カタパルトスープレックス

興味がない人は無理して読まなくていいんだぜ。

書評|人間と動物の優しい共存のための豆知識|"Animalkind" by Ingrid Newkirk

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今回はどうやって紹介したらいいのか、なかなか迷った本です。単純に「動物好きにおすすめの本!」とも言えるし、もっと社会的に「ヴィーガンや動物愛護を理解するための本!」とも言える。更に「文明発展の中における動物の位置づけ!」みたいに大きな括りで読むこともできる。まあ、最終的には読む人に委ねられることだと思いますが。

"Animalkind"は動物の倫理的扱いを求める人々の会(PETA:People for the Ethical Treatment of Animals)の創立者であるイングリッド・ニューカークの初めての著書です。PETAは動物の権利を推進して動物保護活動をしています。この本は二部構成になっていて、第一部が動物について、第二部が動物と優しく共存することについて書かれています。

Animalkind: Remarkable Discoveries About Animals and Revolutionary New Ways to Show Them Compassion (English Edition)

Animalkind: Remarkable Discoveries About Animals and Revolutionary New Ways to Show Them Compassion (English Edition)

  • 作者:Ingrid Newkirk,Gene Stone
  • 出版社/メーカー: Simon & Schuster
  • 発売日: 2020/01/07
  • メディア: Kindle版

第一部は動物についてわかってきたことを紹介しています。人間は賢いけれど、動物も同じかそれ以上に賢い。ただ、人間と同じ測り方はできない。いきなり地球に降り立った宇宙人とコミュニケーションを試みる映画『メッセージ』なんか観ても思うのですが、自分のモノサシが他人(ましては他の種族)に通じるわけないんだよなと。

メッセージ (字幕版)

メッセージ (字幕版)

  • 発売日: 2017/07/21
  • メディア: Prime Video

人間の尺度の知能テストを動物にやっても意味がない。例えばなのですが、人間が聞き取ることができない周波数があるし、人間が到達できない距離もある。多くの動物は人間ができない能力を持ちます。脳の大きさや、全体の体積における脳の割合も人間が一番ではないそうです。

人間のモノサシで優劣を決めるのは限界があるけれど、それでも動物ってすごいんだよとイングリッド・ニューカークは様々な豆知識を提供してくれます。例えばなのですが、犬は人間の言葉を単語で200はわかることが研究でわかってきているそうです。また、犬と人間の共生関係は数千年に及び、同じ環境に生きるため、似た病気にもかかる。犬だけでなく、多くの動物は形からシンボルを理解できそうです。例えばバナナの絵が食べ物を表すなど。牛はアイコンタクトでコミュニケーションする。豚は鳴き方でコミュニケーションする。鳴き方がパターン化できるのだそうです。鶏も30種類程度の鳴き方でコミュニケーションすることがわかっている。イルカのコミュニケーションもデニス・ハーシングのTED Talkでも紹介されていますね。

面白いと思ったのはタコの事例です。タコは肌の色を変えてコミュニケーションするのだそうです。そして、タコは道具を使うこともできるし、迷路を脱出することもできる。ちなみにタコには触手(tentacle)は無いそうです。え?あの8本足は何なの?と思うじゃ無いですか。あれは生物学的には腕なのだそうです。この本の第一部にはこう言った「へー!」と思うような動物に関する豆知識がたくさん紹介されています。

そして第二部が動物の倫理的扱いを求める人々の会の主張である動物の権利に近い部分となってきます。動物との優しい共存方法についてです。前回紹介したクリストファー・ライアンの"Civilized to Death"で解説されているように、人口が爆発的に増えたのは農業をはじめてからです。これほど人類が増えると、どうしてもいろんなところに歪みが出てきます。人口増加に比例して、人間のために動物を利用する機会が多くなる。その反面、動物を利用せずに人間が生きていくための科学や技術も進歩しました。

第二部を要約すると「近年は動物に対する理解が大きく進んだ。さらに、科学の進歩で動物を搾取しない代替手段が多く生まれた。だから、文明的に優しく動物と共存しよう」です。動物が搾取されている分野は大きく4つあります。

科学(動物実験)、ファッション(毛皮など)、エンターテイメント(見せ物としての動物や映画での殺戮)、食料(肉食)です。この四つの中で科学、ファッション、エンターテイメントは(完璧では無いにしても)進歩が見られる分野です。特にファッションとエンターテイメントはB2Cだから顧客の見る目も厳しくなってきていますしね。

おそらく、一番ホットな議論が食料でしょう。日本でも一部のヴィーガンの過激な行動が批判の対象になっていますよね。生物学的に言えば人間は草食動物に近いそうで、ヴィーガンの方が自然には近いのだそうです。科学の進歩で人工肉も美味しくなってきたそうです(ボクは食べてないのでわかりません)。以前に紹介したBeyond MeatsやMenphis Meatsなどのスマートミートがこれにあたります。科学の進歩で人間はもっと優しく動物と共存できるようになりますかね。

この本はどんな人にオススメか

もちろん、動物好きにはオススメです。ナショナルジオグラフィック的な豆知識は読んでて本当に楽しいです。ヴィーガンに興味がある人もオススメです。

ボクの場合はクリストファー・ライアンの"Civilized to Death"を読んだばかりだったので、"Animalkind"を次に読んで「文明の進歩ってなんだろうな」と改めて考えてしまいました。更にイブラム・X・ケンディの反人種主義に関する"How to Be an Antiracist"も思い起こしながら読みました。人種の違いで差別をするのが愚かなのであれば、種族の違いで差別するのも愚かなことになります。そうは言っても、生物の生命は他の生物の犠牲の上に成り立っているのも、これまた事実なのです。だって、植物にだって生命はあるわけですよ。生命の定義にもよるでしょうが。

もちろん、いきなり全ての問題を解決できるわけではなく、身近に解決できることから少しづつ手をつけていくしかない。文明の進歩を逆戻りさせることはもうできないのですから。「一人一人ができる範囲で良い世の中にしていくしか無いんだな」とか悟ったようなことを思いながら読みました。