インスタグラムがフェイスブックに買収されるまでの成功物語って有名ですよね。ボクも以前にまとめたことありますし。もちろん、成功には後日談がつきものです。インスタグラムの創業者二人はフェイスブック買収後もしばらく残りましたが、二人揃って2018年にインスタグラムを「卒業」してしまいました。買収から創業者の離脱。この間になにがあったのでしょうか?それが今回紹介するサラ・フライヤーの新著"No Filter"のテーマです。
No Filter: The Inside Story of Instagram
- 作者:Frier, Sarah
- 発売日: 2020/04/14
- メディア: ペーパーバック
本書の前半はケヴィン・シストロムとマイク・クリーガーの創業者二人の成功物語です。マイク・クリーガーはブラジル人で、インスタグラム創業の時にビジネスビザを取るのが大変だったんですね。それ以外は特に新しい話はありませんでした。
この本の目玉はフェイスブック買収から創業者の退社に至るストーリーです。Odeoでのインターンシップから個人的な友情をジャック・ドーシーと育んできたケヴィン・シストロムです。ジャック・ドーシーも数少ないエンジェル投資家としてインスタグラムを個人的に助けてきましたし、超有名なベンチャー・キャピタルのセコイア・キャピタルを紹介して500万ドルの投資ラウンドを助けました。ツイッターはずっとインスタグラムと買収の話をしてきた。ところがですよ、セコイアの投資ランドが完了した二日後にフェイスブックが1000万ドルでインスタグラムの買収を発表。ケヴィン・シストロムとマーク・ザッカーバーグは裏で話をしていたんですね。こりゃ、ジャック・ドーシーが怒るのも当然ですよ。セコイア・キャピタルも二日で投資を2倍にするという成功と言っていいのか、失敗と言っていいのかよくわからない経験をしてしまいます。
この本ではマーク・ザッカーバーグのクソ野郎ぶりがかなり堪能できるのですが、ケヴィン・シストロムも(少なくともこの時は)かなりのクソ野郎ですね。このフェイスブックの買収で金持ちになったのはなんと創業者の二人だけ。それ以外の社員はおこぼれにほぼあり付けなかったそうです。いやいや、それはヒドイでしょ。インスタグラムみたいなスタートアップに参加するインセンティブってエグジットした時の分前なんだから。さらに後味が悪いのが、ワッツアップの買収とインスタグラムの買収が社員にとって全く違う結果だったことです。インスタグラム買収の2年後の2014年のワッツアップの買収金額は1億9000万ドルでした。なんとインスタグラムの19倍。社員にもその分前は行き渡り、創業者はフェイスブックの取締役として迎えられました。
それでも、ケヴィン・シストロムとマイク・クリーガーは「ある程度」の自由を認められていたため、そこそこ満足はしていたようです。例えば、フェイスブックはアルゴリズムで最適化しますが、インスタグラムは人によるキュレーション(ポピュラーページや公式アカウント)でインスタグラムらしさを保っていました。
しかし、その自由も徐々にマーク・ザッカーバーグに侵食されます。マーク・ザッカーバーグにとって重要なのは母艦のフェイスブックであり、インスタグラムもワッツアップもその周辺アプリでしかない。むしろ、インスタグラムはフェイスブックとカニバリゼーションを起こして「競合」のようにマーク・ザッカーバーグに目をつけられてしまいます。IGTVのロゴがフェイスブック・メッセンジャーのロゴに似ていると上司のクリス・コックス経由でマーク・ザッカーバーグに文句を言われるってヒドくないです?インスタグラムはすごい勢いで成長しているので、リソースも増強しないといけない。しかし、マーク・ザッカーバーグはリソースをインスタグラムに割り当てるのを渋ります。同じ時期にVRのオキュラスが600名の採用枠をもらったのに、インスタグラムがもらえた採用枠は90名。2019年にはフェイスブックの売上の30%をインスタグラムが担うとされていたのにも関わらずです。
ここまでイジメられると、流石に創業者二人も気がつきます。あ、出て行けってことなんだって。
それにしても、ここで描かれるマーク・ザッカーバーグはやっぱりクソ野郎なんですよ。VPNのOnavo買収とか競合分析のためですものね。スナップチャットの人気が出てきているのが、メディアが騒ぐよりずっと前にフェイスブックはVPNのトラフィック分析でわかっていた。VPNって政府の監視から逃れるために使う人が多いと思うのですが、監視される相手がフェイスブックになっただけというオチ。
インスタグラムの成功後日談はなかなか苦い味わいですね。