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書評|合法と非合法、正義と悪の境界線が曖昧な海の世界|"The Outlaw Ocean" by Ian Urbina

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飛行機から見える景色はほとんど空か海ですよね。海って広い。海は地球の表面の70%以上だから当然ですよね。地上だってわからないことだらけなのに、海はもっとわからないことだらけ。そんな海の魅力に魅せられて、世に伝えたいとニューヨーク・タイムズで調査報道に従事しているのが今回紹介する"The Outlaw Ocean"を書いたイアン・ウルビナです。

The Outlaw Ocean: Crime and Survival in the Last Untamed Frontier

The Outlaw Ocean: Crime and Survival in the Last Untamed Frontier

まず、この本を読んで思い出したのが鈴木智彦著『サカナとヤクザ』です。海は法律の境界線が曖昧で、あまりにも大きいから闇が住みやすいんですね。『サカナとヤクザ』は日本における漁業とヤクザの関係に深く切り込んでいますが、"The Outlaw Ocean"は世界の海の様々な闇をあぶり出しています。

サカナとヤクザ: 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う

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"The Outlaw Ocean"で扱っているのは犯罪だけではありません。むしろ合法と非合法の境目が非常に曖昧なのが海の世界です。一番最初に出てくるのがシーシェパードが密漁船の「サンダー」を追跡するルポタージュ。インターポールは6隻の密漁船を国際指名手配しています。インターポールはこれらすべてを追い詰めて行きます。シーシェパードがいなければそれら密漁船は捕まることはなかったでしょうが、シーシェパードに法的な権限があるかといえば、ない。このほかにもシーランド公国は独立国と言えるのか?どこの国からも独立国とは認められていませんが、それでも50年存在し続けているという歴史があります。

中絶が非合法な国はたくさんあるのですが、そんな国に住む女性に中絶の機会を与えるのが Woman on Wavesです。女性を船に乗船させ、その国の法律の及ばない国際水域で薬や手術で中絶をします。

その他にも"The Outlaw Ocean"では密漁、密航、人身売買、船の盗難などなど、法律が及ばない海の世界の厳しい世界を描いています。イアン・ウルビナはそうした船に実際に乗ってしまう。また、法律が曖昧なゆえに、規制が緩く、有限の海の資源がどんどんと無駄に採取されている事実に怖くなります。鈴木智彦さんもすごいですが、世界を相手にするイアン・ウルビナも相当なものです。やっぱり英語と日本語の違いなんだよなあ。

この本はどんな人にオススメか

骨太なノンフィクションが好きな人にはオススメです。あと、環境問題とか、人権問題とか社会問題に興味がある人にもオススメです。

日本でも「借金を背負った人がマグロ漁船に乗せられて」みたいな話が実しやかに語られて、『闇金ウシジマくん』でもそんな描写が出てきます。漫画で出てくるのは船に乗るまでの話。そのあと、実際に船に乗ったらどうなるかが"The Outlaw Ocean"では描かれています。そういうのに興味がある人にもオススメなんでしょうね。

闇金ウシジマくん(1) (ビッグコミックス)

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まあ、実際はヤミ金が借金返済のために債務者をマグロ漁船に乗せるなんてことはないっぽいですけどね。大変なのは確かなようです。

まぐろ土佐船(1) (ビッグコミックス)

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