カタパルトスープレックス

興味がない人は無理して読まなくていいんだぜ。

書評|数学者のYouTuberによる楽しい数学|"Humble Pi" by Matt Parker

f:id:kazuya_nakamura:20200302150301p:plain

最近ではYouTuberの影響力が大きくなってきました。テレビではなくYouTubeのチャンネル、音楽だってYouTubeで聴く。YouTuberはエンターテイメントだけではなく、学術の世界にも広がっています。今回紹介する数学をエンターテイメントする"Humble Pi"の作者マット・パーカーもYouTuberです。チャンネル名はスタンドアップ・コメディーと数学者(マスマティシャン)を合わせて『スタンドアップ・マス』

Humble Pi: A Comedy of Maths Errors

Humble Pi: A Comedy of Maths Errors

  • 作者:Matt Parker
  • 出版社/メーカー: Allen Lane
  • 発売日: 2019/03/07
  • メディア: ハードカバー

"Humble Pi"はそんなマット・パーカーの最初の著書となります。テーマは「人を惑わす数字」です。どんな数字に惑わされるのか?人は大きな数字に惑わされやすいのだそうです。例えば100万秒(ミリオン秒)は11日14時間です。10億万秒(ビリオン秒)は31年以上です。ミリオンからビリオンに変わっただけでかなり大きく変化します。これが1兆秒(トリリオン秒)では西暦33700年の未来まで飛んでしまいます。単位はビリオンからトリリオンに変わっただけなのに。

それは人間は対数的(logarithmic)にモノを考えるからなのだそうです。対数的とはかけ算でモノを考えるということです。しかし、実際の数字は足し算で直線的に増えていきます。この人間の感覚と実際の数字の増え方のギャップは「中間」を測ることで理解できます。中間ってたくさんの定義があるんですよね。平均値と中央値って違いますものね。

マット・パーカーが例としてあげているのが9の「真ん中」です。足算的に考えれば5ですよね。1234(5)6789です。ところが、3の対数的に考えると3です。3の対数とは3を掛けていくことです。1掛ける3は3です。3掛ける3は9になります。つまり、1(3)9で、3が「真ん中」になります。人間は9のような小さな数字は暗算できるので足算的に考えて5が真ん中だといえます。しかし、これが大きな数字になると暗算できないので無意識に対数的、つまりかけ算的に考えてしまうのです。

その結果が、ペプシのハリアーキャンペーンの失敗でした。ペプシはポイントを集めれて商品をもらうポイントキャンペーンをやったのですが、そのCMで700万ペプシポイントを集めてハリアー戦闘機をもらおう!とやったのです。まさか、700万ペプシポイント(700万ドル=7000万円以上)を集める人なんていないだろうと思ったんですね。ところが、実際に計算するとハリアー戦闘機の購入価格は700万ペプシポイントより全然高い。2,300万ドルですから2億300万円以上ですね。実際に700万ペプシポイントを集めてハリアー戦闘機を請求する人が出てきて裁判になりました。

このほかにもUNIXのシステム時間から起因する2038年問題や大きな数字を扱うのにあまり適さないExcelを使ったために大きな損害を出したJPモルガンの例など様々な事例を紹介しています。

この本はどんな人にオススメか

雑学が好きな人にはオススメですね。とはいえ、書籍で読むよりはYouTubeで見た方がいいような気がしないでもないです。もともとマット・パーカーはYouTubeなのでネタもYouTubeに向いてると思います。『スタンドアップ・マス』を見て「もっと詳しく!」と思ったら本書を手に取ってもいいかも。