奥山由之監督が手がけた群像劇かつ会話劇『アット・ザ・ベンチ』(2024年)は、Vimeoで無料公開された二つのエピソードに新たな三編を加えた全五編のオムニバス長編映画です。脚本にはダウ90000の蓮見翔をはじめ、豪華キャストが顔を揃えた話題作ですが、残念ながら私はハマりませんでした。
- あらすじ|ベンチが繋ぐ五つのエピソード
- テーマ|「人生の断片」という曖昧さ
- ストーリーとキャラクター造形|繋がらないエピソードと魅力に欠ける人物たち
- 映画技法|シンプルなシチュエーションの限界
- 感想|「not for me」という正直な感想
あらすじ|ベンチが繋ぐ五つのエピソード
本作は、どこかのベンチに集う人々を描いた五つのエピソードから成るオムニバス形式の映画です。登場人物たちは広瀬すず、仲野太賀、岡山天音、草彅剛、吉岡里帆、神木隆之介などの豪華キャストが演じ、日常的な会話や些細な出来事を通じて人生の一片が描かれます。ベンチという共通のシチュエーションがあるものの、エピソード同士の繋がりはほとんどなく、各話が独立した短編のように進行します。
テーマ|「人生の断片」という曖昧さ
本作のテーマは明確には語られませんが、各エピソードが「人生の一瞬」や「それぞれの時間」を切り取ろうとしているように感じられます。しかし、そのテーマが観客に深く伝わるかと言えば疑問が残ります。日常の会話や出来事を題材にしながらも、キャラクターやストーリーに共感できる要素が薄く、テーマが曖昧なままに終わってしまっています。
ストーリーとキャラクター造形|繋がらないエピソードと魅力に欠ける人物たち
オムニバス形式の魅力の一つは、各エピソードやキャラクターが徐々に繋がり、物語全体としての深みを増す点にあります。しかし本作では、エピソード間の関連性がほぼ皆無であり、それぞれが独立しているため、全体のストーリーとしてのまとまりが欠けています。
キャラクター造形も弱く、豪華キャストが演じるにも関わらず、その魅力が引き出されていません。陳腐な会話や平凡な状況の中で、キャラクターたちが個性を発揮する場面がほとんどなく、観客に印象を残すことができていない点が致命的です。
映画技法|シンプルなシチュエーションの限界
本作の全体を通じて共通するのは「ベンチ」というシチュエーションですが、この制約がむしろ映画の表現を狭めてしまっているように感じられます。会話劇としての魅力は、言葉のやりとりやシーンのテンポ感にかかっていますが、本作の会話はそのどれもが平凡で、観客を引き込む力に欠けています。
『パルプ・フィクション』のような会話劇の先例では、会話が物語の核となり、キャラクターやテーマを浮かび上がらせていますが、本作ではその対極と言える結果になっています。視覚的な工夫も乏しく、ベンチという舞台設定を活かしきれていない印象を受けます。
感想|「not for me」という正直な感想
本作を支持する声もある一方、筆者にとっては「not for me」な映画でした。会話劇としての魅力が欠け、ストーリーやキャラクターに共感できる要素も見当たらないため、劇場を出たい衝動に駆られるほどの退屈さを感じました。陳腐な会話が続く中で、豪華キャストの持つポテンシャルが活かされていない点も大変惜しいと思います。
映画には個人の好みがあるため、本作を楽しむ人がいることを否定するつもりはありません。しかし、映画の評価軸として重要なストーリー、テーマ、キャラクター、映画技法のいずれも満たしていないと感じた本作は、私にとって大きな期待外れでした。