ざっくり言うと
- データ分析大事。そのためのプラットフォームをこの時期に作る。GitHubとか使ってオープンにフィードバックを得るの大事。
- GOV.UKではペルソナ使わない。あとで出てくるデジタルインクルージョンにもその思想は表れていると思います。公共サービスとしてはイギリスに住む人全員がユーザーであり、ペルソナのような紋切型は適さない。
- この頃からGDSがイノベーションラボとして機能しはじめる。スケールすることが意識されはじめる。各省庁からチャンピオンを招集。イノベーションラボはトランスフォーメーションの定石。欧米では企業でも同じやり方。イノベーションラボに興味がある方はこちらまで。
- アメリカのCode for Americaとはこの頃から付き合い。国内外でかなりコラボしてる。
- この年の後半で戦略発表。1年くらいしかかかっていない。スタイルガイドとか基本となるものの準備も引き続き。
原文:"A GDS Story 2012"
2010/2011年|2012年|2013年|2014年|2015年
2012年
1月
1月19日
最初はうまくいかないでしょう。手探りで道を探しながら、地面に杭を指していくでしょう。うまくいきそうなアイデアをスケッチしていき、さまざまなソリューションをテストし、問題を解決する道筋を決める。これは巨大で複雑な作業です。
1月31日
GOV.UKのパブリックベータ版がローンチされました。それは「私たちの最初の大きなプラットフォーム」と呼ばれました。
チームはgov.uk/tourを作っていろんな人に見せました。ベータ版はwww.gov.ukで公開されていましたが「非公式」のままでした。まだwww.direct.gov.ukを置き換えていませんでした。移行作業は2012年10月までのかかるはずです。ベータユーザーはGet Satisfactionページからフィードバックを求められました。
エンゲージメントチームはソーシャルメディアをモニターしました。フィードバックの有用な分析をまとめました。Sotryfulの概要も含めて。
Tom LoosemoreとMartha Lane FoxがBBCのニュースでインタビューを受けました。
ベータ公開その日のうちにチームはユーザーのフィードバックに基づいてベータ版を反復改善しました。次の日にはより多くのフィードバック、より多くの反復改善。このような改善作業をひたすら続けました。
この頃、GDSのメンバーは急速に増えます。Directgovの移行期日までわずか数カ月で、チームはより多くの人手を必要としました。
2月
必然的に問題がたくさんありました。ベータユーザーは彼らが問題をフィードバックし、チームはそれを修正しました。この場合、火曜日のイースターがベータでは月曜日となっていました。
2月1日
一般市民からのGOV.UKに最初のプルリクエスト(Github)。Matthew SomervilleはBank Holidaysページの間違いをフィードバックしました(スコットランドのBank Holidaysの間違った日にち)
2月7日
GDSとGOV.UKのブランドアイデンティティを生み出す - GOV.UKを全て大文字で表現したのがこれが初めて。これ以来ずっとこのように表現しました。
GOV.UKのための斬新なロゴやアイデンティティはありません。これは時間とお金の節約でもあります。またGOV.UKが覚えてもらいたいURLだということもあります。単純にGOV.UKが必要な場所であること。新しい名前やアイデンティティーを発見または理解する必要はありません。しかし、名前を実際のアイデンティティーとするには(あるいは、オフィスで「何か」と言っているように)、常に大文字とすることに決めました。このようなことに多くの時間を費やしていると思われますが、私たちは約10分間でそれを決めました。
2月10日
Mike Bracken、Francis Maude、Liam Maxwell(当時内閣府のIT改革グループで働いていた)はシリコンバレーのコンタクトを訪問しました。企業と公共部門の連携について視察しました。
2月28日
gov.uk/government内でInside Governmentのローンチ。
これはチームの構成と考え方が反映されています。GOV.UKの作業は「主流」と「Inside Government」という2つのプロジェクトと2つのチームに分かれていました。
「メインストリーム」は市民向けのサイトでユーザーニーズに直接対応するもの。
「Inside Government」はそれぞれの官公庁の旧来のページと似ていて、その省庁の仕事と役割について説明していました。
このブログ記事のコメントは興味深いです。公開された翌日、誰かがアクセシビリティが貧弱だとコメントしました。数時間後チームはそれを改善するために変更を加えました。
Neil Williamsはブログ記事を書き、Inside Governmentの「ガイド付きツアー」を紹介しました。
そのブログ記事にある画像の1つはすべての官公庁は同じようにシングルドメインで公開されることを指しています。
3月15日
Ben Terrett:
