マイケル・サルノスキ監督による『クワイエット・プレイス』のオリジンストーリー『クワイエット・プレイス:DAY 1』の映画評。
なんで地球はあんなになってしまったのか。その一日目を描く作品です。あいつらは何の予告もなくいきなり襲ってきた。オリジンストーリーなのですが、「なぜ?」には全く触れません。その内容はピザを食べに行く話です。本作の舞台となるニューヨークのソウルフードといえばピザですから。
主人公サミラ(ルピタ・ニョンゴ)は末期がん患者で余命いくばくもない。あいつらが来る前に死に向き合ってきた。死ぬ前にやりたいこと、それは父親との思い出のピザを食べること。サミラは地球が終わるまでに思い出のピザを食べることができるのか?という話です。
ストーリーとしてはピザを食べるまでのサバイバル。サバイバルといえば困難がつきもの。例えば足を引っ張る存在。今回は介護猫のフロド。がんとの闘いのなか癒してくれたフロドを助けないといけない。とはいえフロドはあいつらを気にすることもなく猫らしくどこ吹く風なのですが。サミラとしてはピザも気になるが、フロドも心配。ただ、これは舞台装置としてはそこまで効果的に働かなかったような気はしています。
テーマは「生きる意味」だと受け取りました。サミラにとって今日死のうが、明日死のうがあまり重要ではない。死ぬのは怖いけど、すでに受け入れている……というか折り合いをつけている。折り合いが付けられないことが一つあるとすれば父親との思い出。その場にもう一度行きたいという想い。
キャラクター造形はサミラと、同行者のイギリス人エリックの二人がメインとなります。サミラは末期がん患者という設定もあってキャラクターとしてはとても明確。どうせもう死ぬのけど、最後にピザを食べるまで死に抗う姿も説得力があります。エリックについては最初は単なる同行者でしたが、徐々に彼の人となりがわかってくる。そしてサミラとエリックはお互いに希望を見出していく。
ジョン・クラシンスキー監督からバトンタッチしたサルノスキ監督はニコラス・ケイジ主演の『PIG ピッグ』(2021年)を手掛けていますね。森とニューヨークの違いはありますが、静かだと雰囲気が似てくるから不思議です。ホラー要素が強かった第一作目の『クワイエット・プレイス』とはまた違ったドラマとしていい作品だと思いました。