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書籍|炎上する若者と批判する大人、早咲きの棋士と遅咲きのハリポタ|"Late Bloomers" by Rich Karlgaard

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2019年に9歳で最年少棋士となった仲邑菫さんなど若くして才能を開花する人たちがいます。一方で、インスタグラムやツイッターでのバイトテロなど浅はかな行為で炎上してしまう人たちもいます。最近だとレペゼン地球ジャスミンゆまのパワハラやらせによる炎上商法なんかそうですね。

「レペゼン地球」ドーム公演中止へ パワハラやらせ余波か、ネットは「完全に自業自得」「悲しすぎる」 : J-CASTニュース

才能と人間的な成熟のギャップ。この差はなんなのでしょうか?天才はずっと天才で、浅はかな人たちはずっと浅はかなのか。今回紹介する書籍"Late Bloomers"を書いたリック・カールガードはそうではないと言います。

Late Bloomers: The Power of Patience in a World Obsessed with Early Achievement

Late Bloomers: The Power of Patience in a World Obsessed with Early Achievement

遅れてきた天才たち

以前に紹介したデビッド・エプスタインの"Range"でも言われていることですが、遅れてきた天才たちはたくさんいます。不幸な結婚生活の後、生活保護の貧困生活から、ようやく30歳で才能が認められた『ハリー・ポッター』シリーズのJ・K・ローリング。43歳でシーベル・システムズを起業したトム・シーベル(その後、57歳でIoTに特化したAI企業のC3を起業して現在に至ります)。52歳でガーミンを創業したゲリー・バレル、61歳でIBMを創業したチャールズ・フリントに、65歳でワークデイを創業したデイブ・ダフィールド(46歳のときにPeopleSoftを創業)。

リック・カールガードによれば、早咲きの天才もいれば、遅咲きの天才もいます。人生の中で何回も花を開かせる人もいます。今でこそベストセラーを出し、フォーブスの出版人も勤めたことがあるリック・カールガードですが、本人も25歳から出版業界で芽がではじめた遅咲きです。

脳のピーク年齢と才能が花開く仕組み

子供は大人になる前に14歳くらいまでに思春期を迎え、徐々に心も体も成長していきます。日本では20歳に成人になります。成人とは心身ともに十分に成熟し、親などの扶養者なしで法律行為が行える年齢です。海外も多少前後はありますが、20歳までに成人とされます。

しかし、脳は20歳を超えても成長していきます。脳は後ろから前に発達していきます。最初に発達するのが感情に関係する大脳辺縁系で脳の奥側にあります。知性に大きく関係する前頭前皮質は一番前方にあって、25歳から30歳まで成長します。前頭前皮質が十分発達していないと、感情が先走り、合理的な判断ができないことが多くあります。多くの18から25歳(ヤングアダルト層)はこのような状態にあるそうです。

では、人間の脳のピークはいつなのか?脳の部位の成長カーブはそれぞれ違うので、いつがピークだと言えないそうです。情報の処理能力は18から19歳、ショートタイムメモリーは25歳まで成長して10年徐々に減少。人の感情など複雑なパターンを理解するのは40から50歳で結晶性知能は60から70歳でピークを迎えます。これが、人は人生で何回も才能を花開かせる可能性がある理由です。若くして才能を開花させることもあるし、遅れて才能が発見されることもある。

教育とキャリア形成が成長にあってない

日本は小学校や中学生から受験で子供の教育がとても厳しいと言われています。これはアメリカでも同様で、スタンフォードなど有名大学に入るためにはプレップスクールという進学校に行く必要がありますし(もちろん、そうじゃない人もいます)、私学なのでとてもお金がかかります。いわゆる受験勉強はありませんが、SATという大学進学適性試験で高得点が求められます。シンガポールも教育熱心な国でPSLEという小学校卒業試験で大学までの進路がある程度決まってしまいます。知性に大きく関係する前頭前皮質が十分に発達していないのに、成人する前にキャリアに深く関係する教育の振り分けがされてしまいます。

日本の受験、アメリカのSATやシンガポールのPSLEは標準的な試験のおかげで、昔のような世襲制度ではなく、能力次第で高等教育が受けれるようになりました。古くは中国の科挙の制度ですよね。ただ、あまりにも高等教育の競争が激しくなり、若いうちに教育に投資ができる家庭が有利になってしまいました。これも科挙と同じですね。そして、子供は小さな頃から脳が十分発達しきっていないのに教育と試験のプレッシャーを受けることになります。

アメリカでは若い人たちの自殺が増えていて、10歳から34歳の死因の二番目が自殺です。大恐慌や戦争の頃より現在の方が自殺で死ぬ割合が多い。一概に教育のプレッシャーに原因があるとは言えませんが、教育の激化と自殺の増加は他の要因より関連性が高そうです。

イノベーションは頭の柔らかい若い人たちほど起こしやすいと一般的には考えられていますが、これも一概には言えません。50歳以降に起業して成功した人たちはたくさんいます。マーク・ザッカーバーグやビル・ゲイツ、ラリー・ペイジのように目立っていないだけです。スティーブ・ジョブズもアップルを起業したのは21歳ですが、一度追放されて戻ってきてiPodやiPhoneを作ったのは40代です。人は何回も才能の花を咲かせます。

しかし、一般的なバイアスは「若い人ほど頭が柔らかくて柔軟性がある」なので、年齢だけで仕事の能力を判断されてしまうことが多くなります。リック・カールガードは遅咲きの大人の強みとして以下をあげています。逆に言えば、以下がない大人は要注意ってことですね。

  • 好奇心
  • 思いやり
  • レジリエンス(立ち直る力)
  • エクイニミティ(落ち着き)
  • インサイト

この本はどんな人にオススメか

まず、炎上する若者を許せない人にはオススメです。二十歳も過ぎて前後の見境もつかないのか?と嘆くこともあるかもしれません。でも、きっとボクらもそうでしたよ。悪いことは悪いと言ってあげればよろしいかと。反省するまで許さん!と感情的になる気持ちもわかりますが、それ以上に責めてもしかたありません。人間が成熟するには時間がかかるのです。「過ぎたるは及ばざるが如し」なので、必要以上に責めるとミイラ取りがミイラになってしまいますよ。

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まだまだ「自分探し」をしている人にはオススメです。「自分探し」ってネガティブな意味で捉えられることも多いかもしれません。しかし、自分のやりたいことや得意なことが見つかってないのは仕方のないことです。バカにされても、探し続けましょう。

「大人はイノベーションを起こせない」も、もったいない考え方です。50歳を超えてもイノベーションは起こせます。年齢など気にせずに、どんどん挑戦したほうがいいです。だから「老害」を気にしている人にもオススメです。老害のイメージって旧来の考えに囚われて、それを若い世代に押し付ける人たちですよね。好奇心を失ったら、本当にそうなってしまいますよ。