人間には好き嫌いがあって、ダメなのはダメ。本を読んでいて「これヤバいなあ」って思うことありません?日本語だと危険信号って言えばいいのかな。英語だとレッドフラグって言います。ボクにとってレッドフラグなのがいくつかあります。
- 脳科学をリファレンスとして、右脳とか左脳とか単純な分け方をする
- 相関関係と因果関係を簡単に結びつける
- 統計の詳しい情報がない
ここ最近、立て続けにレッドフラグの書籍に三冊連続で当たって、かなりダメージを受けています。まず、一発目がアルバート・コスタの"The Bilingual Brain"です。
The Bilingual Brain: And What It Tells Us about the Science of Language
- 作者:Costa, Albert
- 発売日: 2020/05/01
- メディア: ハードカバー
まず、最初から右脳と左脳とか使っちゃってます。ジーナ・リッポンの"The Gendered Brain"にもありますが、脳はネットワークなので、単純にここの部位はこの役割と言えません。生後一ヶ月の赤ちゃんが言語を理解しているかどうかなどの実験を解説もしてくれているのですが、その科学的な根拠も(多分あるのでしょうが)詳しくは説明されません。面白いとは思うのですが、その根拠となる研究の信憑性がどうも信じられず、読み進めるのがとても苦痛でした。
二発目がジョセフ・ヘンリックの"The WEIRDest People in the World"で、これはレッドフラグのオンパレードでかなりのトンデモ本でした。
- 作者:Henrich, Joseph
- 発売日: 2020/09/10
- メディア: ハードカバー
この本は「西洋」がなぜ特殊で他の文化と比べて先進性を獲得したかを説明しています。WIREDは「変な」と言う意味ですが、西洋の(Western)、教育を受けた(educated)、工業化された(industrialized)、豊かで(rich)、民主的な(democratic)のそれぞれの頭文字をとっています。簡単に彼の主張を解説すると……
- プロテスタントは辞書を読むために文字を学ぶことを推奨した
- プロテスタントは他の宗教と比べて識字率がとても高かった
- 識字率が高いプロテスタントは脳が変質して(!)WIREDな特徴を獲得した
- そのため、先進的な技術を身につけることができ、世界を植民地化することができた
環境に合わせて脳が変質するのはいいですよ。実際にそのようだし。ただ、脳が変質したから他の文化と比べて優劣な特徴を獲得したってどうですかね?プロテスタントの識字率がカトリックより高いのはデータを示していますが、日本や中国とは比較していません。なんで、プロテスタントは全世界その他の全ての宗教と比べて識字率が高かったと言えるのか?「西洋」の先進的な技術の多くは西洋以外から輸入した考えが元になっているのはどう説明するのか?そもそも、世界を植民地化できたのは軍事力じゃないの?もう、ツッコミどころのオンパレードです。
ここ立て続けに、リテラシーを高めるような書籍(スチュワート・リッチー"Science Fictions"やカール・バーグストームとジェヴィン・ウェスト"Calling Bullshit")を読んだ影響もあるんですかね、かなり疑り深くなっているのかもしれません。それを差し引いても、この二冊は本当にヒドかった。
三冊目は指南書です。日本の書籍でも「○○するには△△しろ」みたいな断定的な指南書や「□□□力」みたいなフワッとした啓発書が多いですよね。ボクはこのような指南書や啓発書の類は苦手です(否定はしません)。それでも、たまーに『リーン・スタートアップ』のように本当に刺激されるような実用書(指南書ではない)があるので、全く無視もできません。地雷が多いのだけれど、飛び込む価値がある。
アニー・デュークの"How to Decide"は「決断力」に関する書籍です。結果を左右する要因は二つ。「運」と自分自身の「決断力」。運はコントロールできないが、自分の決断はコントロールできる。だったら、うまくコントロールして良い結果になる可能性を「決断力」で高めましょう。そう言う趣旨の本です。まあ、そうですねと。
How to Decide: Simple Tools for Making Better Choices
- 作者:Annie Duke
- 発売日: 2020/10/13
- メディア: Audible版
優れた実用書(例えばリーン・スタートアップやグロースハック)はコンセプト(WHYとWHAT)がシンプルなのですが、具体的なやり方(HOW)はたくさんあります。そのため、非常に広がりがあるんです。事例は提示されるものの、具体的なやり方(HOW)は提示されません。だからハウトゥー本(指南書)ではないんです。一方で、多くの指南書はHOWに力点がおかれるため、広がりがないし、柔軟性にも欠けます。
この本もとても面白いコンセプトだと思うんです。自分の決定を振り返るツールを提供しているし、それはきっと役に立つこともあると思います。しかし、面倒で使い続けることはできないと思う。(おそらく)この本で主張するほど汎用的でもない。投資に失敗したら、自分の投資に関する決定を理解するよりも、ちゃんと投資の勉強した方がいいもの。汎用的な決断力向上ツールってないと思ってしまう、少なくともこの書籍で紹介されているようなやり方では無理なんじゃないかな。
「読んだ本を全てここで紹介しているのではないですよ」という紹介でした。当然ながら読んでも書評を書かない場合もある。