誰かがいくつかのペルソナポスターを貼って、私はそれに対して怒りました。全ての市民が私たちのユーザーで、いい見た目のペルソナなんかじゃない。私は紙に穴を開けて窓に貼りました。
3月23日
Mike Brackenは2012年の予算に対応するブログ記事を書きました。彼は財務省からのこれらのコミットメントを強調しました:
... 2014年から新しいオンラインサービスはそれに責任がある閣僚が自分自身でそのサービスを問題なく利用できることを実証できる場合にのみ公開することとします。また、2012年末までにすべての情報が「GOV.UK」シングルドメインのもとに公開され、2015年までにすべての手続きを「デフォルトでデジタル」アプローチに移行する予定です。
3月28日
デジタルリーダーの第1回会合。多くの異なる官公庁から集まり、知識と経験を共有するグループ。
デジタルリーダーのRachel Neamanは次のように書いています:
部門内のデジタルは孤独な場所です。しばしばオタクやトレンディな若いものの特殊な場所とみなされています。そのため、真の変化をもたらすための政府機関をまたがるプロフェッショナルのネットワーク作りは遅れています。厄介な問題に取り組んでいる人たちがほかにもいるということはよい発見です。今日も明らかになったことは単純で簡単な解決策はないということです。
4月3日
デザイン原則アルファ版の公表。Tom Loosemoreのコメント:
原則に従うことでチームは自律的に動くことができます。
デザイン原則がかつようされるにはシンプルで、明確で、役立ち、わかりやすくなければいけません。このデザイン原則が1ページのHTMLでまとめられ、各原則それぞれURLリンクを持っているのはそのためです。多くのデザイン原則は巨大なPDFファイルで読まれません。
その頃、GOV.UKの開発者(Dafydd VaughanやMosely Melyを含む)数名がNumber 10 Downing Streetを訪れ、技術的な課題を検証しました。
4月30日
悪名高い出来事:Pete HerlihyはInside Governmentチームのアイスボックス(やらなければいけないけどまだ優先順位が付けられていないタスクリスト)を削除してしまいまい、多くの同僚を恐怖の底に突き落としました。
彼はこの件についてこう書いています:
もしそれが重要なら覚えているはず。...ある時点で、アイスボックスは50ストーリー以上になっていたため、私は全体を削除することに決めました。バックログの信頼性の問題となるので、そうするしかありませんでした。私たちチームのマントラは「覚えているのなら重要」でした。このマントラに従うことで実際にかなり自由になりました。
5月14日
Inside Governmentベータ終了。Ross Fergusonはそのフィードバック(いいのも悪いのも)について書きました。
5月25日
5月30日
新しいAssisted Digitalチームの最初のブログ記事。デジタルスキルが高くない人たちが新しいデジタル公共サービスを使えるように支援する。
Rebecca Kemp がassisted digitalについて解説しています:
Assisted Digitalはユーザーやサービスによって異なります。ユーザー自身がデジタルサービスを利用できるようになるためにインターネットが使えるように支援することかもしれませんし、デジタルサービスの利用のために支援してくれる場所の提供かもしれません。Assisted Dugitalはそれを必要とする人々のために電話または対面サービスを提供します。
6月26日
Digital Performance Frameworkのアルファ版リリース。これは後にPerformance Platformの重要な部分となります。
同じ日にChris Heathcoteは開発スピードに関してブログ記事を書きました。ユーザー中心の反復アプローチがどのように小さな変更を迅速かつ容易に行うことができるかを強調しました。
これに続くのは正式な開発プロセスのスピードアップ版です。プロトタイプを作成し、フィードバックのためにチーム間で共有。改善されていることの確認、コードの変更、コンテンツエディタの変更点のチェック。カレンダーアプリの変更をプレビューサーバーにプッシュし、再びレビューされ、正式公開となります。これは一日で完了します。
7月2日
GOV.UKの編集スタイルガイドのアルファ版を公開。Sarah Richardsは次のように書いています。
スタイルとははっきりと、簡潔に、専門用語なしで書くことです。単純さはすべての人に恩恵をもたらします。これを「バカ扱い」とする人たちもいます。しかし、オープンで誰もがアクセスできるのは「バカ」なことではありません。私たちの責務です。
7月3日
次のリリースの後、デザインチームはGOV.UKのタイポグラフィーの変更についてブログ記事を書きました。
7月11日
Twitterアカウントを@govukから@gdsteamに変更。チームはGOV.UKとともに他のプロジェクトに取り組むために急速に拡大していたので、それに対応するための変更でした。Louise Kidneyは次のように書いています。
