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はじめての中国Fintech:暗号化通貨とブロックチェーン【金盤】

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はじめての中国Fintechはモバイルペイメント編【赤盤】モバイルバンキング編【青盤】の二回にわたってお届けしました。しかし、全くブロックチェーンやビットコインなど暗号化通貨に触れていないのに違和感を持った方もいるのではないでしょうか。ビットコインなど中国で盛んにマイニングが行われていて、中国のプレーヤーはビットコインをはじめとした多くの暗号化通貨に影響力を持っています。それなのになぜ?

今回は中国に限らずFintechと暗号化通貨の関係をなるべくわかりやすく解説していきたいと思います。

人民元とビットコインの違い(管理マニアと完全自由主義者)

モバイルペイメント編【赤盤】モバイルバンキング編【青盤】で紹介した中国のFintechは中国の法定通貨である人民元を基本としています。法定通貨は中央銀行から発行され、中央管理されています。既存の中国Fintechはこの法定通貨である人民元が前提となっています。

ビットコインに代表されるブロックチェーンを基盤とした暗号化通貨は中央銀行によって中央集権的に管理されていません。分散管理が基本です。ブロックチェーンとサイファーパンクの特集でも見てきたように、暗号化通貨の本質は完全自由主義者です。政府の干渉は必要ないと考える人たちによって作られました。管理マニアの中国政府と折り合いが悪いですよね。

中国政府にとっての人民元の重要性

中国の人民元は長い間固定レートでした。通貨制度改革によって変動性に変わったのは2005年のことです。それでも完全な市場による変動ではなく通貨バスケットというブラックボックスを使った管理相場制なんですけどね。中国は管理が好きなんです。

一方で世界的に通用する通貨があります。米ドル、欧ユーロ、日本円などが国際決済通貨として広く認識されています。中国としては人民元でそこに割って入りたい。何と言っても世界で2番目に大きな経済の法定通貨です。人民元を国際化したい。でも、世界的には市場ではなく中国政府によって管理されている人民元を基軸通貨にするのはなかなか抵抗があります。

そこで、特別引出権(SDR)というIMFの通貨バスケット(米ドル、欧ユーロ、英ポンド、日本円)に人民元を入れるよう働きかけます。それが功を奏して2016年からSDRの通貨バスケットに中国の人民元が加わりました。

中国政府としては人民元の国際化に頑張ってきたわけです。そんな流れの中で「政府に干渉されない自由なビットコインを中国で普及しよう!」と頑張ったところで中国政府としてそんなこと許せるわけがありません。

これは中国に限ったことではありません。中国以外の国でも法定通貨と暗号化通貨の兼ね合いは大きな課題です。例えば、エストニアはICOプラットフォームのために「エストコイン」の発行を検討していますが、EUの法定通貨であるユーロとの兼ね合いを慎重に検討しなければいけません。エストニアはEUのメンバーなので法定通貨のユーロとどのように整合性を持たせるかが重要となるのです。

スウェーデンはEUの参加国ではなく、独自の法定通貨であるクローナを持っています。スウェーデンでもデジタル通貨「eクローナ」の発行を検討していますが、「eクローナ」はブロックチェーンベースの暗号化通貨ではないことが中央銀行からすでに示唆されています。可能性を全く否定しているわけではありませんが、検討しているデジタル通貨はブロックチェーンを基盤とした分散管理のものではありません。

中国の金融政策における優先事項

中国政府にとっての最優先は人民元の国際化と人民元による金融システムの安定化です。2018年7月現在で40兆ドルある不良債権問題を解決しなければいけません。また、国際的には中国国内の金融市場の自由化の圧力にどう対応するのかという問題があります。

そんな中国政府から見た場合、ビットコインに代表されるブロックチェーンを基盤とした暗号化通貨はパラレルワールドのようなものです。政府としては法定通貨の世界が自分たちの世界、ビットコインはそれと並行して存在する全く別の世界。資金がこの二つの間を自由に行き来できたら管理できない。人民元の世界で規制しても、ビットコインの世界に逃げられてしまう。ただでさえ微妙な対応が必要なのに、暗号化通貨は中国政府にとっては不確定要素でしかありません。

実際に中国政府はビットコインをはじめとする暗号化通貨の取引を禁止しました。ビットコインをAlipay(支付宝)から購入できるサービスに好比特币がありましたが、現在は停止しています。さらに今年からマイニングも規制されました。

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BINANCEなど香港/マカオに本社におく暗号化通貨取引所はまだ規制の対象となっていませんが、これもいつまで続くかわかりません。

モバイルペイメント編【赤盤】モバイルバンキング編【青盤】でビットコインなど暗号化通貨の金融サービスには触れず、人民元をベースとした金融サービスを紹介してきたのはこのような背景があるからです。

それでもブロックチェーンは中国で発展する

ただ、ブロックチェーンという技術とビットコインなどの暗号化通貨というプロダクトを同じに考えてはいけません。ブロックチェーンという技術のアプリケーションの一つが暗号化通貨です。中国政府は現時点において暗号化通貨を締め出す動きを見せていますが、ブロックチェーンは推進しています。ブロックチェーンは技術で、それを応用したプロダクトの一つが暗号化通貨だからです。中国政府は目的と手段を見誤っていないですね。

参考文献

人民元 - Wikipedia

国際通貨 - Wikipedia

淘宝宣布全面封杀虚拟币,比特币要彻底完蛋?

China's Central Bank Faces Policy Bind Over Debt, Growth Goals - Bloomber