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書評|脳から見た人間と社会の関係|"Social" by Matthew Lieberman

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最近はソーシャルメディアに対して批判的な意見が多く出てきています。ソーシャルメディアがなぜ有害なのかを論じる上で、人間と社会の関わり合いを科学的に説明すると感じる論者は多いようで、今回紹介するマシュー・リーバーマンの著書"Social"(日本語タイトル『21世紀の脳科学』)の引用を多く見かけるようになりました。この本が出版されたのはすでに5年以上も前なのですが、そういうわけで改めて読み直してみました。

Social: Why Our Brains Are Wired to Connect (English Edition)

Social: Why Our Brains Are Wired to Connect (English Edition)

21世紀の脳科学 人生を豊かにする3つの「脳力」

21世紀の脳科学 人生を豊かにする3つの「脳力」

  • 作者: マシュー・リーバーマン,江口泰子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/05/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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人間はどう社会的動物なのか?

アリストテレスが「人間は社会的動物である」といったように、人間と社会は切っても切れない関係だと昔から考えられてきました。その関係を脳科学から具体的に検証しようというのが本書"Social"の狙いです。著者リーバーマンは人間は社会的であることを脳に組み込まれているといいます。陽電子放射断層撮影(通称PET)で脳の様子を知り、仮説検証できるんだから今の脳科学はすごいですよね。

人間が何もしていない時の脳の状態こそが本来の状態であろうということで調べた結果にわかったのがデフォルトネットワークでした。デフォルトネットワークは他人とのつながりを考えているときにオンになる脳内ネットワークです。何もしていないときはこれがオンになっている。さらに、生まれたばかりの赤ちゃんもデフォルトネットワークがオンになっていることがわかっています。

つまり、こういうことです。人間は社会に興味があるからデフォルトネットワークがアクティブになるだけでなく、デフォルトネットワークがあるから、社会に興味がある。

生まれたばかりの赤ちゃんもソーシャルな理由

人間の欲求を5段階で表したマズローの欲求五段解説はとても有名ですね。一番下が生理的欲求で、食事とか睡眠とか。社会欲求は真ん中の三番目。一番上は自己実現。下が満たされないとその上は満たされにくいという関係にあります。

しかし、この順番は人間の赤ちゃんには当てはまらないとリーバーマンは言います。人間は動物の中でも完全に大人になって独り立ちするのに時間がかかります。鹿や馬の赤ちゃんなんて生まれてしばらくすると立ち上がって自分で歩きはじめますが、人間の赤ちゃんは何年かかかります。人間の赤ちゃんの生存にとってまず必要なのは保護してくれる人です。食べ物やミルクがあっても自分ではどうすることもできません。つまり、三番目の社会的欲求が生理的欲求より下の基盤になるのです。

心の痛みも鎮痛剤で治る?

この書籍では人間が社会的生き物として機能するための脳の役割をたくさん解説しています。その中で面白かった例をいくつか。

  • 心の痛みにバファリンが効くということ。痛みに関係する前帯状皮質は心の痛みでも体の痛みは同じに扱うそうです。オピオイドが脳内に増える現象が観察されています。
  • オキシトシンは愛情や親切な気持ちをつかさどるホルモンですが、好意を抱いている知り合いに対してだけでなく、見ず知らずの他人に対して接するときもこのホルモンが分泌されることが観察されています。
  • 他人の考えを察する気持ちは5歳くらいから発達しはじめます。他人への共感はなかなか複雑なシステムで、理解も「何をしているのか?」と「なぜしているのか?」が必要。
  • 「何をしているのか?」の理解をつかさどるのはミラーニューロンであり、ミラー・システム。「なぜしているか?」の理解をつかさどるのは側頭頭頂接合部でメンタライジング・システム。
  • 他人への共感にはあと2ステップ必要になる。「なぜしているのか?」の理解の後には感情マッチング(affect-matching)が必要になる。例えば他人が感じる痛みを自分でも感じる。実際に他人が痛みを感じると、前帯状皮質が分泌されるそうです。
  • 最後のステップが共感的動機(empathic motivation)で縫線核が働き、共感に基づく行動につながります。

この本はどんな人におすすめか

単純に雑学ネタとして面白いので、雑学ネタが好きな人にはお勧めです。あと、共感はデザインにとって重要なコンセプトなので、その脳内プロセスを知ることは重要だと思います。