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二つの「ベスト・キッド」ユニバースが結びついた新たな第一章『ベスト・キッド:レジェンズ』

2025年に公開された映画『ベスト・キッド:レジェンズ』は、1984年のオリジナル版から続く『ベスト・キッド』フランチャイズの第6作目です。監督はジョナサン・エントウィッスル、脚本はロブ・リーバーが務めました。本作では、ラルフ・マッチオ演じるダニエル・ラルーソと、2010年のリメイク版でジャッキー・チェンが演じたハンという、シリーズの二つのユニバースを融合させました。新旧のキャラクターが共演し、ベン・ワン演じる新たな主人公リー・フォンを指導します。

物語は、ミヤギ先生の祖先であるシンポ・ミヤギが17世紀に中国でカンフーを学び、それがミヤギ流空手へと発展したという歴史的な場面から始まります。沖縄のミヤギ家と北京のハン家は「二つの枝、一つの幹」というつながりがあることが明かされ、オリジナル版とリブート版の世界観をまとめ上げました。物語は『コブラ会』シリーズの最終シーズンから3年後の世界が舞台で、同シリーズの「新たな章」として位置づけられています。

あらすじ|二人の師との出会いで再起する少年

リー・フォン(ベン・ワン)はカンフーの才能豊かな兄を路上での喧嘩で亡くすという悲劇から立ち直れずにいます。リーも兄と同様にハン師匠(ジャッキー・チェン)の指導を受けていましたが、母親の仕事の関係で北京を離れ、ニューヨークに移り住むことになります。母親は新しい土地で新しい生活をはじめるうえで、武術をやめることを約束させられます。

ニューヨークで新しい生活をはじめたリーは地元のピザ屋の女の子であるミアと友達になります。しかし、それがきっかけで地元の空手チャンピオン、コナー・デイと衝突します。コナーに敗れたリーは、過去のトラウマから再び立ち向かうことができなくなります。この状況を知ったハンは、リーを精神的に立ち直らせるためにニューヨークへやって来ます。リーの才能と内面の葛藤を見たハンは、カリフォルニアに住むダニエル・ラルーソに助けを求めます。

テーマ|「負け犬」の物語からの脱却

『ベスト・キッド』フランチャイズの中心となるメンターシップのテーマは、本作でも重要な要素です。ただし本作ではその形が進化しています。オリジナル版の一対一の師弟関係や、『コブラ会』でのライバル関係を通じた成長とは異なり、本作ではダニエルとハンという二人の師が協力して主人公を導きます。これは現代的な多角的な学びのあり方を表し、対立から協調へと向かうシリーズのテーマの成熟を示しています。

これまでのシリーズでは、主人公が武術の経験がない「負け犬」で、修行を経てライバルに打ち勝つという定式でした。本作はその定式を意図的に覆しています。リー・フォンは物語の冒頭で、すでに優れたカンフーの才能を持った「神童」として描かれます。そのため彼の旅は身体的な技術の習得ではなく、兄の死という個人的な悲劇と向き合い、内面の葛藤を克服することに焦点が当てられています。内なる恐怖こそが、リーにとっての真の敵なのです。

監督のジョナサン・エントウィッスルは、本作のテーマは「家族を見つけること」にあると述べています。リーは新しい環境に適応する中で、血縁関係にとらわれない「選んだ家族(ファウンド・ファミリー)」を築いていきます。また本作は過去の作品に見られた「異文化に飛び込んだアメリカ人」という構図を逆転させています。中国を故郷、アメリカを異質で奇妙な場所として描写することで、グローバル化された現代におけるアイデンティティの探求に新鮮な視点をもたらしています。