私たちは成長、変化しました。私たちは私たちのスコープは@govukを越え、市民からの他のサービスについての問い合わせを受けています。現在の状況に対応するため、Twitterアカウントを@govukから@gdsteamに変更します。表面上はあまり大きな変更ではありませんが、私たちのルーツに立ち返った変更でもあります。
開発チームがGOV.UKのアップデートをタイムラプスビデオにしたのがこちら。
7月18日
フィードバックとユーザー調査の後、GOV.UKベータ版のフロントページにあるカルーセルが削除され、よりシンプルなテキストベースのリストに置き換えられました:
8月10日
GDSは貿易関税(Trade Tariff)の改良バージョンをリリースしました。これは当時の重要なビジネスリンクの一部で、チームとしてもとても重要な成果でした。小規模の民間サプライヤーと協力して以前の成功しなかった試みをわずかなコストで完成できました。
8月24日
10月2日
「ホームページを大胆に刷新」 このリリースはブラウジングとナビゲーションの問題を解決しようとしました。
翌日にブログ記事で解説しました。
10月4日
当時の身分証明プログラム(Identity Assurance Programme:後にGOV.UK Verifyになる)は全国紙で報道されました。 Steve WreyfordはIDPチームの仕事を支える3つの原則についてブログに書きました。
10月9日
Directgovからの移行期限が近づいてきたので、Etienne Pollardはこれまでの作業をまとめました。彼はGOV.UKのスコープの「これを満たした入れる」リストを含め、ユーザーニーズを中心に置くことについて書きました。
10月10日
コンテンツデザイナーのPadma Gillenは市民のためのWebコンテンツと顧客のためのWebコンテンツの違いについてブログ記事を書きました。
政府と関わるのはそれが必要だからです。市民として必要な部分です。できるだけ早く簡単にしたい。そうすれば人生にとって有意義な部分に時間を使える。利益となる動機がないので、行動は変えたくない。
10月11日
Paul DowneyはDirectgovからGOV.UKへの移行に関してチームがどのように「ひとつのリンクも取り残さない」ことをどのように確認したか解説しました。
10月16日
2005年からDirectgovに取り組んでいるGraham Francisがその歴史をブログで振り返りました。
当時の内閣府のFrancis MaudeがブログでGOV.UKの紹介をしました。開発チームはGOV.UKの構築に使用されたソフトウェアを公開しました。
Etienne Pollardは「ビジネス・リンクからすべてをコピーしただけではありません」と説明しました。
これはGOV.UKから「ベータ」ラベルを削除したコード変更です。
10月17日
すごい日! GOV.UKはベータからライブに移行し、正式にDirectgovとBusiness Linkを置き換えました。
開発者のPaul Downey:「国のウェブサイトをローンチした。問題なし」とツィート。 Mike Brackenは「なぜこれは重要なのか」という。ブログ記事書きました。そして私たちは動画をアップしました。
ケーキを食べました。 このケーキはGDSの伝統と言えるなにか。
10月18日
Sarah Pragは最初の日の数字を書きました:909,706人のユニークユーザーの1,129,578回の訪問。
10月23日
パフォーマンスプラットフォームのベータ版。
10月26日
開発者のJames WeinerがGDSを去るときにこれまでを簡単に振り帰りました:
おそらく、これまで働いたどの場所よりもGDSで学んだことは大きかったです。みんなが喜んでたみんなを助け合う。これはいい仕事ができる理由でもあります。お互いの意見や経験を尊重し、なおかつ建設的に批判をします。個人的な気まぐれではなく、使いやすいサービスを作ることを第一の目的としています。
同日、私たちはチームがアジャイルでスケールすることに関する学びについてブログ記事を書きました:
私たちは、本、ブログ記事、専門家がいう通り、より少ない作業をすることにコミットするべきでした。
11月2日
開発者のGareth Rushgroveによる定期的なリリースによるリスク削減について:
小さなカタマリを定期的にリリースすることで、何が変更されるのかがはるかに分かりやすくなります。何か問題が生じた場合は、そのカタマリを元に戻して、無かったことにする方がずっと簡単です。
11月6日
Government Digital StrategyとDigital Efficiency Reportの発表。
この戦略には「可能な限り意味があり測定可能なアクション」のリストが含まれています。
- 官公庁および公共サービスに関わる行政機関のボードメンバーには活発なデジタルリーダーを含むこと
- 年間10万件以上のトランザクションを処理する公共サービスは経験豊富な権限のあるサービスマネージャーによって再設計、実行、改善すること
- すべての官公庁は人材を含め組織内に適切なデジタル機能があることを確実にする
