前回はモバイルペイメントに注目して中国のFintechを紹介しましたが【赤盤】、今回は銀行を中心に中国のFintechを紹介します【青盤】。シャドーバンキングのような複雑な問題はボクの手には負えないのですが、なるべく網羅的にわかりやすく解説します。
中国のFintech
中国では2013年からFintechに対する投資が増え続けましたが、中国の中央銀行である中国人民銀行が規制を強める発表を行い2017年には投資が大きく減少しました。それでもアメリカ、イギリスに次いで3番目にFintechに対して投資が行われた市場です。規制に左右されることが多くリスクもありますが、中国での金融サービスの市場は大きいためにスタートアップなどイノベーションも活発です。
以下は調査会社のiResearchのデータをもとにコンサルティング会社のマッキンゼーがまとめたチャートですが、中国におけるFintech市場の90%近くは前回【赤盤】で紹介したペイメントが占めています *1。今回【青盤】で紹介するのはそれ以外のFintech分野となります。
Fintechの分類
まず、大まかにFintechを分類してみましょう。Fin-はファイナンシャル・サービス。つまり金融ですね。-techは技術、特にインターネット技術です。インターネット技術を活用した金融サービスがFintechです。
金融サービスは大きく分けて以下の四つに分けることができます。
- 使う
- 預ける
- 借りる
- 増やす
【赤盤】で紹介したペイメントはこの中の「1. 使う」に分類されます。お金を使う手段としてインターネット技術を活用します。他にもお金を送金するのも「1. 使う」です。ペイメント以外でも銀行でいえば口座振替や口座振込も「1. 使う」に分類できます。銀行ではないFintechであればTransferwiseがこれに当たります。
今回【青盤】で紹介するのは「2. 預ける」、「3. 借りる」と「4. 増やす」の三つの分野です。細かい抜け漏れはあると思いますが、大まかにこれでFintechを捉えることができます。なお、ビットコインなど暗号化通貨/仮想通貨は「銀行ワールドと別にあるパラレルワールド」が前提なので、ここには入っていません。暗号化通貨/仮想通貨とFintechの関係は次回の【金盤】で解説する予定です。
預ける:中国のオンライン銀行
多くの人は銀行口座を持っていて、そこにお金を預けていると思います。ユーザーから見れば銀行の預金口座は全ての金融サービスのハブですよね。前回の【赤盤】でも説明しましたが、銀行はユーザーから預かったお金を運用して、その利ざやで儲けます。その窓口が預金口座です。個人の口座もあれば、企業が持つ法人の口座もあります。
中国では長年この銀行口座は国有の銀行しか提供することができませんでした。しかし、中国経済が成長するにつれて金融サービスの需要に供給が追いつかなくなってきます。このミスマッチがシャドーバンキングの拡大につながります。シャドーバンキングは中国経済のリスクとなり、対応が必要になってきました。
そのような背景もあり、中国銀行業監督管理委員会(中国银行业监督管理委员会)は2014年7月に銀行業のライセンスを私企業に提供することを決めます。最初は3社(=3行)でしたが、2017年には17社まで増えました。テンセントが筆頭株主(30%)のWeBankとアリババが筆頭株主(30%)のMyBankがこの代表です。
銀行とマネーリザーブファンドの違い
モバイルペイメントの解説【赤盤】でモバイルペイメントは銀行のようなマネーリザーブファンドとセットだと説明しました。アリババの場合はAlipay(支付宝)というモバイルペイメントとユエバオ(余额宝)というマネーリザーブファンドはセットです。しかし、マネーリザーブファンドと銀行の機能は似ていますが、本質的には違います。本質的に銀行口座の役割は「2. 預ける」ですが、マネーリザーブファンドの役割は「4. 増やす」です。
銀行:個人(または法人)が銀行に口座を開設してお金を預けます。銀行はそれを集めて運用して利ざやを稼ぎます。運用に失敗しても銀行が資産を失っても50万人民元までは返済が保証されています。利息は0.35%です。つまり、ローリスクローリターンですね。銀行カードが使え、ATMでお金を引き出す他に、デビットカードUnionPayを使って店舗で支払いもできます。
