カタパルトスープレックス

興味がない人は無理して読まなくていいんだぜ。

2020年ベスト洋書|ベスト・オブ・2020

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2019年はショシャナ・ズボフの"The Age of Surveillance Capitalism"ローレンス・レッシグの"They Don't Represent Us"が発表され、資本主義や民主主義の根本について多くの人が考え直した時期だったと思います。2020年の英語圏の書籍は、2019年から引き続き資本主義と民主主義をさらに深く掘り下げる仕事が多かったような気がします。

2019年洋書ベスト5冊|ベスト・オブ・2019 - カタパルトスープレックス

今回は読んだ(オーディオブックなので聴いたが正しい)順に2020年に心に残った英語圏で発表された新著をピックアップしていきます。日本語に翻訳された書籍は和書のタイトル、まだ翻訳されていない書籍は英語のタイトルで紹介します。

『「ユーザーフレンドリー」全史』 by クリフ・クアン

2020年に一番最初に読んだ本はUXの歴史を紐解くクリフ・クアンによる『「ユーザーフレンドリー」全史』でした。表面的なテクニックや曖昧なコンセプトのデザイン本はたくさんあります。消費されるためのハウトゥー的なデザイン本。Howを扱った本。しかし、本書はもっと奥深いデザインの「なぜ(Why)」を扱っている本です。

"Sex Robots and Vegan Meat" by Jenny Kleeman

テクノロジーはどこまで人間の領域に踏み込んでいいのか?テクノロジー万歳!プライバシーを捨てろ!テクノロジーの全てを受け入れろ!というテクノユートピアンな時代は既に過去になりました。その反動でGAFA批判の本が最近ではたくさん出版されていますが、本書はもっと人間の根幹である性、命、死にテクノロジーはどこまで関与していいのかというなかなか刺激的な本でした。

"Capital and Ideology" by Thomas Piketty

トマ・ピケティのこのレンガのように分厚い新著のおかげでブログがしばらく停滞しました。その分量もさることながら、情報を消化するのにとても時間がかかりました。ここ最近の新自由主義を批判する論調の多くは前著『21世紀の資本』からのリファレンスが多いですし、本書はまた新たなフォロワーを生み出すだけの仕事だと思います。

"Science Fictions" by Stuart Ritchie

 テクノロジー万能の時代は過ぎましたが、科学は相変わらず万能だよね?そんな科学に対する過信に警笛を鳴らしたのが本書でした。科学自体は人類が持つ最も有効な問題解決手段であるのは揺るぎないのですが、その運用が科学を危うくしている。フェイクニュースだけでなく、フェイクサイエンスはこれからもっと問題になっていきそうな予感。

"The Tyranny of Merit" by Michael J. Sandel

 ピケティの新著"Capital and Ideology"は確かに新しいマスターピースですが、後半のリベラルと保守の議論については分かりにくい部分が大きかったような気がします。「バラモン左翼」とか「商人右翼」のようなセンセーショナルな単語が飛び交う割には議論の焦点がよくわからない。そこに出てきたのがマイケル・サンデルの本書でした。もう、保守/リベラルのような分け方って有効期限が過ぎてしまっているのだと気づかせてくれました。