この記事はa16zによるオリジナルインタビュー"a16z Podcast: The Internet of Taste, Streaming Content to Culture"の日本語抄訳です。英文のオリジナルはSoundCloudとYouTubeで確認してください。
創業したての頃のNetflixはどんな感じだった?
- 当時のNetflixの社員はみんなカッターと定規を持ってた。DVDを郵便で送るのに最適なサイズを計らないといけないから。
- 創業者でCEOのリード・ヘイスティングスがすごいのは、その当時から現在のモデルを考えていたこと。ホームエンターテイメントはもうすぐインターネットで届けられると見越していた。当時はサウスパークのビデオを電子メールで送ろうとしたら、それを開くのに7日はかかっただろうからね。クレイジーだと思った。
スタートアップとハリウッドの違いとNetflixの文化
- シリコンバレーは量を求める。ハリウッドは質を求める。この両方で成功することは滅多にない。
- Netflixはシリコンバレーにもハリウッドにも拠点を置いて、ハリウッドを拠点としている1000人くらいは世界最高のエンターテインメント企業だと思ってるし、シリコンバレーを拠点としている4000人くらいは世界最高の技術会社だと思ってる。それぞれ正しいし、二つの文化を混ぜ合わせようとしない。
- このような文化は創業者でありCEOのリード・ヘイスティングスによるところが多い。誰でも発言をしていいし、そして決まったことに関して結果を出す。具体的に何をやってるのかわかんないけど、サポートするよ。そういう文化。
年間でどれくらいのコンテンツを作る?
- 1日に7から10くらい。だから大体年間で2000くらい。その中から今年では30本のオリジナルシリーズになって、18のオリジナル映画、35オリジナル子供向けシリーズ、19の各国独自のシリーズ。68ドキュメンタリープロジェクト。だから実際に作られるのは100くらい。
- 幸いにしてアイデアは無尽蔵に出てくる。足りないのはそれを実行できる人。
VCにとって気になるのは成功するスタートアップの見極め。それはコンテンツ業界でも同じですよね。成功を見過ごす(False Positive)、失敗を掴む(False Negative)をどうやって見極めますか?
- 『ストレンジャー・シングス 未知の世界』のザ・ダファー・ブラザーズがいい例。彼らは若く経験もなかった。でも、素晴らしいビジョンを持っていて、その提案を聞いてすぐにシリーズになるだろうと思った。エピソードが出来上がるに成功の核心は高まった。まさかここまで大成功するとは予想してなかったが。
- アイデアを実行に移すという意味でも、彼らはあまり経験はなかった。他人のビジョンをシリーズ化したり、ワーナー・ブラザースでゾンビ映画を作ったけど公開はされなかった。あとでそれを見せてもらったんだけど、とてもいい映画だった。ただ、素晴らしい映画体験を作るにはリソースが少なすぎた。
- それがヒットするかどうかは公開するまでわからない。公開したあとも、徐々に口コミで広まってしばらく経ってからヒットすることもある。『殺人者への道』は2015年12月に公開された。これは作品の良さもあるけど、タイミングもよかった。ほとんどマーケティングしなかったのに口コミがすぐに広がってヒットした。Netflixの社員の中でここまでのヒットを予想した人はいないんじゃないか。
脚本が良くても、実際の出来が悪かった場合はどうします?