マネーリザーブファンド:預金ではなく基金です。ファンドが運用する基金に個人が投資をする形をとります。ファンドが運用に失敗して資産を失っても返還の保証はありません。金利は3.6%です。定期預金と違い、24時間365日ファンドからお金をいつでも引き出せるため、利便性が非常に高いのが特徴です。リスクが銀行口座より若干高いものの利便性が高く利息も高い。しかし、銀行ではないので銀行カードはありませんし、ATMでお金も引き出せません。デビットカードUnionPayは使えませんが、モバイルペイメントが利用できます。銀行口座にお金を移す時に手数料がかかります。
既存の銀行と新しいオンライン銀行の違い
最大の違いは銀行カード(UnionPay)の発行です。中国では銀行カードを発行するには対面での申し込みが必要になります。新しいオンライン銀行は基本的には物理的な支店はなく(あっても一つに限定されている)対面による銀行カードの発行ができません。
また、新しいオンライン銀行とマネーリザーブファンドの本質は違うと言っても、実質的な競合であることは変わりません。新しいプレイヤーのオンライン銀行は既存の銀行だけでなくマネーリザーブファンドと差別化をしなければいけません。前述の通り、既存の銀行の金利は利息は0.35%程度ですが、オンライン銀行は余额宝と同程度(4%前後)と比べても競争力のある金利を提供しています *2。テンセントのWeBankで5%、アリババのMyBankで3.8%です。
借りる:Fintechの成長分野
新しいオンライン銀行の差別化ポイントは「1. 預ける」ではなく「2. 借りる」です。需要と供給のギャップが大きいのもまさにここですし、銀行が儲かるのもこの分野です。このギャップはこれまでシャドーバンキングが埋めてきたのですが、オンライン銀行が埋める一翼として期待されているのだと想像します。
「2. 借りる」といっても様々な用途や形態があります。クレジットカードでリボ払いのようなカジュアルなもの、クレジットカードでのキャッシング、車のローンや学資ローンなど様々です。スタートアップや小さなお店なら事業のための借り入れもありますよね。
そして、この「2. 借りる」はグローバルでも現在最も投資が行われている分野でもあります。最近だとスモールビジネス向けのKabbageやP2P金融のSoFiが大きな資金調達をしましたね。
アプリから借りる
中国で最もカジュアルな「2. 借りる」方法はモバイルペイメントのアプリ経由です。何か買い物をしたいのであればフアベイ(花呗)ですし、キャッシングならジエベイ(借呗)です。下の図はAlipay(支付宝)のスクリーンショットですが、クレジットもキャッシングも同じアプリの中で利用できます。
P2P金融
アプリでの少額融資だけでなく、P2Pによるお金の貸し借り(P2P金融)も活発です。P2P金融はソーシャル金融とも言われます。借り手と貸し手を結びつけ、個人間での融資を実現する仲介サービスです。欧米ではLending ClubやProsperが有名です。中国での規模は2000億ドル(約22兆円)とも言われています。アメリカでこの分野のリーダーであるLending Clubの共同創業者のソウル・フタイトもアメリカでディエンロン(点融)を創業します。すごいですよね。
しかし、P2P金融は世界的には成長しているのですが、中国では淘汰がはじまっています。P2P金融はこれまで明確な規制が明確ではなかったのですが、徐々に規制がはじまりました。2016年にP2P金融のイーズバオ(e租宝)が「ネズミ講」と認定され、幹部が逮捕されました。2013年から破綻するP2P金融は増え続け、顧客が急いで資金を引き上げる動きを見せています。前述のディエンロン(点融)やLufax、アメリカの株式市場で上場しているイーレンダイ(宜人贷)のような大手は成長を続けるでしょうが、中小のP2P金融は淘汰されていくと考えられています。
オンライン銀行によるファイナンス
テンセントのWeBankやアリババのMyBankといった新しいオンライン銀行は個人や中小企業を中心とした少額融資をターゲットにしていますが、カジュアルなキャッシングはアプリ、それ以外でもP2P金融などすでに競合となるようなサービスがあります。
まだはじまったばかりなので、評価は難しいですが、競合が多い中でもWeBankの貸付額が8700億人民元で不良債権率が0.64%、MyBankの貸付額が4468億人民元で不良債権率が1.23%となかなかいいパフォーマンスですね。先行者利益もあるのかもしれませんがテンセントのWeBankの方がアリババのMyBankよりパフォーマンスがいいのが興味深いです。
