カタパルトスープレックス

興味がない人は無理して読まなくていいんだぜ。

書評|Googleも超えられない男性天国シリコンバレーの闇|"Brotopia" by Emily Chang

f:id:kazuya_nakamura:20181007135701p:plain

シリコンバレーというとイノベーションの中心地というイメージがありますし、実際にその役割を担っている部分もあります。しかし、全てパーフェクトなものはありませんし、それはシリコンバレーとて例外ではありません。

シリコンバレーは特に白人男性社会と批判されることが多く、エミリー・チャンによる“Brotopia”はその流れの代表です。「ブロ」は男性同士で親友を意味します。「あいつは俺のブロだ」みたいな感じ。それにユートピアをかけて「ブロトピア」なんですね。

シリコンバレーがどうしてブロトピアになってしまったかという考察は男女平等の度合いを示す「ガラスの天井指標(GLASS-CEILING INDEX)」でOECD加盟国の中で二番目に低くい日本にとっても参考になるところが多いでしょう。

Brotopia: Breaking Up the Boys' Club of Silicon Valley

Brotopia: Breaking Up the Boys' Club of Silicon Valley

 

ブロトピアが生まれる背景:小さな積み重ねが文化をつくる

コンピューター業界も小さな積み重ねが今のブロトピアにつながりました。ENIACの六人のプログラマーたちやプログラム言語COBOLを開発したグレース・ホッパーなど、ソフトウェア開発は元々は女性が多かった職業なのですが、80年代にソフトウェア開発に注目が集まると徐々に男性中心になっていきました。その象徴的な事象としてデジタル画像処理の基準として使われてきた雑誌『プレイボーイ』のヌードグラビアを挙げています。そんな研究現場や職場に女性は居づらいですよね。

徐々にプログラマー=白人男性というステレオタイプが出来上がり、採用試験のためのテストなども徐々にそのステレオタイプに合うような候補者を見つけるような設問になっていきました。

Googleですら失敗した男女平等

"Brotopia"では様々な事例が紹介されています。特にPayPalマフィアはシリコンバレーをブロトピアにすることに加担したグループとして詳しく描かれています。当たり前ですが、ビジネスで成功したからといって、人間的に素晴らしいわけではないんですね。最初からまともなのはLinkedInを起業したリード・ホフマンくらいで、それ以外はほぼクソ野郎として描かれています(特にピーター・ティール)。

まあ、彼らは「ブロ」の集まりですし、友達を採用することで有名でしたから。そのやり方が常に成功するならいいのですが、PayPalマフィアのマックス・レフチンはブロトピアな企業文化で自分のスタートアップを失敗して、過ちに気づいた一人です。

 Googleの場合は最初から女性の採用に積極的でした。Googleの広告ビジネスを確立させたスーザン・ウォシッキー(現YouTube CEO)、シェリル・サンドバーグ(現Facebook COO)、マリッサ・メイヤー(元Yahoo! CEO)が代表例です。初期には男女の機会均等に大いに努力をしてきたGoogleですが、女性の役員やリーダーの割合はシリコンバレーの平均に落ち着いてしまっています。

当時Googleのエンジニアだったジェームズ・ダモアが公開した「反多様性メモ」はGoogleもブロトピアになってしまったことを示すものでした。そして、GoogleのCEOであるサンダー・ピチャイが公開したこの件に関するメモは色々と示唆に満ちたものでした。

まずはじめに、Google社員の表現の自由を尊重します。そして、件のメモはたとえ多くのGoogle社員が賛同しないとしても公正に議論をする内容を含むものでした。しかし、メモの一部はGoogleの行動規範に反するものですし、私たちの職場の性別の多様性に悪影響を与える内容を含んでいました。私たちの仕事はユーザーの生活にインパクトを与える素晴らしい製品を作ることです。私たちの職場仲間の一部が生物的に仕事に適していない傾向があるとするのは不快ですし、認められません。全てのGoogle社員はハラスメント、威嚇、バイアス、不法な差別のない職場文化を築くために最善の努力を尽くすという私たちの基本的な価値観と行動規範に反するものです。

 

“First, let me say that we strongly support the right of Googlers to express themselves, and much of what was in that memo is fair to debate, regardless of whether a vast majority of Googlers disagree with it. However, portions of the memo violate our Code of Conduct and cross the line by advancing harmful gender stereotypes in our workplace. Our job is to build great products for users that make a difference in their lives. To suggest a group of our colleagues have traits that make them less biologically suited to that work is offensive and not OK. It is contrary to our basic values and our Code of Conduct, which expects ‘each Googler to do their utmost to create a workplace culture that is free of harassment, intimidation, bias and unlawful discrimination.’”

 この本は誰にオススメか

企業文化に興味を持っている人にはオススメです。PayPalでの採用の進め方とGoogleでの採用の進め方の比較はジェンダー論だけではなく色々な示唆に富んでいます。

ただ、一番読んで欲しいのは飲み会で風俗の話をするような人たちなんですけどね。そうすれば「ガラスの天井指標」で日本の数字も多少は上がるのではないでしょうか。