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韓国警察アクションの代表作、約10年ぶりの続編『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』レビュー

リュ・スンワン監督の最新作『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』は、2015年の大ヒット作『ベテラン』の続編として約10年ぶりに公開されました。前作がユーモラスなアクションコメディだったのに対し、今作はダークでシリアスなアクションスリラーへと舵を切りました。リュ監督は前作の公開時に三部作の構想を明かしていましたが、この長い準備期間を経ての公開となりました。正義、自警行為、法制度への不信といった重いテーマを扱い、カンヌ国際映画祭やトロント国際映画祭でのプレミア上映では国際的な注目を集めました。

あらすじ|ベテラン刑事ソ・ドチョルの新たな葛藤

ベテラン刑事ソ・ドチョルと強力班は、違法賭博場の摘発から物語をスタートします。これは前作のアクションスタイルを引き継ぎ、観客を再び彼らの世界に引き込む演出です。しかし物語はすぐに、過去の犯罪で罪を逃れた者ばかりが狙われる連続殺人事件へと移り、不穏な空気が漂います。

やがて、マスクをつけた殺人犯の処刑動画がネットで拡散されます。人気ユーチューバー「エディター・ジャスティス」が「へチ」と名付けたこの殺人犯は、法の抜け穴を突く自警団員として多くの人から支持されます。この自警行為を称賛する世論は警察にプレッシャーをかけ、捜査を難しくしていきます。

こうした状況でソ・ドチョルは新たな試練に直面します。彼が個人的に罰を受けるべきだと思う人々を、法に従って守らなければならないからです。そこに格闘技が得意な新米刑事パク・ソヌがチームに加わり、捜査は思わぬ方向に進みます。ソ・ドチョルは法と個人感情の狭間で揺れながら、正義とは何かを問い直すことになります。

テーマ|変化する社会で問い直される正義と警察の役割

今作の核にあるのは、自警行為と既存の法制度の対立です。へチの行動は法の裁きを逃れた犯罪者への私的制裁であり、警察の「適正手続きの維持」に真っ向から挑戦しています。前作では善悪がはっきりしていましたが、今作では「良い殺人」や「良い暴力」はあるのか、という深い道徳的問いが投げかけられています。へチは一方的なヒーローではなく、時に自分勝手に行動するあいまいな存在として描かれています。

SNSと群衆心理の問題も重要なテーマです。作中の「エディター・ジャスティス」は殺人を扇情的に報道し、へチへの支持をあおることで物語の中心的役割を果たします。これはデジタルメディアが報道と扇動の境界をあいまいにし、正義の認識をゆがめる現代社会の問題を浮き彫りにしています。リュ監督はこの描写を通して、メディアが「文化の劣化」に加担していることを示しているのです。

また警察が直面する倫理的ジレンマも描かれています。ソ・ドチョルは個人的な報復欲と法を守るという職務の間で悩みます。特に興味深いのは、前作では軽視していた「警察の暴力」への態度が、今作では「自警団員は警察の論理的延長」という形で自己批判されている点です。この反省的なアプローチはリュ監督の成長を示し、より知的で挑戦的な作品に仕上げています。

キャラクター|謎めいた新キャラクター

ファン・ジョンミン演じるベテラン刑事ソ・ドチョルは、前作と同じく犯罪者を執念深く追う姿を見せます。しかし今作では彼の正義観が試され、正義の複雑さに直面して内面的な葛藤を抱く姿が描かれています。彼は個人的な復讐心よりも「良い警察の仕事」を優先しようと奮闘し、自分の役割への理解を深めていきます。

チョン・ヘイン演じる新米刑事パク・ソヌは、物語に「忍び寄る不安と緊張感」をもたらす重要な存在です。知的で強く、特にUFC技術に長けたソヌの格闘スタイルは、チームの荒っぽい戦い方とは対照的です。チョン・ヘインは自身の穏やかなイメージを覆し、微妙な存在感でキャラクターの多面性を表現しており、リュ監督も彼のキャスティングを高く評価しています。彼の演技は隠された闇と善悪の境界のあいまいさという映画のテーマを強調しています。

前作から続投するベテランチームのメンバー、オ班長、ワン刑事、ポン刑事は、今作では物語のダークなトーンのため、その存在感が薄くなっています。彼らのコミカルなやり取りはシリアスな題材の中で不自然に感じられる場面もあり、前作のユーモアを期待する観客には物足りないかもしれません。これは映画がテーマの深さを優先し、以前の関係性を意図的に変化させた結果と言えるでしょう。

映画技法|ジャンルを越えた成熟した映像表現

リュ・スンワン監督は今作でより成熟した思慮深い作家としての姿を見せています。彼は前作のコメディ要素を意図的に排除し、初期作品のようなダークな題材に回帰しています。また映画的オマージュとして、鏡を使った巧妙なショットやデ・パルマ風のスプリット・ダイオプターを取り入れるなど、古典映画への敬意を払いながら自身のスタイルを発展させています。

撮影を担当したチェ・ヨンファンは、これらの視覚技術を用いて映画の心理的複雑さを高めることに貢献しています。鏡のショットは監視や隠されたアイデンティティーといったテーマと調和し、物語に不穏な雰囲気をもたらしています。編集のペ・ヨンテは複雑なストーリーラインにもかかわらず、アクションシーンで緊張感を保ち、物語の流れをスムーズにしています。

アクションの振り付けは前作の「楽しい」スタイルから「残忍で生々しい」スタイルへと大きく変化しています。冒頭は前作のエネルギーを保ちながらも、すぐに現実的な戦闘へ移り、暴力の持つ厳しい現実を観客に突きつけます。ファン・ジョンミンの「ダンサーのような」動きと、チョン・ヘインがスタントなしで演じたUFC技術の対比は、キャラクターの個性を際立たせ、物語のテーマ的対立を視覚的に表現しています。

まとめ|『ベテラン』シリーズの新たな地平を開く意欲作

『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』は前作の成功を単に繰り返すのではなく、自らの作品世界を深く掘り下げ、より重いテーマに取り組んだ成熟した続編です。リュ・スンワン監督はファンの期待をあえて裏切りながらも、自警行為、法制度への失望、デジタルメディアが社会に与える影響といった現代的問題に鋭く迫っています。この映画は単なる娯楽作品としてだけでなく、社会批評の手段としてのジャンル映画の可能性を示しています。

エンドクレジット後のシーンでは「ヘチ」の脱走が示唆され、物語は未解決のまま終わります。これは正義や責任に関する複雑な問いに簡単な答えがないことを示し、観客に継続的な思考を促すリュ監督の意図的な選択でしょう。