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いまさら聞けない世界をリードする中国eコマース事情:ライブコマース編(その3)

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eコマースはスケールのビジネスなので寡占化しやすい業種ですが、生鮮、家電など独立しやすい分野もあります。アリババとJDが並存しているのもこの理由ですし、アマゾンがホールフーズを買収したのも同様です。個性が重要なファッションも独立して成立しやすい分野で小規模なプレーヤーがたくさん並存します。ちなみに最近だとThe Yeteeで『ガメラ対大悪獣ギロン』Tシャツ(あと、Mother 2のサウンドトラックLP2枚組)、Legion Mで映画『マンディ 地獄のロード・ウォリアー 』のオフィシャルTシャツを買いました、個人的な話ですが。日本だとハードコアチョコレートでよく買います。

このように、ファッションは群雄割拠しやすいeコマースの分野ですが、それでも「普段着はどこかでまとめて」というニーズがあります。それを吸収しているのが日本ではユニクロだし、ZOZOですよね。そんなボクもワードローブのほぼ7割はユニクロかZOZOで買った服です。中国で女性ファッションにおいて同様に役割を果たしているのがモグジェ(蘑菇街)なんだと思います。しかし、そのやり方はユニクロやZOZOとは違うし、アリババとも違います。

デザイナー創業者

そのモグジェを2010年に創業したのがチェン・チー(陈琪)です。チェン・チーは2004年にジェージアン大学(浙江大学)卒業後、アリババのC2Cコマースであるタオバオ(淘宝网)でUX/UIデザイナーとして働き、プロダクトマネージャーを務めます。

アリババは顧客体験を重視していて、デザインセンター(阿里巴巴国际UED)を設立しました。アリペイ(支付宝)などの個別のUED (User Experience Design)のほか、以下のようなライバルのUXとも連携していました。過去形なのが残念なところですが、みんなでベーシックな部分は作って(完了)、後は個別で頑張ろう(現在)ということなんでしょうね。デザイナー的なユートピア思想は中国でも終わっちゃったのかなあ。

テンセント:CDCISUX

バイドゥー:MUX

JD:JDC

チェン・チーはタオバオのデザインセンター(淘宝UED:こちらも最近は活動停滞気味ですが、フロントエンド開発センターである淘宝FEDは元気です)の立ち上げメンバーの一人でした。そんなチェン・チーもやはり1980年代以降に生まれた「バーリンホウ(80后)」の世代です。実を言えば、2000年前に誕生した中国のeコマースはほぼアリババとJDに駆逐されていて、今再び現れているのは新世代による新世代のためのeコマースプラットフォームだったりします。

最初の失敗

チェン・チーと大学時代の友人で共同創業者のウェイ・イーボ(魏一搏)はお互いの家を売り、創業資金を作りました。二人で集めた資金は150万人民元(日本円で2350万円くらい)になりました。家族は家に売るのはまだしも、タオバオのストックオプションが1000万人民元以上(日本円で1億6000万円くらい)が行使されていなかったので、それを全て捨てることにすこし反対されたそうです。とはいえ、創業メンバーはタオバオから引き抜いた優秀チームだったので、それなりに自信があったのでしょう。

まず、最初に作ったのはモグジェではなく、ジュアンドウワン(卷豆网)というeコマースと19楼Hers爱物网化龙巷といったコミュニティーを繋げて、コンバージョンを最適化するツールでした。しかし、これは失敗してしまいます。実際にコミュニティーからeコマースで買い物に来るコンバージョンがあまりにも低いので、想定していたよりも市場規模が小さいことがわかりました。

中国のeコマースのコンバージョン率(訪問者が実際に買い物をする率)は0.01%以下なのだそうです。JDやタオバオでも3%前後。だったら、自分たちでeコマースを実践して、どうやったらうまくコンバージョンするのかを証明しようとしてはじめたのがモグジェでした。会社を辞める(2010年2月)、家を売って資金を集める、創業(2010年4月)、コンバージョンツールで最初の失敗、eコマースプラットフォームにピボット(2010年10月)というスピード感。わずか8ヶ月の出来事です。ちなみに、若干似てるなーと思えるZOZOのWEARは2013年5月スタートなので、モグジェの2年半後です。

アリババの影とモグジェの逆襲

チェン・チーが注目したのはデザイナー出身らしくユーザー行動です。ユーザーはファッションやショッピングについてオンラインで交流したい、共有したい。ピンタレストに近いですかね。タオバオ、ダンダン(当当)、JD、ファンク(凡客)のようなeコマースサイトで見つけてきたグッズを共有する。それぞれのユーザーがキュレーターになって、モグジェに投稿するという仕組みです。先に説明したように、ファッションのeコマースは寡占化しにくく、群雄割拠になりがちです。モグジェはこの群雄割拠の状態をうまく生かしてコミュニティーを作り上げました。その結果、モグジェでのコンバージョンは6%から8%と非常に高い数字です。

モグジェの特徴は購買単価が高いことと、モバイルユーザーが多いことです。MobileQuestの調査によると、中国のミレニアル世代であるリンリンホウ(00后)とジウリンホウ(90后)が重要なのがわかります。モグジェの24歳以下のeコマースにおける浸透率は8.1%です。C2CコマースのタオバオとB2CコマースのTMallの両方を持つアリババの浸透率は98%です。モグジェは仲介モデルでタオバオにもトラフィックを送っているので、一概に比較できませんが、それでも浸透率の差は歴然です。タオバオ出身のチェン・チーもそこは熟知しているところです。

当然ながらアリババはモグジェを取り込もうとしますが、モグジェはその申し出を断ります。アリババは全て自分でコントロールしたいのですが、モグジェはフェデレーションモデルですからね。世界観が全く合いません。その結果、モグジェからタオバオのトラフィックは遮断されました。仁義なき戦いですね。このようなトラフィックの遮断はメイリー(美丽)なども同様でした。モグジェはメイリーとタオシュージエ(淘世界)と経営統合して、新たにメイリーグループ(美丽联合集团)を設立して、モグジェのチェン・チーがグループCEOに就任しました。

そして、このような状況に救いの手を差し伸べたのがアリババのライバルであり、メイリーへも投資していたテンセントです。テンセント自身は主要なeコマースはありませんが、アリババ帝国への楔となっているJDとピンドゥオドゥオ(拼多多)の株主です。これに加えて、WeChat(微信)がありますので、モグジェのミニプログラムへの展開が期待できます。昨年の実績で見ると、モグジェの売上の31.1%がWeChat経由になっています。

モグジェは2018年にナスダックに上場しました。eコマースの巨人アリババはタオバオのライブストリーミングで攻勢をかけています。モグジェは同じライブコマースでも多様なエコシステムを取り込んで巨人アリババに挑みます。

参考文献

陈琪(蘑菇街创始人)_百度百科

蘑菇街创始人陈琪:玩票性质的网站居然做大了 - 初创公司 - 创业邦

QuestMobile泛娱乐用户行为新趋势 | QuestMobile-还原市场真相 助力企业增长

Meet the man who wants to upend China’s fashion industry with an app called Mogujie | South China Morning Post

Mogu’s long journey: From rejecting Alibaba’s advances to US IPO – TechCrunch