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興味がない人は無理して読まなくていいんだぜ。

映画評|トーキング・ヘッズ『ストップ・メイキング・センス』のアップデート|"David Byrne's American Utopia" by Spike Lee

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デヴィッド・バーンのアルバム『American Utopia』(2018年)を元にしたブロードウェイのショウをスパイク・リーが映像化した作品です。デヴィッド・バーントーキング・ヘッズを解散してから1990年代のソロ活動はあまりピンと来ませんでした。それが2000年代からまたクリエイティビティーを取り戻して多くの楽しいアルバムをリリースして今日に至ります。

デヴィッド・バーンのライブ映像作品としてはトーキング・ヘッズ時代の『ストップ・メイキング・センス』(1984年)が決定的なのですが、そこから30年以上たったアップデートとなります。そう思えるほど本作と『ストップ・メイキング・センス』には共通点が多いです。

ストップ・メイキング・センス(字幕版)

ストップ・メイキング・センス(字幕版)

  • 発売日: 2017/07/07
  • メディア: Prime Video

まず、装飾を極力排除した舞台セット。本作の場合は演奏者と楽器しかありません。楽器も無線を使い、ラインは使っていません。『ストップ・メイキング・センス』もかなりシンプルでしたが、それをさらに突き詰めた究極のシンプルさ。また、演奏される楽曲も『ガールフレンド・イズ・ベター』や『サイコ・キラー』はないものの、トーキング・ヘッズ時代の曲が半数以上を占めています。

証明に関してはかなり『ストップ・メイキング・センス』を意識して、影を効果的に使っています。

しかし、『ストップ・メイキング・センス』にはなかったものが本作にはあります。それは映画(舞台)にとって重要なテーマとキャラクター造形。

テーマは「より良い世界を作ろう」なんでしょうね。まだまだ人種差別もある、日本と同じで若い世代の投票率が低い。もっと、人に興味を持とう。今回はそのためのシンプルな舞台セットです。演者と観客。人と人。それだけ。なんか、スパイク・リーが本作を撮った理由がわかる気がします。

トーキング・ヘッズは良くも悪くもフロントマンであるデヴィッド・バーンのバンドだったと思います。『ストップ・メイキング・センス』もそれを反映してズートスーツを着込んだデヴィッド・バーンだけが目立っていた。良くも悪くもです。2000年以降のデヴィッド・バーンは多くの人とコラボレーションをしてトーキング・ヘッズにとらわれない活動をしてきました。ファット・ボーイ・スリムと組んだ『Here Lies Love』やセイント・ヴィンセントと組んだ『Love This Giant』なんて近年の代表作ですね。コンピレーションアルバムの『Dark Was the Night』でダーティー・プロジェクターズと組んだ『Knotty Pine』とか最高でしたよね。

本作でもデヴィッド・バーンの存在感は圧倒的なのですが、それぞれの演者の個性もスパイク・リーはうまく捉えていると思います。

『ストップ・メイキング・センス』はやはり傑作ですが、ボクは本作も好きです。