カタパルトスープレックス

興味がない人は無理して読まなくていいんだぜ。

書評|Amazonから学ぶ4つのビジネスの成功要素|"Be Like Amazon" by Jeffrey Eisenberg

f:id:kazuya_nakamura:20180912211532p:plain

実証されていないイノベーションやビジネスモデルはワクワクします。将来のことだから。株価も将来の期待によって上下します。顧客や従業員を中心に考える企業は投資家からみれば、利益という自分の分前を取られていると感じますし、ワクワクしないのであまりニュースにもなりません。

ジェフリー・アイゼンバーグの"Be Like Amazon"は「もちろん、イノベーションやオペレーションの最適化は大事なのだけれど、顧客やパートナーも大事だよ」と事例を示しながら解説しています。

本の内容

ジェフリー・アイゼンバーグの"Be Like Amazon"はビジネス書なのだけれど、投資家である師匠と起業家である弟子が車でどこかへ向かう途中の会話という形式になっています。会話形式ですが、フレームワークははっきりしているので、要点がぶれることもなく非常にわかりやすいです。タイトルにAmazonとありますが、Amazon以外の事例を紹介しながら独自の事業フレームワークを解説しています。

この本では以下の四つが成功の要素としています。

  1. 顧客中心主義(Customer Centricity)
  2. 継続的改善(Continuous Optimization)
  3. イノベーション文化(Culture of Innovation)
  4. 企業としての迅速さ(Corporate Agility)

メディアで「これはイノベーションだ!すごい!」とか「こんなオペレーションよく考えた!天才!」のような記事をよく見かけます。それはこの四つの中の2. 継続的改善と 3. イノベーション文化の表れではあります。しかし、「この取り組みは顧客中心主義ですごい!」という記事はあまり見かけません。顧客中心主義はイノベーションやオペレーションに比べて記事になりにくいからでしょうが、1. 顧客中心主義がなければ「結局そのイノベーションは誰のため?」となってしまいます。

顧客にとっては安く便利に買い物ができて、早く届けばいい。それがどんな仕組みだろうと関係ありません。Amazonが矢継ぎ早に繰り出すドローンによる配達、Amazon Dash、Amazon Goも「安く便利に買い物ができて、早く届ける」ことを実現することですよね。上記の成功要素四つが全て満たされています。

顧客を失うと改善もイノベーションも意味がなくなる

シアーズはジュリアス・ローゼンウォルドの時代、1906年にIPOします。シアーズはカタログ販売という当時としては革新的なビジネスモデルを成功させましたが、その成功の裏にあった理念は良いものを安く届けるです。顧客が満足しなければ返金する「満足保証」はその表れでした。

長年シアーズがアメリカ小売りのトップでしたが、1980年代にサム・ウォルトンのウォルマートにチャンピオンの座を譲ります。シアーズはディスカバリーカードを作ってクレジットカード領域に参入したり、オペレーションの改善をしましたが、顧客中心の視点は失っていきました。

そのイノベーションは誰のため?

現金お断りは顧客のため?

様々なニュースでイノベーションが取り上げられ賞賛されています。しかし、「そのイノベーションは誰のため?」と思ってしまうような事例も少なくないです。例えば、天丼てんやが現金お断りのキャッシュレス店舗をはじめるという話。

ヨーロッパでは確かに現金を受け付けないキャッシュレススーパーマーケット(Marqt)など一部あります。アメリカではAmazon Goが代表例です。しかし、これは例外的です。ヨーロッパではデビットカードでの支払い、アメリカではクレジットカードでの支払いが一般化していて、キャッシュレスでの支払い行動が現金より多いという背景もあり、それほど困ったことにはなりません。

企業として2. 継続的改善(Continuous Optimization)は大事ですし、イノベーション文化(Culture of Innovation)や企業としての迅速さ(Corporate Agility)は賞賛されるべきことです。しかし、1. 顧客中心主義(Customer Centricity)の視点で考えるとどうでしょうか?

このような疑問は英国The Gurdianでも提起されています。キャッシュレスで支払えないという理由だけで顧客を拒絶するのが正しい姿勢なのでしょうかと。もちろん、テスト運用だったら理解できます。やってみないとわかりませんから。しかし、現金拒否があたかも既定路線であるかのような姿勢には、顧客中心主義の観点で大きな疑問となります。

デリバリープロバイダは顧客のため?

この本では大絶賛さているAmazonですが、日本ではどうでしょうか。例えばAmazon Japanのデリバリープロバイダは早くも安くもなっていないので1. 顧客中心主義の欠けた2. 継続的改善となってしまっています。なかなか日本では徹底できないのかもしれません。Amazonは小売だけではなく物流も支配するかもしれないと予想する人たちもいますが、それが顧客のためにならないのであれば支持もされないでしょう。