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書評|コミュニティーとソーシャルと催涙ガス?|Twitter and Tear Gas by Zeynep Tufekci

 

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 インターネットとソーシャルメディアでコミュニティー活動がとてもやりやすくなりました。ボク自身も『デザイン+ジャパン』というデザインで日本の社会的問題を解決するコミュニティーをはじめましたが、インターネットがなければまともに活動できません。

 

Twitter and Tear Gas: The Power and Fragility of Networked Protest

Twitter and Tear Gas: The Power and Fragility of Networked Protest

 

 

コミュニティーとインターネットとソーシャル

コミュニティー活動自体は昔から存在していましたが、インターネットとソーシャルメディアがコミュニティーを加速度的に広げて行きました。昔だとはてなのヘビーユーザーの「はてな村」なんてありましたが(いまでもある?)、あれも一種のコミュニティーです。コミュニティーの影響力は大きく、企業でも活用しています。AWSのユーザーグループコミュニティーのJAWS-USなんて代表的な成功事例ですよね。

目的や嗜好を共有する人たちの集まりという意味でコミュニティー活動は当然ながらインターネット以前から存在していました。例えば、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアなど公民権運動の活動家たちも人種差別をなくすという目的を共有した人たちの集まりで、モンゴメリー・バス・ボイコットやワシントンD.C.への20万人デモ行進など組織的にやらないと当然ながら実現できない。それを実現したのが当時のコミュニティーでした。

ソーシャルと催涙ガス

今回の本は"Twitter and Tear Gas"(Twitterと催涙ガス)という非常に物騒なタイトルで、インターネットとソーシャルがどのようにコミュニティー活動に影響を与えているか、特に政治的活動家と言われている人たちのコミュニティーに影響を与えているかを考察した本です。

Twitter and Tear Gas: The Power and Fragility of Networked Protest

Twitter and Tear Gas: The Power and Fragility of Networked Protest

 

インターネットとソーシャルによって公民権運動のような活動が簡単にできるようになりました。それが表面化したのが「アラブの春」と呼ばれる一連の運動でした。海外生活が長いとはいえ、ボクも日本人なので馴染みの薄いアラブの世界はよくわからなかったです。オランダにもたくさんアラブの難民がいて、ヨーロッパ全体で難民問題は課題になっていました。

この本を読んでわかったのですが、アラブの春って社会的にはすごいインパクトだったんですね。エジプトでの運動なんて、タハリール広場に集まった200万人の必要物資をたった四人の海外のエジプト人がロジスティックをオンラインで全て調整したんですから驚きです。オンラインと言ったって、専用ツールとかじゃなく、TwitterやGoogleスプレッドシートのような普段から使っているツールです。そして現場では座り込みを阻止するために催涙ガスで制圧しようとして軍と市民が衝突となりました。本のタイトルはここから来てるわけです。

デジタル時代のコミュニティー維持の難しさ

デジタル時代のコミュニティー活動はすぐに大きくなるけど継続は難しいという特徴があるようです。例えば一連のデジタルコミュニティー革命と言える事象はこれといった成果を達成していないことでもわかります。エジプトではムバラクは退陣しても軍事政権はそのままだし、アメリカでも特に貧富の差が解消されたわけではないし。

著者は目的意識や共通認識の醸成は単純に時間がかかるというのが理由の一つとしています。「で、どうしたいの?」という合意がコミュニティー全体では生まれにくい。それはリーダーがいないというデジタル時代のコミュニティーの特徴でもある。例えば『デザイン+ジャパン』で今一番時間を使っているのは「目的と手段」の定義です。社会的課題ってなに?デザインってなに?誰が主体的なの?自分たちの役割は?こういうことを行動と並行してコミュニティー全体で考えていかないと、ツールがあっても中身がなくなってしまう。そして、その中身がコミュニティーの外からも共感が得られないようだと続かない。著者はこの辺りをシグナリング理論で説明しています。

デジタルコミュニティーとティール組織

この目的や行動規範の醸成という課題はティール組織やホラクラシーにも通じると思うんですよ。リーダーがいないフラットな組織という意味ではコミュニティーとティールは似ている。『デザイン+ジャパン』の組織デザインを考えた時も参考にしたのはティール組織でした。ボク自身(や数人のメンバー)がリーダーとしてなんでも決めるモデルにはしたくなかった。そして、実際にやってみるとそれはかなり難しい。「で、どうしたいの?」という共通認識がやっぱり大事です。それでも、企業の場合は「お金を儲ける」とか、「サービスを広げる」とか目先のゴールの共通認識は生まれやすいでしょう。でも、もっと大きな「で、どうしたいの?」という企業がよく掲げるミッションステートメントやビジョン、行動規範みたいなものです。コミュニティーが人の集まりであり、人それぞれ違った考えを持っている以上、こういった目的意識や行動規範の方向性を揃えるには時間がかかるのだろうと思います。

この本ではソーシャルメディアが持ついい側面と悪い側面を活動家の立場から分析もしています。フェイクニュースやネット中立性など重要なトピックについて考えるときも、普段あまり考えたことのないアングル(政治活動家の立場)から紹介しているので理解が深まりました。

興味のある方はTEDTalkもありますので、ご覧ください。

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