ビル・ゲイツに関してはいろいろな逸話がありますよね。ボクなんかは割と近い距離で働く機会があったので、「数字に細かい人」とか「怖い人」という印象があるのですが、自分自身で起業して改めて思うのは「本当に優れた経営者」だったんだってことです。
出張ではエコノミークラスを利用したり、調布の技術センターまで京王線に乗っていったりという逸話は当時を知る古参社員から語り継がれてきました。ほかの社員だけでなく自分自身のコスト管理も厳しい経営者としての側面ですよね。会社のお金って自分のお金ですから、他人事というより自分事なわけです。そしてWindows 95で飛ぶ鳥を落とす勢いだったころ、インターネットの世界を変えることをいち早く見抜いて会社の方向性を180度変えたInternet Tidal Waveのメモ。リーンスタートアップでピボットなんていいますが、Windows 95を発売して成功している真っ只中に大胆なピボットができたのもビル・ゲイツのような創業社長ならではじゃないでしょうかね。
でも、創業社長はいつまでもいるわけではない。会社の決断を自分事ととらえ、変化に対して恐れずに対応していくにはどうしたらいいのでしょうか?そういう研究が海外ではたくさんされていてティール・オーガニゼーションなど自律的な組織運営が注目されています。それを創業当時から実践している日本の不動産テックの雄としても注目されているダイヤモンドメディアの武井さんに話を聞いてきましたよ!
変化に対応する組織デザインとは
カタパルト式なかむら
はじめまして!ダイヤモンドメディアさんって、「給料はみんなで決める」とか「マネージャーがいない」とか「役員は総選挙で決める」といったキャッチ―な側面が注目されることが多いです。ただ創業2007年からやっていて、並々ならぬ信念のようなものを感じます。ここまで長い期間をかけてやり抜いている企業は海外でもなかなかありません。
ダイヤモンドメディア武井
確かに面白くてキャッチ―な部分が注目を集めるんですが、「いい会社を作りたい」というのがその根底にあるんですよ。いい会社というのは経営者、従業員、顧客やパートナー、株主が分け隔てなくみんなハッピーになれる会社という意味です。
それを突き詰めたら普通の会社ではやっていないことをやっていた。
カタパルト式なかむら
精神論というか考え方として従業員がハッピーだったら顧客もハッピーになるみたいなことはよく言われます。UXを超えたCXの取り組みとかがまさにそうですよね。ただ具体的な方法となるとなかなか世には出てないです。従業員満足度を測ったり、人事制度を見直したりと多くの企業も試行錯誤している部分です。
ダイヤモンドメディアさんがよく比べられるZapposやBufferが実践しているホラクラシーもその原型は2007年くらいで、ダイヤモンドメディアさんの創業時期とほぼ同じなんですよね。いわゆるお手本があまりない中でどのように自律型の組織にたどり着いたんですか?
ダイヤモンドメディア武井
とにかくいろんな本を読みました。もちろん松下幸之助さんや稲盛和夫さんの本も読みました。ただ、多くの経営論は個人の修練に行きつくことが多い。企業は個人よりも長く続くので、組織のデザインが重要だと考えていました。その中でも参考になったのはブラジルのSemcoですね。1980年代から環境に適応できる組織作りをしています。
その結果としていきつきつつあるのが自律型の組織です。組織として自己成長力と自浄力を備えられる基盤づくり。
社員と経営者の格差をなくして全員が経営者の視点とマインドを持つ
カタパルト式なかむら
海外でもホラクラシーをはじめとした自律型の組織の議論をすることが多いです。ただ、どうしても壁となるのが給与と人事評価をどのように行うかという問題です。ホラクラシーもそこはあまり深く掘り下げていないですよね。ダイヤモンドメディアでは給与の決め方もオープンなんですよね。
ダイヤモンドメディア武井
いまではさらに推し進めて会社のお金の使い方自体を社員で決めています。なまえも「給与会議」だったのが「お金の使い方会議」になりました。
給料はたくさんあるコストの中の一つでしかなくって、給料だけをいくらにするかというだけでは足りないんですね。いまでは「お金の使い方会議」を通じて全員が全体の数字を見渡してどこにどのようなコストをかけなければいけないのか、総合的に判断ができるようになっていて、実際に決定に関与できる。そうすることによって他人事ではなくて自分事としてとらえられるようになります。
自律型の組織を作る基盤は何かといえば、そのひとつは情報のオープンであること、そして誰でも見えること。この二つですね。私たちの場合はすべての数字がオープンなんですよ。どこに問題があるのか、何が調子がいいのかだれでもわかるようになっている。納会までオープンにしているので外部の人でもわかります。
