日本には『失敗の本質』という素晴らしい失敗学の書籍があるにも関わらず、同じ過ちを繰り返してしまう性質があります。「うん、そうなんだよ。そうそう、それが悪いんだ」と病気の症状がわかっていても、具体的な解決方法というか、処方箋がないからなんでしょうね。だって、できることって「おかしいと思ったら、空気を読まずに、ちゃんとおかしいと言いましょう」ですから。そんなの、あまりにも当たり前じゃないですか。
Meltdown: Why Our Systems Fail and What We Can Do About It
- 作者: Chris Clearfield
,Andras Tilcsik - 出版社/メーカー: Atlantic Books
- 発売日: 2019/02/07
- メディア: ペーパーバック
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- 作者: 戸部良一,寺本義也,鎌田伸一,杉之尾孝生,村井友秀,野中郁次郎
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 1991/08/01
- メディア: 文庫
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じゃあ、海外はどうなんすかね?ということで社会学から見た失敗学である「ノーマル・アクシデント理論」から解説を試みているのが、今回紹介する"Meltdown"です。すでに翻訳が出ていると知らず、原書で読んでしまったなり。それにしても、最近の翻訳本の日本語タイトルってSEO対策っぽくて味気ないです。「失敗の本質」というキーワード入れたり、コンバージョンに効くベタな「…たった一つの方法」入れたり。
巨大システム 失敗の本質: 「組織の壊滅的失敗」を防ぐたった一つの方法
- 作者: クリス・クリアフィールド,アンドラーシュ・ティルシック,櫻井祐子
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2018/11/30
- メディア: 単行本
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この本は前編と後編に分かれています。前編は「ノーマル・アクシデント理論」の解説と、現代のケーススタディです。「ノーマル・アクシデント理論」を簡単に説明すると、事故の起きやすさに関するシステムの評価方法です。単純<>複雑を縦軸にして、ユルい結びつき<>キツい結びつきを横軸にして事故の起きやすさを判断します。単純で結びつきがユルければ、事故は起きにくく、複雑で結びつきがキツければ事故は起きやすくなります。コンピューター的に言えば密結合と疎結合。社会学者のチャールズ・ペローがスリーマイル島原発事故の発生原因を調査した結果から生まれました。
スリーマイル島原発事故は1979年に起きました。当時は「複雑」かつ「結びつきがキツイ」事故の可能性が高い危険領域にある分野は原子力発電所くらいしかありませんでした。しかし、インターネットの登場で様々なものが密接に結びつくようになり、危険領域に含まれる分野が急速に増えてきました。本書で挙げられている例だけでもPR史上においての大惨事の一つに数えられるスターバックスの#SpreadTheCheerキャンペーン、イギリス郵便局のアカウントシステムであるHorizonのバグ被害、エンロン事件、ターゲットのカナダ進出の失敗、ミシガン州フリント市の水道水汚染など多岐にわたり事例として取り上げられています。
後編は待ちに待った防止方法になります。簡単に言えば「ノーマル・アクシデント理論」のフレームワークを使って、複雑さを減らして、結合をなるべく解いていきましょうということになります。いくつか具体的も提示されています。例えばSPIES(Subjective Probability Interval EStimates)を利用しての障害予測です。起こり得る数値をいくつかのインターバルに分けて、予測値を入れていきます。また、事前に基準を決めてリスク評価をするプレデターミンド・クライテリアという方法も紹介されています。この辺はガッツリやる感じでコンサルタントが好みそうな手法ですね。
ボクが個人的に自分でもやってみようと思ったのがプレモーテムです。ポストモーテムは失敗した理由をブレインストーミングして整理整頓する方法ですが、プレモーテムはこれから起こるであろう失敗の理由をブレインストーミングして整理整頓します。これならチームで気軽にできますよね。ポストモーテムは振り返りにとてもいい手法でボク自身よく使うので、プレモーテムも使ってみたいと思いました。
この本はどんな人にオススメか
コンサルタントにはまずオススメなんでしょうね。くどいくらいに事例が豊富ですし、紹介されているフレームワークも時間をたっぷりかけてリスク評価をする方法です。事業をしている人がやるには専門的すぎるかなあ。専門家向けだと思います。
ただ、最終的には『失敗の本質』でも指摘されているように、内部から「おかしい」と感じたことは「おかしい」とはっきりと言える組織や文化にすることが大切なんですよね。こればっかりはコンサルタントではできないことで、事業をやっている本人たちがそういう組織や文化を作らなければいけない。