いま世界の広告代理店のトップはイギリスのWPPグループですね。そのグループの一員であるオグルヴィの母体は1890年に創業して、ローカルな諺だった「1日1個のリンゴは医者を遠ざける」を世に広めたりしました。しかし、オグルヴィが本当に世界的に有名になったのは「広告の父」デイヴィッド・オグルヴィが買収してからですね。ブランディングといえばオグルヴィというイメージがとても強いです。
そして、ロリー・サザーランドはオグルヴィ・グループで行動科学に基づくブランディングを作り上げた人です。世の中は「ロジック」が重視されていますが、「マジック」の役割をもっと理解すべきだと著書"Alchemy"でロリー・サザーランドは主張します。この本の副題「黒魔術とマジックを作り上げる奇妙な科学」がそれを表していますね。
Alchemy: The Dark Art and Curious Science of Creating Magic in Brands, Business, and Life
- 作者: Rory Sutherland
- 出版社/メーカー: William Morrow
- 発売日: 2019/05/07
- メディア: ハードカバー
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スタートアップで成功しようと思ったら、ユーザーが求めるプロダクト(PMF)を見つけないといけません。PMFは簡単にいえばユーザーにとってプロダクトが提供する価値です。PMFを見つけようとしたら、ユーザーに理解してもらうと思ったら、その価値を簡単に表現できなければいけません。究極的に分かりやすい価値って吉野家じゃないですが「早い、安い、うまい」だと思うんですよね。ユーザーは何かやりたいことがある。それが早くできるのか?安くできるのか?うまくできるのか?これがスタートアップ的な考え方です。
しかし、ブランドの観点では必ずしも「早い、安い、うまい」が価値ではありません。それだけでは足りません。ロジックが必ずしも価値を生み出すわけでなく、マジックの果たす役割が大きい。ロジックは議論には有効ですが、現実には(時にロジックに反する)マジックが必要です。なぜなら、世の中はロジカル(論理的)に動いていておらず、サイコロジカル(心理的)に動くからです。
ロジカルに説明できることが実際に動く証明にはなりません。
論理的だが、動かない (多くの政治的問題) |
論理的だし、動く (クルマなど) |
論理的ではないし、動かない (タイムマシンなど) |
論理的ではないが、動く (自転車など) |
実際に動くかどうか、論理的に説明する必要があると感じますが、論理的に証明する前に動いてしまっているものがたくさんあります。例えば、人が自転車に乗って倒れずに進む科学的根拠はよくわかっていません。その反対に論理的なのに、実際にはそうなら無いことが非常に多いです。例えば、ブレグジットとかドナルド・トランプ大統領です。多くの政治的な問題はこのカテゴリーに入ります。
広告は「論理的ではないが、動く」カテゴリーのものがとても多い。例えば、なかなか売れずに困っているプロダクトがあったとする。二つの提案がある。提案1:価格を下げる、提案2:広告にアヒルを使う。人気があるプロダクトはロジカルな理由で説明できません。ハイファッションはファストファッションのように普及したら人気がなくなる。欧米で味噌汁が人気があるのも、それが日本のものだから。「よい」のロジカルな対義語は「悪い」だけど、「よい」のサイコロジカルな対義語は「よりよい」だったりする。
この本はどんな人におすすめか
行動心理学の観点から顧客の価値創出について書いてある本です。ダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』をすでに読んでいる場合は、パスしてかまいません。『ファスト&スロー』をまだ読んでいなくて、広告業界の人がどのように顧客価値を考えているのか知りたい人にはおすすめです。ボクもそうですが、ビジネスの現場では論理的に考えたり行動するクセがついてしまっています。悪いことではないのですが、顧客価値は論理に説明できるだけではダメなんですよね。
ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか? 文庫 (上)(下)セット
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