カタパルトスープレックス

興味がない人は無理して読まなくていいんだぜ。

映画評|ひたすらTVゲーム『パックマン』をプレイするだけの映画なのに面白い|"Relaxer" by Joel Potrykus

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今回紹介するジョエル・ポトライカス監督作品"Relaxer"を簡単に説明すれば「男がひたすらテレビゲーム『パックマン』をプレイする映画」です。ジャンル的には不条理劇で密室劇。え?何が面白いの?ですよね。これがなかなか面白い映画なんです。

Relaxer (Ltd Edition) [Blu-ray]

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  • 出版社/メーカー: Powerhouse
  • 発売日: 2020/03/06
  • メディア: Blu-ray

映画の舞台は1999年7月。監督曰く、Y2K(西暦2000年)を題材にした映画がほとんどなかったので、この年代に決めたそうです。兄コム(写真左:デヴィッド・ダスマルチャン)の部屋でニンテンドー64のゲームをプレイする弟アビー(写真右:ジョシュア・バーグ)。男っぽい粗暴なコムと中性的で気の弱そうなアビー。コムはアビーにチャレンジを与えます。しかし、どうしてもアビーはチャレンジを達成できない。途中で投げ出してしまう。

そこで、コムはパックマンでレベル256を超える「ビリー・ミッチェル チャレンジ」に挑戦するようアビーをけしかけます。このチャレンジには制限があって、レベル256を超えるまで座っているソファーから決して離れてはいけない。アビーは兄のチャレンジを受け、「止めることを止める」と誓います。兄は部屋を出て、一人でソファーに座りひたすらパックマンをプレイする弟アビー。

"Relaxer"の設定はルイス・ブニュエル監督作品『皆殺しの天使』からの着想したそうです(ルイス・ブニュエル監督作品から着想を得た映画はあまりないという理由で)。

『皆殺しの天使』の場合は見えない力によって豪邸の一室に20人ほどの富裕層ゲストが閉じ込められます。"Relaxer"の場合は兄の部屋にニートっぽい弟が閉じ込められます。閉じ込められる対象は対照的ですね。また『皆殺しの天使』の場合は音楽(反復構造など)が閉じ込めるモチーフになっていますが、"Relaxer"の場合はゲームがモチーフになっています。そして、ゲーム(チャレンジ)の中のゲーム(パックマン)に閉じ込められるといういメタ構造になっています。あと、水道管や動物の使い方は完全に『皆殺しの天使』へのオマージュですね。

皆殺しの天使 (字幕版)

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  • 発売日: 2018/04/09
  • メディア: Prime Video

『皆殺しの天使』と"Relaxer"の違いは現実と妄想の境界線です。『皆殺しの天使』の場合は閉じ込める力があまり明確ではありません。その代わり、閉じ込められている環境と閉じ込められていない環境の境界線が非常に明確です。中と外が明確に描かれています。"Relaxer"の場合は閉じ込める力は兄のコムです。しかし、閉じ込められている環境はあまり明確ではありません。もちろん、兄の部屋の中の話です。しかし、そこに閉じこもっている対象であるアビーの存在が明確ではないのです。あれ?本当はもういないんじゃない?と思えたりもするのです。

『皆殺しの天使』と"Relaxer"のテーマですが、「停滞と衰退」と捉えることは可能です。でも、あまりテーマを考えるのは意味がないのかなあなんて思ったりもします。実はそこまで考えていないような。意味深に観客を惑わしてニタニタしている監督が目に浮かんできたりします。ジョエル・ポトライカス監督とルイス・ブニュエル監督はそういうイタズラっぽい天邪鬼さが共通点なような気がするんですよね。

2020年2月前半に観た映画にひとこと(観た順)

Relaxer:本作

皆殺しの天使:本作が着想を得た作品

アンカット・ダイヤモンド:最後へ向けたカタルシスがすごい