数えてみたら2019年に観た映画は65本でした(数え忘れを含めると、たぶん、実際はもうちょっと多い)。一週間に一本以上は見ている計算ですね。えー、そんなに観てるかな?と自分でも不思議なのですが、数えてみたらそうなんだから仕方がない。
その中でも「(本国または日本で)2019年公開」という条件つきで選ぶとしたら、どれが個人的に好きだったか考えてみました。このリストに関しては他と違って好きな順です。
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
2019年一番好きだった映画は間違いなくクエンティン・タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でした。タランティーノがジャンル映画(ジャンル分けが容易なB級娯楽映画)という得意技を封印してまで真摯に映画と向き合った映画です。明らかにお金がかかっているし、暴力もかなり抑えられています。この映画を一言で表すなら「愛」ですよ。これほど優しい映画はなかなかないし、それを映画大好き人間のタランティーノが作ったのがすごく嬉しい。
一般的な評価は分かりませんが、スパイク・リーの『25時』にも映画愛を感じたんですよ。あの映画もスパイク・リーがブラック映画という得意技を封印して真摯に映画と向き合った映画でした。ボクはスパイク・リーの映画の中でも『25時』がダントツで好きです。最新作の『ブラック・クランズマン』も悪くなかったですけどね。
話を『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』に戻しましょう。最初に観た感想が「いい映画だった」で、時間が経つにつれてジワジワと「ああ、本当にいい映画だった」に変化していきました。ボクは多分この映画をこれから何回も見返すことになるでしょう。本当にいい映画でした。
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帰れない二人
ジャ・ジャンクー監督『帰れない二人』を観終わった時の感覚は成瀬巳喜男監督作品を観終わったときの感覚に似ていました。具体的に言えば『乱れる』を観終わった時の感覚にとても近かったです。変わりゆく時代に翻弄される男と女というテーマもそうなんですが、その終わり方ですよ。バンッ!って感じ。
上半期のベストに入れた『流転の地球』もそうなんですが、中国の文化的な急成長には目を見張るものがありますよね。SFに関して言えば小松左京が出てきた頃の日本、映画でいえば小津安二郎や成瀬巳喜男が出てきた頃の日本のようです。
60年代の日本でも現代の中国でも男ってのはダメなんですけどね。そこは変わらないんだなと。ああ、寅さんを観たい。
サタンタンゴ
本当は個人的には第一位 。ただ、4Kレストア版の初公開という今回の趣旨である「初公開」具合が微妙なのでこの位置。しかも、ボク個人は2020年1月2日に観たので、この点も若干反則気味。それでも入れたい!それくらい素晴らしい映画でした。
7時間18分という『アイリッシュマン』の2倍以上の長さ。観終わったあと、首と腰が痛くなりました。それでも観終わったあとの満足感(そして達成感)は他に映画では得難い体験です。
話はとても単純で、おそらく3分で説明できます。アート映画っぽい小難しさはありません。
映画としての特徴は長回しの多用などたくさんあるのですが、それを一つ一つ説明するのはあまり意味がありません。タル・ベーラ監督は持ち得るすべての映画的技法を用いて、この単純な話を深遠な映画体験に昇華するのに成功しました。7時間18分ドップリ体験できる幸せ。
ザ・バニシング -消失-
こちらも日本では2019年劇場初公開なので入れました。とは言え、劇場では観れずにクライテリオン版のBDを購入して英語字幕で観ました。
ボクはホラー映画は好きなのですが、グロいのはダメです。痛いのもダメです。『ソウ』とか『ホステル』とかダメです。でも、安心してください。『ザ・バニシング』はサイコサスペンスですがグロくないですし、痛くもないです。観客を無駄にビクッとさせるような安い演出もありません。ボクのようなビビリでも楽しく観れます。ただ、すごく怖いです。人間って怖いよねって感じの映画です。
ドキドキハラハラというのは映画娯楽の基本だと思うんですよね。それは昨年に完全版が公開されたフリードキン版『恐怖の報酬』でも同じですよね。『ザ・バニシング』はホラー映画が本来持つ純粋なドキドキハラハラをやすい演出なしで体現したのが素晴らしいと思うんです。
ドクター・スリープ
ボクはスタンリー・キューブリック監督が大好きで作品を全て観ています。その中でも『シャイニング』は大好きです。そして原作を書いたスティーヴン・キングも大好きです。でも、小説『シャイニング』はまだ読んでいません。それは先に映画『シャイニング』を観てしまったから。ギャップが怖かったからなんだと思います。
映画『シャイニング』は簡単に言えば人間の怖さを描いた映画ですよね。人の中にある潜在的な狂気は、出口がなければ滓(オリ)のように溜まってしまうものだし、ちょっとしたきっかけで「狂気」は人を乗っ取ってしまう。その続編である映画『ドクター・スリープ』はそれに対する「希望」の映画です。だからダニーはもう一度立ち向かわなければいけなかった。幽霊やアンデッドは舞台装置に過ぎません。なんだっていいんです。実際に映画『ドクター・スリープ』は全く怖くないです。ビビリのボクが言うんだから間違いないです。ホラー映画ですらありません。希望の映画が怖いわけないじゃないですか。
映画『ドクター・スリープ』がすごくよかったので、原作である小説『ドクター・スリープ』を読みはじめました。でも、すぐ気付いてしまったんです。「あ、これ小説『シャイニング』から読み直さないとダメだ」って。映画『ドクター・スリープ』は映画『シャイニング』の続編。でも、小説『シャイニング』は映画『シャイニング』と若干違う。そして、その差異が小説『ドクター・スリープ』のはじまりから出てしまっている。そういうわけで、今は小説『シャイニング』を読みはじめています。
その他のコメント
- なんで『ジョーカー』や『スターウォーズ』が入っていないの?まだ、観てないからです。もうちょっと、みんなが落ち着いたら観ます(たぶん)。
- なんでMCU作品が入っていないの?大好きですよ!全部もちろん観てますよ!ヴァルキリーがペガサスに乗って戦うシーンなんて現在最高峰の技術を全て注ぎ込んだ本当に素晴らしいシーンでした。でもアレは単体よりもシリーズなんですよ。
- なんで『アイリッシュマン』が入っていないの?いい映画だけど、長すぎるからだよ!
- なんで、アレが入ってないの?コレが入ってないの?知らねーよ。テメーが自分で好きなリスト作れ!
2019年末までに観た映画(ひとことレビュー)
- アイリッシュマン:おじさん三人主役の三角関係大河ドラマ
- Carmine Street Guitars:ハンドメイドギターを一本ほしい
- シオリノインム:絶妙なエロ
- シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション:強すぎる原作愛
- ゾンビランド/ダブルタップ:アレから10年経ってるなんて信じられない!
- ダイナー:バリー・レヴィンソン監督の最初の長編映画はとてもパーソナルなんだな
- The Dead Don't Die:おい、ジム・ジャームッシュさんよ、ゾンビ映画なら何でもいいってわけじゃないんだぜ
- ドクター・スリープ:最近のスティーブン・キングを体現しつつ正統な映画『シャイニング』続編
- Finding Steve Mcqueen:だんだん主人公が憎めなくなる
- Booksmart:世間知らずのガリ勉ちゃん達が卒業前にガンバル
- ミッドサマー:白魔術の白昼夢
- ランブルフィッシュ:もっといい映画になるポテンシャルは十分にあったはず
- ルディ・レイ・ムーア:エディー・マーフィーを見直した
- ザ・ランドロマット:珍しくいいと思ったソダーバーグ映画