カタパルトスープレックス

興味がない人は無理して読まなくていいんだぜ。

映画評|卒業の思い出づくり映画の系譜|"Booksmart" by Olivia Wilde

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映画には多くの定番テーマがあり、その多くは人生の転換期です。「卒業」はその一つです。若き日のヒース・レジャーが眩しい『恋のからさわぎ』、サントラが好きだった『プリティ・イン・ピンク』や目立たない女の子をプロムクイーンに仕立てる『シーズ・オール・ザット』などなど。どちらかと言えば、ティーン向けの胸キュン映画が多いかもしれません。あ、映画版『ハイスクール・ミュージカル』もそうか。

ボクが好きなのはリチャード・リンクレイター監督作品『バッド・チューニング』のような卒業の日を群像劇のように淡々と描いた映画。卒業の日を境にそんなドラマティックに変わるわけないじゃん!今回紹介するオリヴィア・ワイルド初監督作品"Booksmart"はどちらかと言えばドラマティックじゃない「卒業」を描いたボク好みの作品です。

Booksmart [Blu-ray]

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  • 出版社/メーカー: 20th Century Fox
  • 発売日: 2019/09/03
  • メディア: Blu-ray

Booksmartは「本の虫」つまりガリ勉という意味。主人公の女子高生二人はいい大学に合格するため、キラキラな高校生活をあきらめて、ひたすら勉学に励んできました。恋もしない、パーティーも行かない。生徒会長も引き受けてひたすら印象をよくする。一人だと暗くなっちゃうけど、二人なら大丈夫。私たちは本当はすごくイケてるんだから!

……ところがです。実はパリピと思っていたイケてる連中も同じいい大学に行くことが分かってしまった。大学ではなく、いきなりグーグルに引き抜かれた子もいる。なんで?なんだったの、私たちの地味な努力は?そんなのズルい!せめて卒業の日のパーティーぐらい輝かないと!果たして二人は最後に輝くことができるのか?という映画です。

今のアメリカは学校主催のフォーマルなダンスパーティー「プロム」じゃなくて、生徒が自主的に主催するカジュアルなパーティーなんですかね。ティーン向けの胸キュン映画はプロムがピークとして描かれるのが多いのですが、ボクが好きな地味系の卒業映画は生徒が自主的に主催するパーティーがピークとして描かれることが多いです。『バッド・チューニング』もカジュアルなパーティーでした。

アメリカやヨーロッパはカジュアルなパーティーをやりやすい環境にあります。まず、場所がたくさんある。日本のようにお店を借りる必要がない。家がでかいし、お隣さんも離れているから、家でパーティーしても(あまり)問題ない。大学生の場合はフラタニティーハウスに集まったりする。住宅密集地域でも、ヨーロッパなんかだと住民たちが協力して住宅街の1区画を1日だけパーティー会場にしたりします。アメリカではブロック・パーティーと呼んでますね。つまり、アメリカやヨーロッパではパーティーは特別なイベントではなくて、かなり日常的なことです。そんな環境でパーティーに行かずに勉強を頑張るって、かなりの努力なわけですよ。

パーティーが日常というだけでなく、インスタとかオンラインでもキラキラできるんですよね、最近の子たちは。それを描いたのがA24の『エイス・グレード』です(『エイス・グレード』が気に入った人には"Booksmart"もオススメです)、"Booksmart"の二人はそんなオンラインの誘惑にも負けずに勉強頑張ったのにねえ。せめて、最後の1日くらい頑張ってみろ!と応援したくなりますよ、おじさんも。

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