経営者や従業員の分け隔てなく情報がオープンであれば自律的に動くようになるし、自浄作用も生まれます。これがここまでダイヤモンドメディアでやってきたことの学びですね。
カタパルト式なかむら
ピラミッド型でもマトリックス型でもマネージャーがいる組織だとそれはやりづらいですよね。マネージャーの権力の源泉って給与を含む人事権だけじゃなくて情報自体が大きい。マネージャーが情報やデータを分析して方向性を決める。そして組織としてそれを動かす。確かに上から言われてやるのは楽なんですが、他人事になってしまいますよね。よく下からでもリーダーシップをとれるといいますが、情報がないとリーダーシップをとることも難しい。
ダイヤモンドメディア武井
そうなんです。情報がオープンでだれでも見れることが大事です。デジタルが組織の在り方を変えました。アナログによる情報流通だったころはピラミッド型の上意下達が最適な組織の在り方でした。ところがデジタルになって情報量が増え、その伝達も早くなることでこれまでの組織では処理しきれなくなりました。それでマネージャーがボトルネックになるみたいな現象も起きてしまうようになりました。情報もその部署や役割に関係することしか伝わりませんから、どうしても部分最適になってしまう。
カタパルト式なかむら
ボクが所属していた外資系企業だとインセンティブが給与を考える上で非常に重要でした。成果報酬ですね。日本でも成果主義を取り入れるべきという議論が多くありますが、これについてはどう思いますか?
ダイヤモンドメディア武井
私たちの場合、話し合いで給与を決めるときに成果は考慮に入れないことにしています。成果報酬は長い目で見るとネガティブな効果しかないんですよ。お金と仕事が結びつくとお金が基準になる。私たちの場合はむしろバランスシート上の価値を上げたかどうか共有資産を高めたかというプロセスというか改善を評価するようにしています。
カタパルト式なかむら
実際に営業成績をバーンと一年で上げてポルシェ買ってすぐ辞めるというのは「外資系あるある」ですよね。焼き畑農業みたいにその時は成果が出るけど後に何も残らない。
情報がオープンになって経営者と従業員の垣根がなくなれば最終的には顧客の価値や会社の価値を高めたかどうかが重要になりますものね。
ダイヤモンドメディア武井
役員選出は会社法で役員を選ばなければいけないので決めているだけですね。選挙で役員を選ぶのもお祭り感覚です。
将来的には株主と社員の垣根も取り払いたいと思っています。これも法律上なかなか難しいのですが、何となく糸口が見えてきたように感じます。
不動産テックと次世代経営の共通点とは
カタパルト式なかむら
お話を聞いていると経営と事業が同じ方向を向いているというか、一本芯が通ってますよね。経営や組織運営としては情報を自由化して社員が経営者の視点で判断できるようにしている。それによって無理無駄なく、みんながハッピーになることを目指している。そして、事業としては不動産テックで、不動産に関する情報の透明性とアクセス性を高めて無駄無理をなくオーナー、不動産業者、顧客みんながハッピーになることを目指している。
ダイヤモンドメディア武井
不動産って情報の流通コストがすごく高いんです。ひとつひとつがユニークな商品でステータスがすぐ変わる。そのために無駄な流通コストが6000億円あると試算しています。そしてそのコストをだれが負担しているかといえばオーナーや借り手なんですよ。
もうひとつ不動産の特徴として現物資産の相対取引で相場が簡単に動くってところですね。同じ資産でも株式とはずいぶんと違うし、データ化されていない。他の資産管理のノウハウが生かせない分野だからこれまで手つかずの分野でした。
カタパルト式なかむら
たしかに物件って一つ一つ違いますものね。ボクも最近日本に戻ってきて物件を探すときに不動産屋さんのお世話になりました。その不動産屋とは別の不動産屋が管理している物件でも取り扱うんですよね。そのときなんかすごく不思議に思いました。
ダイヤモンドメディア武井
不動産の仲介業者ってお互いが競合でありパートナーだったりするんですよ。それゆえの情報流通の複雑さもあります。そういう不動産関連の情報流通をたかめてオーナー、仲介業者、借り手のすべてがハッピーになれることを目指しています。
経営もまったく同じで、私たちが事業としてやっている不動産テックと会社自体の経営はまったくおなじなんですよ。
カタパルト式なかむら
本日はいろいろお話が聞けて楽しかったです!どうもありがとうございました!
(なおカタパルト式スープレックスはお金をもらう記事広告は一切やってませーん)