カタパルトスープレックス

興味がない人は無理して読まなくていいんだぜ。

いまさら聞けない世界をリードする中国eコマース事情:ライブコマース編(その1)

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アメリカで流行ったサービスがだいたい3年後に日本に来ると言われていました。これがヨーロッパなどだとあまり時差なく入ってくるのですが、日本の場合は言葉の壁もありますし、日本の起業家がアメリカのサービスをパクってはじめるので、時間がかかってしまいました。これはアメリカのシリコンバレーがイノベーションのほぼ唯一の供給地点だった頃の話です。今ではこのバランスがすっかり崩れた感があります。そう、中国の台頭です。

シリコンバレーは相変わらず重要なイノベーションの発生地点ではありますが、これに加えて中国がイノベーションをリードする分野が生まれつつあります。一つは前回にも特集を組んだモバイルペイメントを含む金融分野ですし、もう一つは今回特集するeコマースです。

アメリカと中国のeコマース市場の比較

2018年の中国と米国それぞれのリテール市場は以下の通り。

中国:売上5.6兆米ドル/伸び率7.5%

米国:売上5.5兆米ドル/伸び率3.3%

中国のリテール市場を牽引しているのがeコマースで35%以上の売上がオンラインで上がっています。これに対して米国では10.9%でした。eコマースという観点だけで見れば、中国市場は米国市場を2013年の時点で追い抜いていました。すでに中国市場は世界のオンラインショッピングの総額売上の過半数を超えていて(55.8%)、2022年には63%に達すると予想されています。(参考:Retail Ecommerce Sales in China Forecasts, Estimates and Historical Data | eMarketer

英語圏のeコマースはアマゾン(B2C)とeBay(C2C)で寡占状態にあります。そして、米国のeコマースの世界的シェアは2022年までに15%まで後退するとみられています。それでも巨大市場ではありますが、広がりが限られたパイの中での競争なので寡占化してしまうんでしょうね。中国でもアリババとJDで過半数以上のシェアを占めているのですが、それ以外のサービスも十分に大きな市場を獲得しているのは注目に値します。例えば先日に米国ナスダックに上場したピンドゥオドゥオ(拼多多)やドウユー(斗鱼)です。単なる中国ローカルなニッチプレーヤーならアメリカの市場で上場できませんよね。メルカリだってスマートニュースだってZOZOだってアメリカでは上場してないんですから。

規模だけではなく機能も先行する中国のeコマース

中国のeコマースは市場規模だけでなく、そのあり方も他の市場と比較して先行しています。その代表例がライブコマースではないでしょうか。ライブコマースとはスマホで生放送をしながらショップジャパンやジャパネットタカタのような通販をするサービスです。インスタライブに販売機能がついたような感じです。

ライブコマースにはいくつかのパターンがあります。

  1. 動画配信サービスからの発展形
  2. eコマースからの発展形
  3. ライブコマース専門サービス

ライブコマースは元々はライブ配信を通販的に使う人たちが出てきて発展してきたサービスです。日本のニコ生とかツイキャスですね。米国ナスダックに上場したニコ動風の動画配信サービスであるビリビリ(哔哩哔哩)もライブコマースをやっています。

一番多いのはeコマースからの発展形サービスです。タオバオ(淘宝网)がやってる淘宝直播や女性ファッションコマースのモグジェ(蘑菇街)による蘑菇街直播が代表例です。アリババのタオバオはC2Cコマースでファッション分野では最も影響力のあるインフルエンサーの一人であるジャン・ダーイー(张大奕)のファッションコマース活動のリーベイリン(莉贝琳)もタオバオからはじまりました。ジャン・ダーイーはもう一人の女性ファッションインフルエンサーであるテァン・ユーカーAmiu(滕雨佳Amiu)はモグジェに参入しました。

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蘑菇街直播

中国でもファッションのコマースにおけるインフルエンサー(红人|KOL: Key Opinion Leader)の影響力は絶大で、それぞれのプラットフォームで人気のインフルエンサーがいます。先のジャン・ダーイーやテァン・ユーカーAmiuもそうですし、クアイショウ(快手)のシャオイーイー(小伊伊)などなど。ジャン・ダーイーは自身のインフルエンサーのマーケティングプラットフォームであるRUHNN(如涵)を立ち上げました。ロゴがアメリカのセレクトショップであるロン・ハーマンに似てるのはご愛嬌でしょう。

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快手

アメリカをパクればいい時代は終わった

インターネットとモバイルの時代になり国境よりも言語圏が市場の区分としては適切だと以前にも書きました。インターネットでどれだけ世界がフラットになっても、言葉の壁はまだまだ超えられません。中国は金盾(別名:グレートファイヤーウォール)で隔離されているから参入が難しいという議論も成り立ちますが、そもそもの言語の壁が大きな要素としてあります。言語が違えば、文化が違う。

さらに経済大国としての中国(中国語圏市場の中心)の台頭がアメリカ(英語圏市場の中心)がイノベーションが伝播する単純なアメリカからの一方通行からより複雑な方向に変化させました。どこかの言語圏で流行ったサービスが他の言語圏でも流行るとは限らない。

ライブコマースやモバイルペイメントなど中国発のイノベーションがいい例です。中国で起きたイノベーションが単純に他の言語圏に伝播しないのです。中国のサービス(例えばタオバオ)がアメリカで流行らないのはわかります。中国語圏に最適化されたサービスですから、他の言語圏に最適化するのは時間がかかる。そこで、これまでならオリジナルをパクったローカルなサービスができた。でも、今はそう単純にうまく行かない。例えば、英語圏ではAmazonがライブコマースのAmazon Liveを立ち上げましたが今ひとつ。日本語圏でもメルカリがライブコマースサービスの「メルカリチャンネル」撤退を決めました。