- 会社がやり直しを命じることはない。ダメだと思ったらクリエーターが自然と方向転換する。クリエーターが「これが自分のショーだ」だと言えばそれを支援する。DVDのメーリングサービス時代の学びでもあるのだけれど、人の好みはものものすごく多様だということ。当時は10万の作品があって、一日6万作品を郵送していた。
- 失敗と言えるのは制作費と比較して十分な視聴がされなかった時。大ヒット映画『グリーンデスティニー』の続編『ソード・オブ・デスティニー』はヒットはしたけど、かかった制作費を考えると商業的に成功したとは言えなかった。
インターネットにより嗜好の多様性がなくなってきたと言われています。みんなアメリカのハリウッド映画を見て、みんな同じ音楽を聴いて。でも、Netflixでは多様性が見られる。
- Netflixでは両方の現象が見られる。『ストレンジャー・シングス』はすごくグローバル。アメリカの八十年代を経験した人だけでなく、全世界様々な世代が見ている。Netflixみたいなサービスがあるからあのテレビで引用されているような音楽や映画を若い世代の人たちも理解できる。
- 一方で19カ国で独自コンテンツを制作している。その国独自の視聴者のための独自コンテンツ。この外国で製作された独自コンテンツに英語の字幕や吹替をつけて配信すると、アメリカ国内のケーブルテレビの独自番組くらいのヒットになる。アメリカでリメイクしたものより、その国独自で作ったものをそのまま字幕や吹き替えで持ってきた方がヒットする。
- 自分がアリゾナに住んでいてレンタルビデオ屋で働いていた時、すっごくマイナーな映画は店に置けなかった。それを借りる人が通える範囲の距離にそれほどいないから。外国映画を上映している映画館も長距離バスに乗っていかなければいけなかった。コンテンツ制作者もそういうマイナー映画を気に入った人たちに別の映画のおすすめとかできなかった。アリゾナ州に住んでいる人間でそんな映画が好きなのは自分くらいなのだったから、そんな人間を製作者が探すことは無理だった。
コンテンツ制作とスタートアップの類似性は
- スタートアップの創業者に近いのはテレビ番組制作ではショーランナー。映画の場合、ショーランナーは脚本家を指すし、その制作にはもっと多くの人が関わる。そういう意味ではテレビ番組の制作はシリコンバレーのモデルに近い。
- Netflixは初期からクリエイティブの自由さで評価を得た。これは現実的にそうしないと回らないという面もあった。Netflixがエンターテイメント業界に貢献できるのは「責任の自由(Freedom of Responsibility)」と言えるもの。Netflixの仕事は素晴らしい人材を探すこと。そしてその人材に必要なリソースを提供すること。その道を妨げないこと。
- 『ハウス・オブ・カード 野望の階段』がNetflixの最初のオリジナル作品だったが、デビッド・フィンチャー*1との約束はパイロットなしの二つのシーズンの提供。
技術的には録画のストリーミングだけでなくライブ中継も可能なのでは?
- Netflixがライブ中継をやらないのはいくつか理由がある。一つはNetflixの価値はオンデマンドであるということ。ライブ中継だとその時にしか見れない。ニュースや音楽、スポーツなどライブ中継は素晴らしいし、それを提供するサービスもある。
- スポーツ中継などの場合、権利はスポーツリーグにある。最終的な着地点であるNFL.comやNBA.comが一番いい。
マーベル・シネマティック・ユニバースとの関係は?
- Netflixと契約した当時のマーヴェルの経営状況は決して良くなかった。破産寸前の時もあった。『アイアンマン』も借金をして作った。『アイアンマン』はマーベル・シネマティック・ユニバースの成否を握る最大の賭けだった。
- Netflixもその賭けに乗った。『デアデビル』『ジェシカ・ジョーンズ』『アイアン・フィスト』『ルーク・ケイジ』などすべてのフランチャイズに関する契約はいっぺんに行った。
- 常にリスクとリワードの考え方をする。映画の劣化版しかテレビで実現できないのではないかというリスクはあった。実際にそういう事例はたくさんある。しかし、『ディフェンダーズ』というテレビ版のアヴェンジャーズはNetflixでしか見れないというリワードは大きい。
- それぞれの作品は関連しているけど適度な距離を保っている。そのために、一つの作品で失敗しても回復可能なモデルとなっている。これは『ディフェンダーズ』と『アヴェンジャーズ』の関係にも言える。
競合についてどう思います?
- Amazon Primeは資金力も豊富だし将来的に素晴らしい仕事をするんじゃないかと思う。軽く見たことはない。Netflixはテレビ番組にフォーカスしているけど、Amazonはそれ以外のこともやっていて、それぞれ成功している。ビジネスモデルが違うのでAmazon自体に関するコメントは難しい。
- Huluはハリウッドが作ったもう一つのバイヤー。バイヤーはすでに市場にたくさんいるけど、Huluのモデルは伝統的なモデルの面白い延長線上にあると思う。
- YouTubeをみて自分たちのストリーミングモデルが行けると確信できた。直接的な競合だとは考えていない。「ひまつぶし」のマネタイズとして優れている。Facebookや他のプレーヤーが参入してもインターネットにおけるビデオ視聴のシェアを伸ばし続けている。
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*1:映画『セブン』や『ファイトクラブ』の監督として有名