藤本タツキの同名短編漫画の映画化。押山清高監督の『ルックバック』の映画評です。原作マンガがすごく好きなんですが、好きだからこそ映画化は不安もあった。そしてその不安は杞憂だった。ちゃんと藤本タツキしてるし、ちゃんとルックバックしてる。むしろ、原作では気が付かなかった部分に映像化することで気が付くこともできた。
とても原作に忠実に作られている。ただそれだけではない。もともとの題材がすっごく良いのだけれど、その題材の良さが最大限に活かされている。いい食材をいい料理人がシンプルに仕上げた逸品といった感じ。
主人公は小学校の学級新聞で漫画を描いている藤野と不登校児の京本。ある日先生に京本にマンガの枠をひとつ譲ってほしいと頼まれる。絵に自信があった藤野だが、掲載された京本の漫画の画力の高さに愕然とする。二人は友達となり藤野キョウというペンネームで漫画家デビューを目指すのだが……という話です。
主人公の藤野と京本がそのまま動き出した。全く違和感がない。アニメなのに藤本タツキのタッチがあり、それがちゃんと動いている。当たり前のようだけど、これは至難の業ですよ。原作者本人が監督した『THE FIRST SLAM DUNK』に通じるものがある。あれは原作者本人が監督したから、あのレベルまで行けた。本作はそうじゃないですからね。ほんとすごいですよ。
あまり凝った描写がないのもいい。いや、実はすごく凝ってるのかもしれないけど、それを観客に見せない。とてもラフな漫画的なテクスチャーを残している。
テーマですが二つの世界戦を描いているという意味ではクエンティン・タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年)にすごく近いものを感じました。原作では気が付かなかった部分です。こうやって映像化されると、作者の意図が伝わりやすくなるってこともあるんだなと。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』はタランティーノ監督作品の中で最もやさしい作品だと思います。本作の場合は両方の世界線を描いているため、その比較がやさしくもあり、つらくもある。