ジェシカ・ハウスナー監督による自称ブラックコメディー『クラブゼロ』の映画評。うーん、むしろスリラー?どのような作品なのかは受け取り方によるのかもしれない。アリ・アスターがプロデューサーに名を連ねていますが、アリ・アスターっぽい不吉さが本作にもあります。
本作の題材はカルト。名門ボーディングスクールが舞台。新たに赴任してきた栄養学の教師ミス・ノヴァク(ミア・ワシコウスカ)はダイエットに環境問題を結び付けて生徒たちをひきつけていく。最初は単一の野菜だけを取るモノ・ダイエットだけだったが、徐々にエスカレートしていきカルトの領域にまで……という話です。
いろいろとモヤモヤする部分があります。テーマは「カルト」ととらえることもできるし、「食品の商業主義」への警告とも受け取ることができる。カルトにしても商業主義にしてもどちらも行き過ぎで愚かなのですが。その「愚かさ」が監督にとってはコメディーなのでしょう、ぜんぜん笑えないけど。あと洗脳のステップはあまり丁寧に描かれないので、そこもモヤモヤポイントになります。え?そんな簡単にカルトに落ちちゃう?と思う。
テーマに関してもどちらともとれる。カルトの怖さなのか、食の商業主義の愚かさなのか、はたまた両方なのか。どちらにも取れる。最後の『最後の晩餐』風な構図も……その意味についても判断は観客にゆだねられる。これは監督の意図なのでしょうし、うまくいっている部分だと思います。
キャラクター造形もしっかりしている。主人公のミス・ノヴァクはもちろんのこと、カルトに落ちてしまう5人の生徒も、それぞれの親も個性が与えられている。これはキャラクター造形にも影響してくるのですが、色彩感覚がウェス・アンダーソン監督にちかいオシャレさがありました。それがよくもあり、悪くもあり。金持ちの親子の話だからいいのかもだけど、あまり現実感がない。リアルじゃない。ひょっとしたらキャラクターを寓話的に扱うための演出なのかもしれないけど。
観客にゆだねられる部分が多いのはプラスの面だけれど、マイナスの面もある。意図しているとはいえ、中途半端な印象はぬぐえない。モヤモヤをすっきりさせたいからもう一回観たい!とはならない。そこまでの力強さはない。