キャラクター造形|二人の師と、新たな「神童」

本作は新旧のキャストが共演するアンサンブル作品で、それぞれのキャラクターが物語の展開に重要な役割を果たします。新しい主人公のリー・フォン(ベン・ワン)は、従来の「弱者」の主人公とは異なり、物語の冒頭ですでにカンフーの才能に恵まれた「神童」として描かれます。彼の葛藤は技術の習得ではなく、兄の死という個人的なトラウマの克服にあります。多くの批評家がベン・ワンの演技とカリスマ性を評価し、「高い才能」「魅力的」「将来有望なアクションスター」と称賛しています。

ハン(ジャッキー・チェン)は2010年のリメイク版から登場したキャラクターで、リーの精神的な師匠として彼の悲劇を理解し、彼をトーナメントへと導きます。Mr.ハンの存在自体が、本作で統合されたユニバースの象徴となっています。ダニエル・ラルーソ(ラルフ・マッチオ)はオリジナルの「ベスト・キッド」で、経験豊富な空手師範としてハンと協力し、リーにミヤギ流空手の哲学を伝えます。

本作でのハンとダニエルの共演は、フランチャイズの二つの世界線を初めて単一の物語に統合する重要な役割を担っています。監督はこの統合を実現するため、ミヤギ家とハン家が17世紀から続く武術のルーツで結ばれていたという新たな設定を導入しました。物語の連続性よりも、象徴的な「レジェンド」たちの共演に焦点を当てた作品となっています。ただ、ダニエルの出演時間が約30分と限られていて、すこし「取ってつけたような」印象が残るのは残念な部分です。

映画技法|伝統的な武術映画への回帰

本作のファイトシーンには、監督のジョナサン・エントウィッスルの意図的な決断が反映されています。CGやカメラトリックに頼らず、アクションを「カメラ内」で「フルコンタクト」で撮影することに重点を置きました。この技術的な選択は、香港の武術映画の伝統への敬意を示すものです。特にジャッキー・チェンは自身のスタントを自ら演じ続けていることで知られています。

この撮影手法により、アクションに物理的な重量感と真実味をもたらし、武術の練習と技術の習得という物語のテーマと関連させています。エントウィッスル監督はファイトシーンを物語を前に進める「ミュージカルの曲」になぞらえ、それぞれの戦いが物語の重要な節目で終わるように設計しています。アクションシーンは単なるスペクタクルではなく、物語の重要なターニングポイントやキャラクターの成長を描く不可欠な要素として機能します。

また本作は過去のフランチャイズ作品と同様の手法を効果的に用いていると思われます。例えばオリジナル版では、見下ろすアングルが主人公のバランスの達成を、見上げるアングルがアンバランスな状態を示すなど、カメラアングルがキャラクターの内面を反映するために使われました。ドミニク・ルイスによる音楽と音響デザインも、観客の感情を高める重要な役割を果たしています。これらの映画技法は観客を物語の世界に引き込み、登場人物たちの感情的な旅路をより深く体験させることを目的としています。

まとめ|過去との接続と新たな試み

『ベスト・キッド:レジェンズ』は単なるフランチャイズの再開ではなく、過去の物語を統合し、新たな方向性を提示する野心的な作品でした。ハンとダニエル・ラルーソという異なる世界線のキャラクターを共演させることで、シリーズの物語を拡大しました。特に『コブラ会』で描かれたダニエルの成長が、ハンとの協調的なメンターシップという新たな物語に結びつく構造は、キャラクターの進化を尊重したものでした。

主人公リー・フォンの物語は従来の「負け犬」の定式を覆し、肉体的な強さではなく内面の葛藤を克服することに焦点を当てています。これはフランチャイズのテーマに現代的な深みを与え、武術の真髄が精神的な強さにあることを再確認させています。

また、ベン・ワンの若さ溢れるアクションや、ジャッキー・チェンが培ってきた伝統的なアクションへの回帰は、本作が現代の映画製作において古典的な武術映画の価値を再確認しようとする姿勢を示しています。総じて本作は、フランチャイズの物語に新たなページを加え、今後の展開の可能性を広げた一章と言えるでしょう。