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興味がない人は無理して読まなくていいんだぜ。

書評|もうくるくる詐欺とは言わせない!今度こそブロックチェーンがくる(はず)|"Read Write Own: Building the Next Era of the Internet" by Chris Dixon

今回はもうすぐ日本でも出版されるクリス・ディクソンの新著『Read Write Own』です。日本語で出ていない書籍を紹介する本ブログにおいて、もうすぐ翻訳が出てしまう書籍(2024年11月29日発売)を紹介するのはいかがなものかとは思いつつ、このブログを書いている時点ではまだ発売されていないのだからまあいいかと。

ブロックチェーンは「来るぞ来るぞ」といわれて久しく、Web3なんていう新しい名前も付けて頑張っていたのに、AIブームが来て忘れられちゃった感が強かったですよね。ただ、それは一般にはまだ浸透していないというだけで、コアな人たちはブームとは関係なくブロックチェーンの発展に継続的に寄与し続けてきました。本書の著者であるクリス・ディクソンはその伝道師的な役割な人で、VCのa16zのでジェネラル・パートナーでありつつ、その暗号化通貨部門であるa16zcryptのトップをも務めている。

そんなクリス・ディクソンから言わせれば「情弱のおまえらが知らないだけで、ブロックチェーンはマジに来てるから!」ってことなんだと思います。勉強不足ですみません。実際にボクはブロックチェーン界隈はあまり詳しくなくて、本書はとても勉強になりました。なるほど、たしかにブロックチェーンは(いつか)来るかもしれないですね。

本書でクリス・ディクソンはインターネットを三つの時代に分けています。ひとつは1990年から2005年までのREAD時代の時代。初期のインターネットプロトコルで情報が民主化されたプロトコルネットワーク時代。続くのが2006年から2020年までのREAD/WRITEの時代。コーポレートネットワーク(Facebookなど)で出版が民主化され、だれでも多くの人に向けて書くことができるようになった。そして2021年から新しいブロックチェーンネットワークによるREAD/WRITE/OWN時代にはいり、暗号化通貨、Web3やブロックチェーンによって所有が民主化されるとしています。

READ時代はプロトコルネットワークでDNSと Internet register を除いてインターネットは基本的に無料だった。例外はICANNの徴収だけど、それも年間10ドルくらい。無料でかつ所有できた。このブログのドメインcatapultsuplex.comは所有できる。ドメインが所有できるDNSの上に成り立つネットワークでビジネスは活性化した。

READ/WRITE時代はコーポレートネットワークの時代で、多くは無料で使えるプラットフォームの上で大勢に向けて書くことができるようになった。コーポレートネットワークはインターネットを専門家でなくとも誰でも使えるようにし、READ/WEITEに進化させた。でも、所有はできなくなった。ニュースレターをやっているcatapultsuplex.substack.comは利用できるが所有はできない。無料で利用できるが、行動は監視されるし、管理もされる。READ時代のWebとEmailはどのようなコンテントでも届けることだけが仕事。プロトコルは監視しない。

そしていまはすでにブロックチェーンネットワークのREAD/WRITE/OWNの時代に入っているというのが本書の主張。コーポレートネットワークのおかげで、いろんな人がインターネットを使えるようになったが、所有もできず、取り分も多くない。つまり、テイクレートが高い。たとえば、YouTubeの場合は45%が事業者の取り分(テイクレート)で、55%をクリエイターに渡す。これは大盤振るまいなほうで、ほかのコーポレートネットワークはもっと渋い。Appleのテイクレートは30%で、AppStoreに登録している開発者の取り分は70%になる。Facebookなど多くのコーポレートネットワークが99%の広告収入を取り、1%未満しかクリエイターにシェアしない。

物理的なグッズの販売のテイクレート(Amazon, EbayやEtsyなど)は6-13%。物販はネットワーク効果が限定的。プラットフォームよりも自然検索の流入が大きい。物理的なオーナーシップも販売側が持っている。これがデジタルになると逆転してしまう。これを変えるのがREAD/WRITE/OWNの時代。ブロックチェーンネットワークのテイクレートは非常に低く抑えられている。通常は1-2%しかない。NFTのマーケットプレイスであるOpenSeaが2.5%、DEX(分散型取引所)であるUniswapが0.3%。暗号化通貨のEthereumにいたっては0.06%しかない。

いやいや、人気が出たらテイクレートも値上げするんじゃない?と思う人も多いと思うが、ブロックチェーンネットワークはCode Enforce Commitmentでテイクレートが抑制されている。最初に設定されたテイクレートはコミュニティーの合意がなければ変えることができない。これがコーポレートネットワークは会社が決めることができるREAD/WRITEの時代との大きな違い。

インフラも整ってきている。ブロックチェーンのアドレスは無機質な数字の羅列で、ユーザーフレンドリーとは言えない。数字の羅列であるIPアドレスをユーザーフレンドリーなドメイン名に変えるようなインフラが必要。それがブロックチェーンの場合はEthereum Name Serviceで、ユーザーフレンドリーなドメイン名をさまざまなネットワークで使うことができる。

ネットワークがが栄えるにはインセンティブも必要で、プロトコルネットワークとブロックチェーンネットワークの違いもここにあるとクリス・ディクソンは主張します。それがトークンインセンティブ。トークンインセンティブはブートストラップ問題も解決する。ネットワークに価値が少ない未成熟な状態(ネットワーク効果が効いていないとき)のときに貢献したユーザーが報われる。

こんだけ条件がそろったんだから、もうブロックチェーンネットワークのREAD/WRITE/OWNの時代はもうすぐだ!というのが本書の主張となります。そうだといいなとボクも思います、皮肉でなく。

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