- 内閣府は官公庁のデジタル機能の向上を支援する
- すべての官公庁は年間10万件以上を処理するサービスを再設計する
- 2014年4月以降、新しいまたは再設計されるすべての公共サービスはデジタルを基本とする(Digital by Default)
- 2013年3月までに24全ての官公庁のパブリッシングはGOV.UKに移管し、2014年7月までに関連政府機関や外郭団体のオンラインパブリッシングを移管する
- 官公庁はデジタルサービスの意識を高め、より多くの人々に周知、利用促進をする
- デジタルを活用支援するための政府間のアプローチを行う。オンラインを使ったことがない、ほとんど使わない人たちのためにオフラインでもアクセスできるサービスを提供したりデジタルを利用できる支援を行う。
- 内閣府はより軽量な入札プロセスを提供。規制要件が許す限り、業界でのベストプラクティスに近いレベルまで絞りこむ。
- 内閣府は次世代デジタルサービスの基盤となる新しい共通プラットフォームの定義と提供をリードします
- 内閣府は各省庁と継続的に協力し、便利なデジタルサービスの開発を不必要に妨げる立法上の障壁を取り除く
- 各省庁は内閣府が定める公共サービスのための一貫した管理情報を提供する
- 政策チームはデジタルツールと技術を駆使して一般の人々と関わりを深め対話していく
- 公共、営利団体および非営利団体など、セクターをまたがるパートナーと協力してオンラインサービスを人々に提供する協力関係を築く
- オープンデータを推進することにより、公共以外の新しいサービス構築とユーザーへの情報提供の改善を支援する
これらのアクションはGDSにとっての今後の業務範囲の定義となります。Digital Efficiency Reportはこれらのアクションの基礎となっています。
翌日、官僚のSir Bob Kerslakeは次のように書いています:
政府のデジタル化は幅広い利益をもたらします。政府のコスト削減と革新を推進し、国民にとって簡単で使いやすいサービスの提供を可能にします。私はデジタルが基本(Digital by default)を積極的に受け入れます。これはユーザーのニーズを満たすために行うべき正しいことというだけではなく、公共サービスに関わる人間にとって新しいやり方だからです。
11月7日
11月13日
米国の仲間であるTim O'ReillyとJennifer PahlkaがGDSに初めて訪問*1。
11月15日
これは長い移行フェーズのはじまりでもあります。各省庁で管理されていた何百もの古いウェブサイトをGOV.UKに移行させました。
11月26日
Digital Leaders Networkが公式に発表されました。このアドバイザーグループ(政府機関の内外から構成)はシステム全体にわたって新しいガバナンスを構築して実行する上で不可欠でした。 彼らは後でGOV.UK戦略に同意し、それを元に各官公庁のデジタル戦略の開発を推進しました。Kathy Settleはその作業を指導する上で重要な役割を果たしました。
12月10日
テクニカルアーキテクトのAnna ShipmanはGDSが開発したマイグレーションツール"Migratorator"について解説しました。
12月13日
改革チームについての短編映画。この時点ではまだまだ小さな規模でしたが、すぐに25の模範プロジェクトからなる組織になりました。2013年から2015年の間のGDSの新しいフォーカストなることが2013年1月のSprint 13で発表されることになります。
12月14日
GDSはLiam Maxwellが政府の最高技術責任者(CIO)としてGDSに参加すると発表しました。この人事に伴いIT Reform Groupが内閣府からGDSに移管されました。
12月21日
政府のAssisted Digitalの取り組みが発表されました。
同日18の官公庁がデジタル戦略を発表しました。Tom Loosemoreは次のように書いています:
これまでではじめて、政府はデジタルの時代にふさわしいユーザーの期待を叶える集合的な野心を持つに至りました。
前回に引き続き、イギリス政府のGovernment Digital Service(略称:GDS)が自らの組織とGOV.UKの成り立ちをブログ記事にした"A GDS Story"の翻訳です。
今回は2012年の出来事。GOV.UKがベータ版から本番公開となります。繰り返し、繰り返し出てくるのが「ユーザー中心」の考え方と行動。これは本当に「言うは易く行うは難し」の代表例です。これがGOV.UKの成功のカギだと思います。単にデザインや開発技術を駆使したプロジェクトだったらこのような成功を収めていなかったでしょう。
そしてデザイン原則、編集スタイルガイドや移行ツールなど基盤となるものを着々と準備するところがすごい。他にも読む人にとっていろんなところが参考になると思います。
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*1:このエピソードはティム・オライリーの著書"WTF"にも書かれています。これがCode for Americaの話に繋がってたりする