今回紹介する日本未公開作品はハーモニー・コリン監督最新作"Beach Bum"です。本作に限らず、ハーモニー・コリン監督作品は好き嫌いが分かれます。一作だけ観てもなかなか登場人物たちに共感できないかもしれません。それは登場人物が全て「ファックド・アップ(どうしようもない奴ら)」だからです。
ハーモニー・コリン監督の映画人としてのキャリアのスタートはラリー・クラーク監督作品『KIDS/キッズ』の脚本家としてです。ハーモニー・コリン監督が19歳の時です。内容は「ファックド・アップ(どうしようもない奴ら)」な子供たちの話です。映画人としてのスタートから「ファックド・アップ(どうしようもない奴ら)」なんです。映画の内容かなり胸糞なのですが、フォーク・インプロージョンによるサウンドトラックEP"Natural One"が大好きで、ついでに映画も観ました。当時はアメリカのインディーが活気があった時期で、ダイナソーJrから派生したルー・バーロウ関連の音楽を追いかけていた時期だったんですよ。セバドーとか。肝心の映画の方ですが、正直に言えば、あまり好きにはなれなかったです。
『KIDS/キッズ』が成功した後、ハーモニー・コリンは初監督作品『ガンモ』と二作目『ジュリアン』と立て続けに公開していきます。『ガンモ』は猫の肉を売る話だし、『ジュリアン』は統合失調症の主人公ジュリアンのぶっ壊れた家族の話です。「ファックド・アップ(どうしようもない奴ら)」が主人公で胸糞な内容です。映像的にかなり面白いのですが、内容的にはあまり奥深さはありません。
ハーモニー・コリン監督が単なる「ファックド・アップ(どうしようもない奴ら)」をそのまま描く胸糞映画ではなく、より奥深いテーマに結び付けるきっかけとなったのが三作目の『ミスター・ロンリー』だと思います。モノマネ師と修道女のそれぞれのコミューン(共同生活)を関係ない別々のプロットとして描き、最後に一つのテーマに結びつける手法はとても見事でした。それまでとは別人のような映画です。詳しくはFilmarksのレビューを参照してください。
しかし、内容的に素晴らしかった『ミスター・ロンリー』も興行的には散々だったようで、再度ピボットを余儀なくされます。
四作目の『スプリング・ブレイカーズ』はハーモニー・コリン監督が勝ちパターンを確立した映画なんだと思います。興行的な成功のため表面的にはパリピ映画、でも分かる人には分かる二重底。こちらも詳しくはFilmarksのレビューを参照していただくとして、パリピとギャングスターの二つの「ファックド・アップ(どうしようもない奴ら)」を描くことで、その境界線について考えさせられる映画です。この映画は普通にアップビートなパリピ映画としても観ることができます。表面的にはファッションや音楽も一般受けしそうです。しかし、ハーモニー・コリン監督がここに至るまで何を描いてきたかを知れば、その先にある深いテーマもわかってくる内容になっています。見事なピボットです。『スプリング・ブレイカーズ』はA24から配給され、興行的にも成功しました。
そして、昨年公開されたのが五作目となる"Beach Bum"です。前作『スプリング・ブレイカーズ』の勝ちパターンを踏襲して、表面的にはパリピ映画、わかっている人にはより深いテーマという二重底の作りとなっています。『ミスター・ロンリー』のメッセージは「失敗しようと、成功しようと、奇跡が起きようと、最後はみんな一緒。受け入れるしかない」でした。本作"Beach Bum"のメッセージは「ファックド・アップを貫けばいい。天才でも凡人でも、どうせ最後は同じなのだから」なんでしょう。つまり、『ミスター・ロンリー』から繋がった一貫したテーマとメッセージです。こちらも詳しくはFilmarksのレビューを参照してください。