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『近畿地方のある場所について』映画レビュー|ファウンドフッテージと劇作品の融合による非モキュメンタリー

映画『近畿地方のある場所について』は、ホラーミステリー小説を白石晃士監督が実写化した作品です。監督の特徴であるファウンドフッテージの手法が用いられています。主演には菅野美穂と赤楚衛二が起用されした。

この映画は、従来のホラーの要素と現代的なメディアの形式を組み合わせています。白石監督のこれまでの作品の特徴を集約した形となっており、初期のモキュメンタリー作品の緊張感と、最近の作品に見られる展開力を融合させたスタイルが採用されています。この映画は、観客がスクリーンを超えても不安感が残るような、持続的なホラー体験を意図して制作されています。

あらすじ|失踪した編集者のやり残した仕事とは?

映画は「行方不明の友人を探しています」という導入で始まります。物語の中心となるのは、オカルト雑誌の編集者の失踪です。彼が消息を絶つ直前まで、幼女失踪事件や中学生の集団ヒステリーなど、過去の未解決事件や怪現象を調べていたことが明らかになります。この失踪した編集者は、物語の多くで姿を見せないものの、主人公たちの調査の基盤を築く原動力として機能しています。

行方不明となった編集者の同僚である雑誌編集者の小沢悠生(赤楚衛二)と、オカルトライターの瀬野千紘(菅野美穂)は、彼の行方を追う調査に乗り出します。彼らの調査は、真偽が定かではない噂や都市伝説、怪談話へと導かれます。これらの断片的な情報を繋ぎ合わせていくと、全てが「近畿地方のある場所」という一つの場所に繋がっていることが判明します。

テーマ|現代ホラーにおける「考察系」と民俗学の融合

この映画は、日本の伝統的な民俗学と現代のデジタルメディア(SNS、オンライン動画など)を組み合わせていることが特徴です。Jホラーの特徴の一つに「呪い」がありますが、インターネットの急速な情報拡散は、これらの恐怖の新たな媒体となります。その結果として「デジタル民俗学」という現代的な恐怖のアプローチが可能となりました。

さらに、この映画は観客自身の分析を促すように設計されている「考察系」の作品です。意図的に特定の詳細を説明せず、観客自身が謎を解き明かすことを求めています。この手法は、受動的な鑑賞を能動的な参加へと変え、映画の寿命を延ばし、その謎を中心にコミュニティを育成する効果があると考えられます。

キャラクター造形|怖いのは人なのか呪いなのか

主人公の二人、オカルトライターの瀬野千紘(菅野美穂)と、雑誌編集者の小沢悠生(赤楚衛二)のキャスティングは、ホラーというジャンルにリアリティと親近感をもたらすための選択でした。菅野さんの明るさと親しみやすさは、ホラーをより身近なものにするために選ばれ、赤楚さんの親しみやすさも同様に、ホラーと親近感のバランスを取る目的でキャスティングされています。

従来のファウンドフッテージでは、リアリズムを高めるために無名の俳優を起用することが一般的でした。しかし本作では、菅野さんと赤楚さんの確立された俳優を起用することで、ファウンドフッテージと劇映画の融合を図っています。そういう意味ではモキュメンタリーとも一線を画す作風となっています。

映画技法|ファウンドフッテージとモキュメンタリーの融合

白石晃士監督は、『オカルト』や『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』といった代表作を持つ、「発見された映像」の専門家として知られています。本作はファウンドフッテージと劇作品を融合することで、安全な楽しみを提供しつつも恐怖を届けることを意図しています。白石監督は、現実との連続性を目指しており、映画が終わっても恐怖が終わらないような感覚を追求しています。

この映画は、古いメディアの質感(ビデオテープの粗い粒子感や古いテロップのフォントなど)を細心の注意を払って再現することで、挿入されるドキュメンタリー素材のリアリズムを高めています。さらに、プロではない素人が撮影したかのように見える映像を意図的に組み込むことで、生々しく、加工されていない現実感を生み出しています。こうした視覚的リアリズムの追求が、観客に「これは本当にあったことなのかもしれない」と思わせる説得力をもたらしています。

また、ソーシャルメディアやインターネット掲示板の使用は、現代のインターネット文化に内在する不気味さを描写するために用いられています。白石監督は、スマートフォンやSNSを現代ホラーのリアリズムを築くための土台と位置づけています。この映画は、Jホラー独特の「呪い」を演出するために、様々なアイテムを要するだけでなく、擬人化することで目に見える形で呪いの恐怖を演出します。

まとめ|鑑賞後も心に残り続ける「考察系」ホラー

映画『近畿地方のある場所について』は、白石晃士監督のファウンドフッテージ技術と、伝統的な民俗学と現代のデジタルメディアの融合を図った作品です。著名な俳優の戦略的なキャスティングが、映画のリアリズムに貢献し、観客に「これは本当にあったことなのかもしれない」という感覚を与えることを意図しています。本作は、スクリーンを超えて観客に残る不穏さを生み出すことを目指しています。

この作品の特徴の一つは、制作現場で起きたとされる怪異の逸話にもあります。心霊スポットでの撮影中に子供が「緑の人が見える」と主張したり、撮影された映像素材が説明不能な形で黒く塗りつぶされたりしたという話は、映画のフィクションと制作の現実の境界を曖昧にする要素として機能しています。この「考察系」としての特徴は、映画に持続的な影響力と再視聴性をもたらしていると考えられます。