(武山先生のサービスデザイン本が出たのでアップデートしました)
日本に10年ぶりに戻ってきて驚いたことがいくつかあります。リーン・スタートアップやグロースハック、デザイン思考を知らない人が多いのもその一つです。もちろん、知ってる人も多いんです。ただ、ボク個人はそういう人にあまり出会わない。普通に会話していても相手の頭の上に「???」とハテナマークがたくさん見える。
シンガポールなどだと政府機関の多くは「デザイン室」を設置してデザインのアプローチを行政で活かしていたり。Ministry of Manpowerのプロジェクトを皮切りにIDEOなんかも人間中心の行政作りに関してシンガポール政府に協力しています。
オランダでもINGを筆頭に、ほぼ全ての金融機関が「イノベーションラボ」を置いてアジャイル、リーンスタートアップ、グロースハックを事業部単位で取り入れる仕組みを作ってる。これは東南アジア最大の金融機関であるシンガポールのDBS銀行でやっているDBS Asia Xでも同様です。
そこで日本でのデザイン思考やサービスデザインなどの日本での現状を慶應義塾大学経済学部の武山教授に聞いてきました!武山教授は日本におけるサービスデザインの第一人者で、ご自身が日本ではじめてのサービスデザインの会社、アクタントを立ち上げに関わっています。
日本企業におけるデザイン的アプローチの浸透
カタパルト式なかむら
早速なのですが、日本におけるサービスデザインやデザイン思考の浸透具合はいかがでしょうか?
武山教授
先進的な取り組みをしている企業は増えています。アクタントのクライアントとか(笑)ただ、それが広く裾野まで広がるのはこれからだと思います。私の場合は周りの人たちがデザインになんらかの形で携わっている人が多いのですが、受け入れ方はポジションによって違いますね。
企業のトップの人なんかだと顧客視点で新たな価値を生み出すことには興味があるというか、意識はしているんです。世の中でもよく言われていることですし。そして「デザイン思考ってあるらしいけど、うちはどうなってる?」と現場に聞いたりする。もちろん現場のデザイン部門の人たちも意識はしている。でもなかなか実現しづらい。興味はあるけど、やっている時間がない。
そういった意味では、興味や意識レベルは上がっているけど、実際の取り組みはまだまだこれからといったところでしょうか。今は若い人たちから裾野が広がりつつあるという感じです。
カタパルト式なかむら
実際の事業をしている人、特に営業に関わっている人と話をすると自然とデザイン的なアプローチをとっている場合もあります。現場を観察して、仮説を立てて、検証するということをスモールバッチでスピード感持ってやっている。そもそもソリューション営業自体がかなりデザインプロセスと言える。
武山教授
営業って日常的にフィールドリサーチをしている職種ですからね(笑)
あと、日本の場合はPDCAを回して行く組織的な習慣があるというのもあるかもしれません。知識以前に実践している。ただ、それが意図的にデザインできているかといえばそうではない。
外に向けたデザイン、中に向けたデザイン、デザインの進む方向
カタパルト式なかむら
企業でのサービスデザインの取り組みは大きく分けて組織の内側に向けたものと組織の外側に向けたものがあります。組織の内側に向けたものだと人事の社員満足度の取り組みなどが代表的な例です。
武山教授
まず、組織の外側に向けたサービスデザインについて。サービスデザインの特徴はサービスを受ける側と提供する側をつなぐところにありますよね。例えばディズニーランドがサービスを提供する側で、そこへ遊びに来るゲストがサービスを受ける側。サービスを受ける側へのエクスペリエンスのデザインが注目を集めがちなのですが、サービスを提供する側のデザインはまだまだこれからです。
次に組織の内側に向けたサービスデザインですが、まだまだこれからですが可能性が大きな分野です。サービスはサービスを提供する側も内部的にはサービス提供者とサービス受益者がいる。先ほどの例で言えば人事と社員。サービスデザインを取り入れる場合、まずは社内でやってみる。組織の内側のサービスデザインは企業は取り組んだ方がいいでしょうね。組織内の人たちの働き方をデザインすることでサービスデザインがどういうことなのか理解できることが期待できます。
カタパルト式なかむら
サービスデザインの特徴の話が出ましたが、デザイン思考やUXデザインなど顧客体験に対するデザイン的なアプローチが色々とあります。日本に限らずなのですが、それぞれの関係があまりよく理解されていないような気がします。
武山教授
まずデザインという言葉が人それぞれ受け取り方が違いますよね。日本人の場合はカタカナから入る。デザインも英語をカタカナにしてそのまま使っています。ただカタカナだとそれが実際にどのような意味なのか見えづらくなる。そうなるとデザインという言葉自体がバリアになってしまうんですよね。
最近は多少は誤解があっても日本語にしていかないといけないと感じています。日本や組織の文化に合わせて説明する必要があるんでしょうね。伝える側も柔軟性を持たないといけない。
さらにサービスとプロダクトの垣根がなくなってきたのも原因の一つですよね。サービス業だからサービスデザイン、製造業だからプロダクトデザイン、ソフトウェアだからUXデザインという区分の意味がなくなってきた。IoTはモノのインターネットと言いますが、本質は繋がることによるサービスの融合ですよね。
サービスという言葉もデザインという言葉も曖昧になってきて、これを「サービスデザインがなかなか理解されない二重苦」と言っています(苦笑)
知識としてのデザイン、実践としてのデザイン両方が日本で普及するには
カタパルト式なかむら
日本に帰ってきて最初の印象は「出会いの場が少ない」なんですよ。小規模でカジュアルなミートアップの場が少ない。シンガポールでもアムステルダムでもスタートアップやデザインのミートアップが毎週どこかであった。そこでいろんな人と知り合えたんですね。ところが東京ではあまりない。Connpassに大きなイベントはあるんですけどね。セミナーと懇親会を合わせた100名を超えるようなイベント。ただ、それだと実際に人と出会うのって難しい。IDEOのいうクロスポリネーションというか、人と人との出会いによる化学反応が起きづらい。
武山教授
アクタントがやっているのはクロスポリネーションなんですよ。出会いによる相乗効果。私たち自体は少人数なので全部できない。だから自然といろんな専門性を持った人たちと仕事をするようになる。出会いによる相乗効果はデザインの原動力の一つですよね。
ただ、業界全体を見回すと集まるのはいつも同じメンツかもしれません。UXはUXの集まり、アジャイルはアジャイルの集まりでやっている。それぞれのグループでの交流って限定的かもしれないですね。
サービスデザインの本をいま書いていて、それが今月の7月頃に出る予定です(9月11日に発売になりました!)。
カタパルト式なかむら
武山教授の本をきっかけに日本でもサービスデザインがもっと広く普及するといいですね!本日はありがとうございました!