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『ヒトラーのための虐殺会議』映画レビュー|ドイツの密室劇が浮き彫りにする戦時の官僚主義

2022年公開の『ヒトラーのための虐殺会議』は、マッティ・ゲショネック監督による歴史ドラマです。ホロコーストの実行計画が話し合われた「ヴァンゼー会議」を再現し、ほぼ密室劇として描かれています。戦時下の官僚的な意思決定の様子を通じて、歴史の恐怖と人間の思考の危うさを浮き彫りにした作品です。

あらすじ|ホロコーストの計画が決定された「ヴァンゼー会議」

1942年1月20日、ベルリン郊外のヴァンゼー湖畔にある邸宅で開催された「ヴァンゼー会議」。この会議では、国家保安部長官ラインハルト・ハイドリヒの指揮のもと、ユダヤ人問題の「最終的解決」が話し合われました。

参加者は、ナチス・ドイツの各部門を代表する15人の高官たち。会議では、ユダヤ人の追放や隔離を進める計画から、一歩進んで「大量虐殺」という形で解決を図る方針が議論されます。本作は、この会議の全容を描き、官僚的な意思決定の恐ろしさを浮き彫りにします。

テーマ|官僚主義と戦時下の思考の危うさ

『ヒトラーのための虐殺会議』は、ホロコーストをめぐる意思決定のプロセスを描くことで、戦時下における官僚主義の恐ろしさをテーマにしています。

ナチスの高官たちは、日常的な業務の延長として大量虐殺について話し合います。その議論は、驚くほど冷静で、まるで効率を追求する企業の会議のように進みます。結果として、「ホロコースト」という未曾有の悲劇が、こうした形式的で非人間的なプロセスの中で決定されていったことを、本作は克明に描いています。

キャラクター造形|ラインハルト・ハイドリヒとアドルフ・アイヒマン

本作の中心人物は、ヴァンゼー会議を主導した国家保安部長官ラインハルト・ハイドリヒと、彼の下で実務を担うアドルフ・アイヒマンです。

  • ラインハルト・ハイドリヒ
    強権的な権威を持つハイドリヒは、会議を円滑に進め、反対意見を巧みにかわしながら結論へと導きます。その冷酷で計画的な姿勢は、ナチス体制の象徴として描かれています。

  • アドルフ・アイヒマン
    実務を担う官僚として描かれるアイヒマンは、システマティックにホロコーストの計画を進める存在。個人的な感情を挟むことなく、機械的に任務を遂行する姿が、恐ろしさを際立たせています。

日本との比較|戦時下の会議と文化の違い

本作を観ながら感じたのは、「日本だったらどう描かれるだろうか」という疑問です。ドイツの会議では、異なる意見が飛び交いながらも、最終的にはまとまりを見せます。

日本の戦争映画では、しばしば怒号や威圧的なやり取りが描かれることが多く、ドイツの冷静で形式的な会議とは対照的です。文化や価値観の違いが、このような描写にも表れていると感じました。また、日本映画では「日本人は戦争の被害者」という視点が重視されることが多いため、ナチスのような加害の側面を正面から描く映画が少ない点も興味深い比較です。

まとめ|冷静な議論の中に潜む恐怖

『ヒトラーのための虐殺会議』は、ホロコーストという未曾有の悲劇が、冷静で官僚的なプロセスの中で決定されていった恐ろしさを浮き彫りにした作品です。

ドイツ映画ならではの緻密な描写と、ナチス体制の非人間性を象徴するような会議の進行が、観る者に強い印象を残します。戦争の悲劇を再確認するためにも、一度観ておきたい映画です。

ヒトラーのための虐殺会議

ヒトラーのための虐殺会議

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