MyBankの場合は571万の小規模企業に融資をしました。平均融資額は2.8万人民元で、75万件は農村地域への融資案件でした。そして11.9%は農業関連の融資だったそうです。中国における金融ギャップは大都市ではなく、地方が大きいのですね。
ちなみに中国の銀行の不良債権率は1.67%で日本の銀行が1.3%だそうです(2017年実績)。日本の地銀の不良債権率が1.7%なので、日本の地銀よりいいパフォーマンスですね。
信用経済
不良債権率はとても重要な指標です。融資は一番銀行が儲けるところですが、貸したお金は返してもらわなければいけません。中国でお金を返さない人をラオライ(老赖)といいますが、このラオライを減らさなければいけません。お金が返ってこないリスクを信用リスクといいます。この信用リスクをどれだけ最小化できるかで収益が大きく変わってきます。
この信用リスクを低減する仕組みがクレジットスコアです。日本だとCICですね。アメリカだとFICOやVantageScoreです。中国では百行征信有限公司、通称シンリエン(信联)です。
シンリエン(信联)はアリババのセサミクレジット(芝麻信用)やテンセントのテンセンジェンシン(騰訊征信)など民間の信用情報調査会社と業界団体が設立した企業で、中国人民銀行から信用情報調査会社としての認可をはじめて受けました。これまでセサミクレジット(芝麻信用)などが個別に認可を申請してきましたが、シンリエン(信联)がその役割を担うことになりました。
中国ではアプリを中心とした独自の信用経済が発達してきました。セサミクレジット(芝麻信用)のスコアが高ければサービスの頭金が必要なかったり、多くの特典が与えられるようになりました。最近だと、セサミクレジットが750ポイント貯まったユーザーは新しいスマホを購入前に30日間無料で試せる特典を発表しました。
利用者もセサミクレジットの評価をよくするために正しくサービスを受けるようになります。しかし、信用情報がプラットフォームに集中することによる個人情報の悪用などの懸念が高まりました。よく金融で影響力の強い「三人のマー(三马)」と言われます。アリババのジャック・マー(马云)、テンセントのポニー・マー(马化腾)、ピンアンのマー・ミンジェ(马明哲)の三人ですが、情報の寡占が懸念されました。これはアメリカでも同じ動きですよね。シンリエン(信联)が三年の試行の末に正式に人民銀行からライセンスを受けたのはこのような背景があります。
増やす:中国でも注目を浴びるAIを使ったロボアドバイザー
金融ギャップは借りる側だけではなく、投資する側にもあります。増やすには銀行口座に預けるだけではなく、高利回りの期待できる金融商品を買うこともできます。ある意味、マネーリザーブファンドも金融商品の一つと言えるでしょう。
しかし、数多くある金融商品から自分に合ったものを選ぶのはなかなか難しいものがあります。そこで注目を浴びているのがAIで最適な投資先を見つけてくれるロボアドバイザーです。このロボアドバイザーの先駆けは2008年に創業したアメリカのWealthfrontです。この他にもRobinfoodが有力なプレーヤーです。日本でもWealthNavi(ウェルスナビ)やTHEO(テオ)が有名ですよね。
中国でも金融商品のニーズがあるため、ロボアドバイザーへの投資も盛んです。中国ではPINTEC(品钛)やトウミRA(投米RA)が有力なプレーヤーです。多くはP2P金融で地盤を築いていますね。特にPINTECは2018年7月にアメリカの証券取引所にIPOを申請して勢いに乗っている中国のFintech企業です。
PINTECの2016年の収入は5490万人民元でしたが2017年には5億6870千万人民元、936%の成長を実現しました。この原動力となっているのがサービスフィーです。
参考文献
What’s next for China’s booming
Panic Roils China's Peer-to-Peer Lenders - Bloomberg
A Guide to China’s $10 Trillion Shadow-Banking Maze - Bloomberg
China's Private Commercial Banks like MyBank and WeBank have a ways to go - Kapronasia
Asia's Richest Banker Spots a Once-in-a-Lifetime Opportunity - Bloomberg
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