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映画『ローラ』レビュー|ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督が描く西ドイツ復興と愛の葛藤

1981年公開の『ローラ』は、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督によるメロドラマ映画で、「西ドイツ三部作」の第二作目に位置付けられる作品です。戦後復興期の西ドイツを舞台に、愛と利権、妥協を巡る物語が展開されます。

あらすじ|愛と利権が交錯する1950年代の西ドイツ

物語の舞台は、戦後復興が進む1950年代のバイエルン州の小さな町です。建設ラッシュに沸くこの街では、建設会社の社長シュッカートが利権の中心におり、市長とも繋がる強い影響力を持っています。

一方、新たに建設局長として着任したフォン・ボームは、理想を掲げる真面目な人物。街の利権を牛耳るシュッカートたちは、彼の動向を注視します。

主人公ローラは、シュッカート専属の娼婦でありながら、偶然の出会いをきっかけにフォン・ボームと恋に落ちます。しかし、この関係は単なるロマンスにとどまらず、復興期の社会的テーマを浮き彫りにしていきます。

テーマ|「成長と理想の狭間の妥協」を描く社会的視点

表面上は華やかなメロドラマとして進行する本作ですが、その内側には「成長と理想の狭間での妥協」という社会的テーマが描かれています。

フォン・ボームは正義感が強く理想主義的な人物。一方でシュッカートは俗人的で資本主義を象徴するような性格です。興味深いのは、シュッカートが単純な悪役として描かれていない点です。戦後の成長期において、彼のような人物もまた復興を推進するために必要な存在として位置付けられています。

その間にいるローラは、自身の境遇を受け入れながらも、二人の男性との関係の中で象徴的な役割を果たします。彼女の存在を通して、復興期の矛盾や人間関係の複雑さが巧みに描かれています。

キャラクター造形|個性が際立つ主要人物たち

主要キャラクターはそれぞれの立場や価値観が明確に描かれ、物語を深めています。

  • ローラ: 娼婦でありながらも強い存在感を放つ主人公。二人の男性の間で揺れる彼女は、物語の感情的な核となっています。
  • フォン・ボーム: 理想主義者で正義感が強い新任建設局長。社会的な成長と自身の理想の狭間で葛藤する姿が印象的です。
  • シュッカート: 資本主義的な実業家で、街の利権を掌握する中心人物。単なる悪役ではなく、社会の一部としての必要性を感じさせます。

さらに、建設局の職員エスリンをはじめとする脇役たちも、それぞれに個性が際立ち、物語の厚みを増しています。

映画技法と演出|メロドラマのスタイルを取り入れた演出

本作では、ファスビンダー監督特有の「動く構図」や場面転換の演出が、物語に躍動感を与えています。さらに、華やかでキラキラとした映像がメロドラマとしての雰囲気を強調し、表面的には昼ドラマのような魅力を醸し出しています。

一方で、性的マイノリティや強烈な前衛性といった、ファスビンダーの他作品に見られる特徴は薄れており、観る人によっては評価が分かれる部分かもしれません。

まとめ|評価が分かれるファスビンダー作品

『ローラ』は、戦後復興期の西ドイツを背景に、愛と利権、妥協を描いたメロドラマです。華やかな演出と社会的テーマの融合により、単なるロマンス映画を超えた深みが感じられる作品となっています。

ただし、ファスビンダー監督に独特の前衛的な要素を期待するファンにとっては、物足りなさを感じるかもしれません。一方で、メロドラマや社会派映画として楽しむ分には十分に見応えがあります。戦後復興期の西ドイツを描いた作品に興味がある方には、一見の価値がある映画です。

ローラ

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