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書評|アメリカ海軍特殊部隊から学ぶデザインとリーダーシップ|"The Dichotomy of Leadership" by Jacko Wilink

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企業ではいろんな事業やプロジェクトに取り組みますよね。中には、その企業の存続を左右するようなプロジェクトもあるかもしれません。でも、人は死にませんよね。会社が倒産して、そのために社員が路頭に迷って、間接的に人の生死を左右することはあるかもしれませんが。戦場はそうではありません。プロジェクト(オペレーション)は人の生死に直接的に影響します。戦争の倫理的な問題はありますが、現実として戦闘現場でのオペレーションほどシビアなプロジェクトはありません。そして、そこから学べることも多いのです。

ジャコ・ウィリンク(写真)はアメリカ海軍少佐で湾岸戦争で特殊部隊ネイビーシールズの部隊を率いていました。そこからの経験を元にコンサルティング会社を立ち上げ、"Extreme Ownership"というベストセラーを書きました。この本をひとことで解説すると「リーダーはすべての責任を負う」です。部下が失敗しても、それは上司の責任。ただ、この"Extreme"は誤解を生みやすい言葉です。「極端」になればいいというものではない。そこで今回紹介する最新著書の"The Dichotomy of Leadership"ではバランスをとることの大切さを書いています。

The Dichotomy of Leadership: Balancing the Challenges of Extreme Ownership to Lead and Win (English Edition)

The Dichotomy of Leadership: Balancing the Challenges of Extreme Ownership to Lead and Win (English Edition)

特殊部隊とデザインの共通点

 「軍隊方式」というとトップダウンの指揮形態で、一糸乱れぬ行動をとることを求められるイメージがあります。しかし、実際はそんなことありません。ジャコ・ウィリンクは「戦場における四つの法則」を解説しています。

  1. Cover and move:お互い助け合う。誰かが移動するときは、他の誰かは周りの危険を排除する。
  2. Simple:複雑さはカオスを生み出す。理解できないものは実行できない。
  3. Prioritize and execute:優先順位を決めて行動する。
  4. Decentralized command 全員がリードする。そのためには「何をするのか」だけでなく、「なぜそうするのか」を全員が理解しないといけない。信頼が必要。明確なコミュニケーションが必要。

 この四つだけでも、デザインとの共通点がたくさんありますよね。具体的な例を挙げると、軍隊には"Commander's Intent"という作戦の目的をざっくりと説明する資料があります。これが上記の四番目"Decentralized command"で重要になります。デザインプロジェクトでいえば「デザイン原則」がこれにあたります。どれだけ緻密に計画を立てて、あらゆる状況を想定して訓練しても、そうならないことが多いのが戦場です。個々が判断できるざっくりとした指針が必要となります。

そして、個々の現場での行動原則は"Standing Operating Procedures"となります。これはその現場の隊長が部隊の指揮をするためのガイドラインとなります。デザインプロジェクトでいえば「デザインブリーフ」がこれにあたります。デザインブリーフもガイドラインですよね。なぜ「ガイドライン」なのかといえば、戦場で想定通りの状況にならないことが多いからです。デザインプロジェクトでも、ユーザーテストしたら全然ダメだったってこともあります。いきなりSketchやInVisionからはじめてしまうと、どこに立ち返ればいいのかわからなくなります。

多くのデザイン現場やプロダクト開発現場では「デザイン原則」や「デザインブリーフ」を作りません。ボクは絶対作りますけどね。マジで、皆さんちゃんと作ったほうがいいですよ。

特殊部隊と企業でのリーダーシップの共通点

"The Dichotomy of Leadership"では人のバランス、仕事のバランスなど様々な観点でのバランスを戦場での事例と企業での応用で紹介しています。例えば、マイクロマネージメントとフリーハンドのバランス、自分のやり方をどこまで通すのか、トレーニングはどれくらいの難易度が適切なのかなど解説しています。

その中でも大事だなーと思ったのがリーダーシップ・キャピタルの考え方。リーダーシップは資産だという考え方ですね。無理を通せば資産は減る。それだけの価値があるのかを考える必要があるとジャコ・ウィリンクは言います。また、引き締めるべき時に緩すぎるのもリーダーシップの資産は目減りします。

リーダーシップ・キャピタルは日本語でいえば「人徳」みたいなものに通じるかもしれないです。日本企業の役員には親分肌で人徳がある人が少なくないです。ただ、それがリーダーシップにつながっているかといえばどうなんだろうと考えてしまいます。それは、リーダーシップ・キャピタルがある程度数値化できるのに対して、「親分肌」は数値化できないからではないでしょうか。

The Leadership Capital Index: Realizing the Market Value of Leadership

The Leadership Capital Index: Realizing the Market Value of Leadership

日本の組織はマネジメント(管理)は得意です。日本が世界に誇るカンバン方式もマネジメントです。しかし、リーダーシップは苦手です。最近は学校でのブラック校則が問題になっています。リーダーシップのない組織はマネジメントに過度に依存して、所属する人たちを締め付けようとします。ブラック校則はその典型的な例ですよね。

この本はどんな人にオススメか

もともと管理職向けに書かれた本なので、管理職にある人にはオススメです。特にマネジメント(管理)はできるけど、リーダーシップももっと学びたい人には最適なテキストになるでしょう。

あと、プロジェクト管理をする人にとっても示唆に満ちたコンテンツが多いのではないかと思います。アジャイルとか方法論以前に、チームでプロジェクトを遂行するとはどういうことなのかという心構えについて学ぶことができます。

日本の自衛隊はアメリカの軍隊のように戦場の最前線に行くことはありませんが、災害地域での救出活動など様々な人命に関わる活動をしています。せっかくなのだから、自衛隊の人たちがこういう本を書いてくれればなーと思ったりします。