのオフィスで私たちと一緒に仕事をしてくれたことにより、私たちは以下のことを実行できました。

  • 輸送に関するコンテンツ在庫の確認
  • コンテンツ監査の範囲とするコンテンツタイプについて同意(主にガイダンス)
  • コンテンツ監視で浮上した疑問点のレビュー
  • コンテンツの一部を監査して、どれほど早く監査できるか確認する

 私たちはまずサブテーマ(今回は鉄道)を監査しました。監査は予想よりも早く、1週間以内に終了することができました。それにより航空コンテンツの監査も完了することができました。

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 次に「ユーザー識別ワークショップ」を開催しました。運輸省関連機関も参加したためにキックオフミーティングの二倍の規模となりました。私たちからはコンテンツデザイナーとそのほか専門家が参加しました。

 プロジェクトの概要をのプレゼン後、輸送分野におけるユーザーのグループ分けを行いました。これはユーザーリサーチを計画するのに必要です。

 運輸省とその関連機関がコンテンツの監査を開始する準備が整いました。私たちは一日トレーニングのシリーズからコンテンツデザイナーに参加してもらいました。

 監査が開始されGDSは進捗状況と監査のスポットチェックで各関連機関のアプローチに一貫性が保たれていることを確認しました。私たちは内部で「コンテンツクリニック」を実施して、関連機関にとって難しい課題に関して議論やアドバイスをしました。

タクソノミーがほしい

 監査と並行して運輸関連コンテンツのタクソノミーの作成作業をはじめました。

 私たちは何千もの輸送関連のコンテンツをすべてを見直して、それを記述するための用語を抽出するようなことはしたくありませんでした。そのようなやり方はあまりに多くの時間を費やします(そして、私たちは正気を失うでしょう)。

 そのような方法にではなく、私たちの開発者がさまざまな運輸関連の主題に含まれる950項目の輸送コンテンツリストを作成する方法を見つけてくれ、類似したコンテンツアイテムの重複を最小限に抑えることができました。これにより、コンテンツをすべて読むことなく納得できる包括的な運輸コンテンツを作成する際に必要な用語リストを生成することができました。

 その結果「運転免許」「バス規制」「海事訓練」など650のユニークな用語がわかりました。

 次に生成された用語をグループ化しました。それぞれの用語をカードに印刷し、それらを大きなテーブルに置き、類似した用語をグループにまとめました。結果をスプレッドシートに転記し、非常にラフでフラットなタクソノミーのドラフトを作りました。このタクソノミーのドラフトは3か月の間に実際のユーザーに対してテストします。

 また、「ユーザー識別ワークショップ」を通じて運輸省が抽出したユーザーグループの一部(ドライビングインストラクター、MOTテスター、パイロットなど)とのインタビューを行います。ユーザーのニーズ、よく使う言葉、どんな作業を行うかを理解する必要があります

私たちは現時点でどこまでこれたのか

 今年4月から6月の目標は2つの輸送サブテーマを監査することでした。運輸省とその関連機関のコンテンツデザイナーの莫大な努力のおかげで、10のすべてのサブテーマの完了に近づきました。実際に7月の終わりには7,396のアイテムを含むすべての監査を完了することができました。

 私たちのもう1つの目標は、ユーザーテストのためのタクソノミーのドラフトを作成し、ユーザー調査でユーザーのニーズを理解することでした。そして、その目的地に到着することができました。タクソノミーをユーザーテストで磨き上げ運輸省と関連機関はこれからコンテンツのタグ付けを開始します。

これからの旅程

 監査が完了し、これから更にハードな仕事が待ち受けています。監査期間に特定されたコンテンツの改善をします。運輸省と関連機関はこの作業を段階的に進めて、コンテンツを見つけ出すために最も重要なもの(タイトル、サマリー、正しいコンテンツタイプ)から改善をしていきます。

次のステップ

 運輸省と関連機関はこの変革テーマをやり遂げました。また、英国のビザ入国管理局(UK Visas and Immigration )と協力して「訪英」テーマについても大きな進歩を遂げました。

 私たちは大規模なコンテンツ改善やタクソノミーの作成について多くのことを学びました。10月から12月にかけて、ここで得られた学習を活用して新しいプロダクトに取り組みます:官公庁や関連機関が自分たちで同じ作業ができるように標準化されたツール、ガイダンス、トレーニングを開発します。どうぞお楽しみに!

翻訳:カタパルト式スープレックスなかむらかずや

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