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興味がない人は無理して読まなくていいんだぜ。

書評|アメリカのシャーロック・ホームズはリンカーン・ライムのルーツ|"American Sherlock" by Kate Winkler

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ボクはシャーロキアンとまではいきませんが、シャーロック・ホームズが大好きです。「聖典」はすべて読んでいますし、映画もだいたい観ています。ロンドンにあるベーカー街221B(シャーロック・ホームズ博物館)にも行きました。シャーロック・ホームズは化学、地層学、植物学や解剖学などを応用した化学的な証拠検証で犯人を探し当てます。警察を後ろで支える鑑識課みたいなイメージです。

今回紹介するケイト・ウィクンラー著"American Sherlock"はアメリカの科学的捜査を土台を作ったエドワード・オスカー・ハインリッヒを紹介します。アメリカの人気テレビドラマ『CSI:科学捜査班』で使われる手法の基礎を築き上げた人です。

American Sherlock: Murder, Forensics, and the Birth of American CSI

American Sherlock: Murder, Forensics, and the Birth of American CSI

ボクは現代の科学的な捜査に興味を持ったのがジェフリー・ディーヴァーの「リンカーン・ライム」シリーズです。四肢麻痺のリンカーン・ライムはベッドから動けないので警察官のアメリア・サックスやニューヨーク市警鑑識課のメル・クーパーがリンカーン・ライムの指示やアドバイスで動きます。アメリアがグリッド操作で犯行現場から遺留品を見つけ、メル・クーパーが遺留品の砂や糸くずから科学的に手がかりを探し出すのが基本パターン。

ボーン・コレクター 上 (文春文庫)

ボーン・コレクター 上 (文春文庫)

フランスのシャーロック・ホームズと呼ばれ、科学捜査の始祖的な存在のエドモンド・ロカールは「すべての接触には痕跡が残る」と言いましたが、リンカーン・ライムもロカールの交換原理の信奉者でした。そして、本書の主人公であるアメリカのシャーロック・ホームズであるエドワード・オスカー・ハインリッヒもエドモンド・ロカールの影響を受けています。

エドワード・オスカー・ハインリッヒはアメリカの科学捜査に大きな功績を残しましたが、世間一般にはあまり知られた存在ではありませんでした。ハインリッヒが残した資料はすべてカリフォルニア大学バークレー校に寄付されたのですが、資金不足でカタログ化が進んでいなかったのです。今回、ケイト・ウィクンラーがその資料をすべて調べて本書を書き上げたのでした。

リンカーン・ライムも相当ひねくれた人ですが、エドワード・オスカー・ハインリッヒも難しい性格だったようです。ケイト・ウィクンラーは「(ハインリッヒは)現在であれば強迫性パーソナリティ障害(OCPD)だと診断されていたのではないか」と評しています。子供時代に経済的に恵まれた家庭ではなく父親も自殺をしてしまいました。そのため、高校も中退しました。薬剤師をやりながらカリフォルニア大学バークレー校に通い化学を専攻し、最終的に学位を取りました。卒業後はワシントン州タコマで衛生技師の職につきました。その後、コロラド州の職員として化学の知識を使って犯罪捜査の手伝いをするようになります。徐々に鑑識で頭角を現し、カリフォルニア州アラメダ郡で自治体警察のチーフとなります。

エドワード・オスカー・ハインリッヒの時代は禁酒法時代でした。禁酒法をきっかけに、殺人事件は増加して複雑化していきました。FBIは今のような犯罪捜査機関ではありませんでした。FBIは調査機関として主に銀行の不正取引を扱っていました。警察はリソース不足な上に捜査手法もビクトリア朝時代から進化していませんでした。日本の司法はなんて今でもそうだと批判されたりしますけどね。日本の場合は自白編重主義で、犯人の自白が最も信頼できる証拠とされています。さすがに『科捜研の女』でも有名な日本の科学捜査研究所が世界の捜査研究所と比べて劣っているということはないと思いますが、証拠として使われないならどれだけ優れた技術を持っていても意味ないですよね。

「容疑者の自白」に頼りすぎる日本の刑事司法 「まるで中世」の状態から抜け出せるか - 弁護士ドットコム

もちろん、いきなり科学的証拠が信用されたわけではありません。1910年にハインリッヒが最初の犯罪ラボを立ち上げたときには、あまり歓迎されなかったそうです。証拠は足跡で十分と考えられた時代に、科学や顕微鏡で調べる手法に多くの人が懐疑的だったようです。シャーロック・ホームズにレストレード警部がいたように、バークレーのオーガスト・ヴォルマーがエドワード・オスカー・ハインリッヒの鑑識手法に強い興味を持ち、多くの犯罪捜査で活用します。そして、実績を出し、信頼を築き上げていきます。

この本はどんな人にオススメか

推理小説、特に「シャーロック・ホームズ」や「リンカーン・ライム」シリーズのように科学的な捜査が好きな人にはオススメです。小説で出てくる鑑識手法はこうやって生まれたんだなって理解できます。一章に一つの犯罪ケースが紹介れていて、どのような手法がどのケースで生まれたのか解説してくれます。

なんでも新しい手法はそうですが、エドワード・オスカー・ハインリッヒだって全ての手法で成功したわけではありませんでした。失敗した手法もたくさんありました。性格に難ありの人だったようですしね。そんな部分もリンカーン・ライムに似ているなあと思いながら読みました。

ちなみに、いまはトマ・ピケティの漬物石のような分厚さの新著"Capital and Ideology"を読んでいます。あまりの分厚さのため、来週の書評はお休みするかもしれません。すごく面白い本なので頑張って読み終えたら来週には"Capital and Ideology"の書評を書きます。